第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-3] 一般演題:地域 3

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 E会場 (204)

座長:浅野 友佳子(たいじゅクリニック訪問リハビリテーションらいらっく )

[ON-3-3] 就労支援利用者の役割と環境に対する認識の検証

島崎 翔子 (介護老人保健施設エスポワール越谷)

【はじめに】日本における就労支援の利用者は,精神・知的の障害が多数を占め毎年利用者数も増加傾向にある.先行研究では精神障害者の継続的な就労ためには利用者の主観的なニーズに基づく就労支援システムが必要であることが明らかにされた一方で(馬場ら2023),重度精神障害を持つ人の再就職を妨げる要因の一つは自己概念の乏しさであり(Maddineshatら2022),支援者が当事者の認識を汲み取りにくい現状がある.作業療法には,Worker Role Interview(WRI:勤労者役割面接) (Bravemaら2005)とWork Environment Impact Scale(WEIS:勤労環境影響尺度) (Moor-Cornerら1998)の就労に関連した2つ評価尺度があり,就労に関連した役割と環境に対する個人の認識を面接で明らかにすることができる.就労している精神障害者の認識に関する研究はされてきたが,就労を目指す段階での研究は行われておらず,就労支援利用者の認識を検証することでニーズに基づいた支援の確立に役立つことが期待される.
【目的】就労支援を利用する成人を対象に,役割と環境に対する認識をテキストマイニングにて検証する.
【方法】研究対象は就労支援を利用する成人であり,自分自身で研究の参加を判断できる方10名とした.被験者には日本語版のWRI,WEISを用いた個別の面接に加え,年齢,性別,診断名,就労経験と年数を聴取した.回答は逐語データとして発言のままに記載した.得られたデータはテキストマイニングで分析し,回答で多く使用された単語を抽出する頻度集計と,単語同士の繋がりを明らかにする共起ネットワーク分析を行い,尺度ごと,質問項目ごとの結果を観察した.本研究は埼玉県立大学倫理審査委員会で承認された手続きに従って行った(承認番号23047).
【結果】回答者は男性5名女性5名で,疾患別では精神障害が3名,知的障害が1名,発達障害が6名であり,知的障害の1名を除く9名に1年以上の就労経験があった.WRIへの回答の頻出語は「前向き」「仕事」が挙がり,語と語の共起では「プログラム」を中心に「就労」「関係」「良好」と共起するグループの他10グループが出現した.質問毎の頻出語では,「物理的仕事場面」への回答で「前向き」が頻出語となった.「責任を負う意欲」への回答として「意欲」が挙がるなど質問に使用された語と同じ語が上位となり,質問と語の共起では家族,上司,仲間との関係を尋ねる質問が「良好」「思う」という語との強い共起関係を生じた.WEISへの回答の頻出語は「相談」「調整」が挙がり,語と語の共起では「機会」を中心に「頻度」「グループ」「面談」と共起するグループの他5つのグループが出現した.質問毎の頻出語では「スケジュール調整」への回答として「調整」が挙がるなど質問に使用された語が上位となった.質問と語の共起では「時間管理」「身体的・認知的・情緒的調整」「スケジュール調整」の質問が「調整」という語との強い共起関係が生じた.
【考察】精神障害のある就労支援利用者を対象とした先行研究では就労支援の利用帰結は就労経験群において訓練出席率が高く(馬場ら2015),就労支援を利用する現状への肯定的な認識が継続的な利用に繋がる可能性が示唆された.また,障害者雇用の職場環境は同僚や上司との良好な対人関係が重要であり(Romeoら2020),また知的障害者の働き甲斐には当事者の自立性が関連することから(Akkermanら2017),就労支援の利用環境下でも職員への相談のしやすさと時間や日程が個人に合わせて調整可能であることが重要である可能性が示唆された.今後は障害種別や就労支援利用期間などの要因による影響をより多くのデータから検証することが期待される.