第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-3] 一般演題:地域 3

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 E会場 (204)

座長:浅野 友佳子(たいじゅクリニック訪問リハビリテーションらいらっく )

[ON-3-2] 職業復帰に向けて自立訓練と就労移行支援を利用した高次脳機能障害者の自己認識の変化

柏木 晴子1, 塚本 倫子2, 一色 めぐみ2, 福井 樹理2 (1.名古屋市総合リハビリテーションセンター 就労支援課, 2.名古屋市総合リハビリテーションセンター 作業療法科)

【背景・目的】
 脳損傷の後遺症である自己認識の低下は,社会生活の自立度の低下や職業復帰の低下と関係があり(Toglia,2000),高次脳機能障害者に対して自己認識に焦点をあてた支援が重要とされている.しかし,社会復帰や職業復帰に至るまで自己認識にどういった変化があるかについて十分明らかにされていない現状がある.したがって本研究では,当センターの障害者支援施設の自立訓練と就労移行支援を継続して利用した高次脳機能障害者を対象に,それぞれの訓練経過における自己認識の変化を検証することとした.
【方法】
 対象者は,当センターの自立訓練と就労移行支援の福祉サービスを継続して利用した高次脳機能障害者で,取り込み基準は,主治医により脳損傷による高次脳機能障害と診断された者,また除外基準は,重度失語により説明の理解や表出が困難な者とした.自立訓練および就労移行支援の利用前後に実施している自己認識評価Self-Regulation Skills interview(SRSI)を用いて,自立訓練開始時,自立訓練終了時(就労移行支援開始時)および就労移行支援終了時,3時点における自己認識の変化を検証した.またLife Space Assessment(LSA)を用いて,自立訓練および就労移行支援前後の3時点の生活範囲の変化も検証した.分析方法は,SPSS25.0を用い, Wilcoxon符号付順位和検定によるBonferroniの方法にて3時点のSRSIおよびLSAの点数の差を検証した.有意水準は5%以下とした.本研究は当センターの倫理審査の承認を得て実施し(承認番号2022006),評価情報に関して当センターのホームページにて,研究の実施についての情報を公開し,拒否の機会を保証した.
【結果】
 対象者は,25名(平均年齢46.4±8.4歳,男性22名,女性3名)で,原因疾患は,脳血管障害18名,頭部外傷1名,低酸素脳症2名,脳炎2名,脳腫瘍2名であった.各訓練の利用日数は,自立訓練が232.9±133.4日,就労移行支援が281.7±78.3日であった.自立訓練および就労移行支援開始前後のSRSIの点数(中央値(最小値-最大値))は,成分1(問題の気づき)が6.8(0.5-10.0)→6.5(0.5-10.0)→4.8(1.5-8.5),成分3(戦略の気づき)が6.1(1.6-10.0)→6.4(1.0-10.0)→4.3(1.3-6.7)であった.各時期のSRSIの点数の差について,成分1は3時点それぞれで有意な差があり,自立訓練と就労移行支援それぞれの期間で自己認識の向上がみられたが(p<0.05),成分3は就労移行支援の期間でのみ向上がみられた(p<0.01).またLSAは,61.9±32.9→93.9±13.3→101.7±13.8と変化し,自立訓練および就労移行支援それぞれの期間で有意に点数が向上していた(p<0.05).
【考察】
 今回,SRSIの結果より,生活上の障害の気づきを示す成分1は,自立訓練と就労移行支援を通して向上し,補償手段の利用と効果についての気づきを示す成分3は,就労移行支援の期間で向上している変化が認められた.自己認識は,生活の活動範囲の拡大によって獲得されること(日坂,2021)や,実生活の経験を通して障害に気づくことで向上することが報告されている(O’callaghan,2006).本研究では,社会生活の自立や職業復帰に向けた訓練を通して,生活範囲の拡大とともに,自己認識が段階的に向上する傾向がみられた.職業復帰に向けた支援において,自己認識の程度や変化を把握することで,より適切な目標設定や介入につながる可能性が考えられる.