第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-3] 一般演題:地域 3

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 E会場 (204)

座長:浅野 友佳子(たいじゅクリニック訪問リハビリテーションらいらっく )

[ON-3-4] コロナ禍での認知症予防事業としての楽しさプログラムの成果

本家 寿洋1, 大山 千尋2, 小林 京子3, 千葉 幸子4, 林 孔美3 (1.北海道医療大学, 2.砂川市立病院, 3.上砂川町福祉課保健予防課, 4.花月灸縁院)

【はじめに】認知症予防は,運動を主体とした予防プログラムが注目されているが,いまだ認知症予防のエビデンスが確立していない状況(山崎,2020)である.一方で認知症高齢者が,余暇活動の楽しさ評価法(Leasure Activity Enjoyment Scale;LAES)を実施すると楽しさを思い出して余暇活動への意欲が高まり,MMSEやFIMが改善した事例(有田ら,2016)が報告された.これより高齢者が楽しさを実感すると認知機能や活動能力を維持でき認知症予防になると考え,今を楽しむための楽しさプログラム(以下,楽しさPG)を開発し,コロナ禍の2021年から3年間かけて上砂川町認知症予防事業として楽しさPGを実施した.
【目的】本研究は,認知症予防事業の楽しさPGに参加した高齢者(以下,楽しさ群)と,いきいき百歳体操参加者(以下,体操群)の両群で,認知機能や歩行スピードおよび生活満足度や意欲低下の変化量を比較し,認知症予防事業としての楽しさPGの成果を検討した.
【方法】研究デザインは単盲検非ランダム化比較試験で,大学の倫理委員会の承認を得た.対象者は,書面で研究同意を得た上砂川町のADL自立高齢者64名で,楽しさ群は38名中A地区13名(2021年実施),B地区13名(2022年実施),C地区12名(2023年実施),体操群は26名中D地区10名,E地区9名,F地区7名だった.体操群はいきいき百歳体操を40分実施し,楽しさ群はいきいき百歳体操実施後に楽しさPGを60分実施し,両群週1回の合計12回実施した.楽しさPGは配布資料を作成し,1回~9回は,LAESの18の楽しさの経験の有無を参加者に尋ね,具体的には「歌はみんなと声を合わせるので楽しいが,この楽しさは<仲間と行えるから楽しい>である」などで,10回~12回はパークゴルフ後にLAESを聴取した.主要アウトカムはMMSE,副次アウトカムはLSI-Z・やる気スコア・TUGとした.
 両群の変化量の比較は,TUGの各群の変化量の差をt検定,TUG以外の各群の変化量の差はMann-WhitneyのU検定を実施して効果量(r)を求めた.有意水準は5%未満とした.
【結果】対象者は,測定未実施者を除いた体操群23名,楽しさ群30名の合計53名になった.平均年齢は体操群が79.0±4.7歳で楽しさ群が79.3±4.7歳(p=0.902)であった.
楽しさ群38名の前後比較は,TUG平均値で事前の7.56秒±2.22から事後の7.01±1.85に改善し(p<.001),LSI-Z中央値も,16.0から18.0に改善した(p=.035).各年の楽しさ群の前後比較は,2度の緊急事態宣言の2021年やる気スコアのみ悪化傾向(p=.440)だが,その他は改善傾向を示し,2021年はTUGでp<.001,MMSEでp=.009,2022年ではTUGでp=.026,2023年度ではLSI-Zでp=.007と有意に改善した.体操群26名の前後比較は,TUG(p<.001)とやる気スコア(p=.031)とMMSE(p=.047)で有意に低下し,各年の体操群の前後比較は全ての年でMMSEとTUGが有意に低下した.
 両群の変化量の差は,MMSEでp=.025,効果量(r)=.32,LSI-Zでp=.032,効果量(r)=.31,TUGでp<.001,効果量(r)=.52となった.2021年のA地区はポールウォーキングの会を設立し,2022年のB地区は参加者で誘い合って様々な活動に参加し,2023年のC地区は参加者が食材を持ち寄って話しやすい雰囲気を設定した.
【考察】楽しさ群は,前後比較でTUGは2021年と2022年,MMSEは2021年,LSI-Zは2023年に有意に改善し,両群の比較では体操群よりもMMSE,TUG,LSI-Zで有意に改善した.また楽しさPGの全地区で,住民同士が交流の機会を増加させた.よって楽しさPGの成果は,住民の交流と活動量が増加して認知機能や歩行スピードおよび生活満足度が体操群よりも有意に改善したので認知症予防の可能性が見えてきたと考えた.本研究は,JSPS科研費JP21K02028の助成を受けた.