第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-4] 一般演題:地域 4

2024年11月9日(土) 15:40 〜 16:40 E会場 (204)

座長:久保田 智洋(アール医療専門職大学 作業療法学科)

[ON-4-3] 抑うつ症状を呈する地域在住高齢者における孤独感と生活機能低下の関連

見須 裕香, 堤本 広大, 木内 悠人, 西本 和平, 島田 裕之 (国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部)

【はじめに】
 抑うつ症状を呈する高齢者は, 健常高齢者に比べ生活機能低下を生じやすい傾向にあるため, 危険因子を特定し, 介護予防に努めることが重要である. 近年, 高齢者の社会的孤立や孤独感が公衆衛生上の懸念事項となっており, 人々の活動への参加を目標とする作業療法においても, 取り組むべき重要な課題である. 孤独感は, 生活機能の低下や抑うつ症状と関連することが報告されているが, 抑うつ症状と孤独感の併存が生活機能の低下にどのような影響を及ぼすかについては明らかになっていない.
【目的】
 抑うつ症状や孤独感といった心理的側面と健康関連因子との関連は性別によって異なることが報告されていることから, 本研究では, 抑うつ症状を呈する高齢者の孤独感と2年間の生活機能低下との関連を男女別に明らかにすることを目的とした.
【方法】
 高齢者機能健診に参加した地域在住高齢者5563名のうち, 脳卒中, うつ病, 認知症, パーキンソン病の既往歴がある者, 日常生活に介護を必要とする者, 認知機能低下を有する者を除外したうえで, Geriatric Depression Scale 15 が5点以上の抑うつ症状を呈する高齢者842名 (男性394名, 平均年齢75.0歳; 女性448名, 平均年齢74.9歳) を対象とした. 孤独感はUCLA孤独感尺度を用いて評価し, 44点以上を孤独感ありとした. ベースライン調査から2年間に新たに要支援・要介護認定を受けた場合を生活機能低下と定義した. 生活機能の低下を目的変数, 孤独感を説明変数とし, 共変量 (年齢, 教育年数, 認知機能, 慢性疾患, 服薬数, 握力, 独居, 飲酒, 喫煙) で調整したCox比例ハザードモデルを男女別に作成し, 孤独感と生活機能低下との関連を検討した. 本研究は国立長寿医療研究センターの倫理審査委員会の承認を得て実施した (1440-5).
【結果】
 2年間の追跡期間中に生活機能が低下した者は, 全体で9.9% (n=83), 男性10.2% (n=40), 女性9.6% (n=43) であった. 抑うつ症状を呈する男性においては, 孤独感と2年間の生活機能低下に有意な関連が認められなかったが (HR=1.46, 95%CI=0.65–3.25), 女性においては, 有意な関連が認められた (HR=2.05, 95%CI=1.03–4.11).
【結論】
抑うつ症状を呈する高齢者の孤独感と2年間における生活機能低下の関連は男女間で異なっていた. 特に社会的な繋がりを重視する傾向がある女性においては, 生活機能の低下を予防するうえで, 孤独感の軽減にむけた支援が重要である可能性が示唆された. 一方, 抑うつ症状を呈する男性においては, その他の戦略も考慮する必要性が示された. 地域での介護予防を目的とした作業療法においては, 対象者の性別や社会的背景を考慮した支援が求められる.