第58回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-2] 一般演題:地域 2

Sat. Nov 9, 2024 1:20 PM - 2:20 PM E会場 (204)

座長:山田 恭平(北海道千歳リハビリテーション大学 )

[ON-2-5] 商業店舗との協働による施設外就労の場づくり

中田 梨紗子, 宮崎 宏興 (いねいぶる たつの市地域活動・相談支援センター)

【序論】
 就労とは,賃金を得るために行うだけでなく,人との交流を楽しんだり社会への貢献を実感することに繋がる.また,就労支援の場では,地域の人と共に働く機会が日常化することで,施設内での受注作業だけではない気づきや経験を得られる.そして,地域の中で働くことがその人の社会での役割となり,就労支援を行うにあたっても重要なことなのではないだろうか.
【目的】
 今回,地元にある商業店舗で,新しく施設外就労を行う機会を得た.福祉施設側は,施設外での就労機会の拡大を希望しており,企業側も障害者雇用や労働力の確保に関心があったため,商業店舗内での作業を用いた就労支援として行うこととなった.今回,作業療法士は,就労環境を整えるためにどのような工夫を行ったか,また,地域で障害者と共に働くことにどのような気づきが生まれるのかを調査し,考察する.なお,発表に対して対象者の同意は得ている.
【方法】
 施設外就労の内容は,商業店舗内での商品の陳列,仕分け,客への受け渡し,片付けとした.商業店舗には作業療法士が就労支援員として同行し,商業店舗の職員も協働で作業の切り出し,編集,空間配置を行った.新しく施設外就労を行うにあたり,作業療法士は,作業と利用者のマッチングや,適正な就労環境の構築などを行った.特に,就労環境の構築では,誰が来てもできるように作業の手順を壁に貼ったり,物品の配置を一定化すること,接客時の対応を可視化することなどを行った.
【結果】
 初めての環境で作業を行う利用者にとって,①馴染みのある支援者が同行していることや,②いつでも店舗職員に尋ねられる働き方にしたことは安心安全な場づくりに繋がった.また,③作業工程や作業空間へアプローチしたことが,利用者の作業場への適応促進に繋がった.さらに,店舗職員が一緒に作業を行うことで,作業内容の確認や交流に繋がった.そして,継続的に店舗で作業を行うことで来客者とのつながりが生まれ,社会化するきっかけとなっていた.
【考察】
 今回,地元の商業店舗で新しく施設外就労を行う機会を得た.そこでは,普段から関わりのある作業療法士が同行し,店舗職員と協働で作業を行った.また,就労環境の構築を作業療法士・利用者・店舗職員が協働で創っていくことで,双方向での新たな価値観や学びが得られ,有能感が高まったと考える.さらに,来客者とのつながりは利用者の利他的行動や有能感の向上に繋がり,地域の人と共に働くことでの気づきであると感じる.社会では仕事が「できるかどうか」でその人を評価することが多いが,私たち作業療法士は,就労支援において,作業が「できるかどうか」に加え,利用者がその作業を「やろうとしている」,「できるようになりたい」という気持ちに重点を置き支援していく.多種多様な人々が暮らす現代の社会でも,今回施設外就労を行った商業店舗のように,「やろうとしている」気持ちを重視してできるまでの過程を見守るような,あいまいさを受け入れられる新しい文化の醸成が必要だと感じた.