第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-4] 一般演題:地域 4

2024年11月9日(土) 15:40 〜 16:40 E会場 (204)

座長:久保田 智洋(アール医療専門職大学 作業療法学科)

[ON-4-4] 地域在住高齢者の発散的思考の経年変化

~修正版The Tinkertoy Test による検討~

三木 恵美, 山下 円香, 橋本 晋吾, 林 良太, 吉村 匡史 (関西医科大学 リハビリテーション学部)

【序論】発散的思考は遂行機能を構成する要素であり,思考の発散性,流暢性と言われる.発散的思考は社会的問題解決能力や社会適応に影響を与えるといわれ,地域で生活するために重要な機能である.発散的思考は小児から成人まで年齢による大きな差はないといわれる.しかし高齢者は加齢による生理的変化として前頭葉機能低下が生じるため,発散的思考が低下する可能性は否定できない.地域在住高齢者の発散的思考の経年変化について明らかにすることは,高齢者の地域生活継続に向けた対策の一助になると考えた.本研究では地域在住高齢者の発散的思考の経年変化の様態とその特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】地域コホート研究「高齢者こころとからだの健康チェック」に参加したもののうち修正版The Tinkertoy Test(TTT), Montreal Cognitive Assessment日本語版(MoCA-J), Trail Making Test日本版(TMT-J), Quality of Community Integration Questionnaire (QCIQ)を2年連続して完遂したものを分析対象とした.統計解析は評価項目の2回の平均値と変化量を算出し,評価および変化量間のSpearman順位相関係数ρを求めた. TTT総合得点の変化量が0以下のものを「TTT低下群」,1以上のものを「TTT向上群」として層別しMann-Whitney U検定を行った.分析にはSPSS26.0を使用し,有意水準0.05とした. 本研究は関西医科大学倫理審査委員会での承認(整理番号2020107)を受け, 対象者の同意を得て実施した.
【結果】分析対象者は7名(平均年齢74.0±7.4歳, 男性2名, 女性4名).各評価の変化量は, TTTの総合得点1.1±2.5点, 複雑さ得点0.7±2.0点, 作成プロセス得点0.4±0.8点,MoCA-Jは0.6±2.5点, TMT-Aは6.3±12.6秒, TMT-Bは5.1±29.4秒, QCIQの家庭生活統合スコア-3.3±1.4, 家庭生活満足度スコア-5.7±2.0, 社会生活統合スコア-1.0±0.8, 社会生活満足度スコア0.1±1.6, 生産性スコア-0.1±0.9, 生産性満足度スコア-0.1±0.7, Total CIQスコア-4.4±1.5, Total QCIQスコア-5.7±3.6, 認知満足度スコア1.9±2.6, 認知QOLスコア6.9±9.1であった. 各評価の2回の平均値の相関分析では, 年齢とMoCA-Jはいずれの評価項目とも相関がみられなかった. TTT(作成プロセス得点)はTMT(B), QCIQ(家庭生活満足度スコア)と有意な強い相関がみられた(ρ=-.805, .829). TMT(A, B)もQCIQ(家庭生活満足度スコア)と有意な強い相関がみられた(ρ=-.873, -.764). 各評価の変化量間の相関分析では, 年齢はいずれの変化量とも関連が見られず, TMT(B)はMoCA-JとQCIQ(生産性満足スコア)とのみ有意な強い相関が(ρ=-.847, .797)見られ, TTT(複雑さ得点)はQCIQ(Total CIQスコア)と(ρ=-.843), TTT(作成プロセス得点)はMoCA-J下位項目(抽象概念)と有意な相関がみられた(ρ=.764). 「TTT低下群」と「TTT向上群」の比較では有意な違いは見られなかった.
【考察】本研究ではTTTのいずれの項目もプラス変化であり, TTTと年齢との有意な相関も見られなかった.この結果からTTTで評価する発散的思考は加齢による影響を受けない可能性が示唆された. TTTはQCIQとの関連が認められ, 発散的思考は地域での生活能力に影響を与えるという先行研究の指摘を支持する結果が得られた. 一方TTTとMoCA-Jでは唯一TTTの作成プロセス得点とMoCA-J下位項目である抽象概念に有意な強い相関が見られた.この結果は, TTTにより評価できる認知機能の範囲に新たな示唆を与えると考える.本研究は7名の1年間の経年変化を分析したものであり得られた結果を一般化できない.対象者を増やし長期的変化について調査する必要がある.