第58回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-5] 一般演題:地域 5 

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 E会場 (204)

座長:高島 理沙(北海道大学 大学院保健科学研究院)

[ON-5-2] 認知症の人が仲間との社会参加活動を通じてデイサービスが本人の居場所となった一例

富田 寛生1, 河野 禎之2,3 (1.100BLG株式会社/BLG相模原, 2.100BLG株式会社, 3.筑波大学 人間系)

【はじめに】認知症基本法では, 認知症の人の地域・社会への参加を促している. 当デイサービスでは, 地域・社会への参加活動(以下, 社会参加活動)を通して, 地域・社会・仲間とつながり続けられる社会を目指している. 今回, レビー小体型認知症の利用者が仲間とともに社会参加活動に関わるなかで, デイサービスが本人の居場所となった一例を報告する.本人と家族からは書面で同意を得た.
【症例情報】氏名:A氏, 年齢:50歳代, 性別:男性, 診断名:レビー小体型認知症, 既往歴:糖尿病, 服薬:ドネペジル, 要介護度:要介護3, 障害高齢者の日常生活自立度:J2, 認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅲa, 家族構成:妻と二人暮らし, 職業(現在は休職中):スーパーの店員, FIM:91点(運動68点/認知23点).
【A氏及び家族の希望】A氏の希望:運動や活動ができる場に行ってみたい, ボランティアの活動に参加して役に立ちたい. 家族の希望:自宅での生活を継続できように今できることを大切にして向き合いたい.
【デイサービス利用開始前の状況】自宅での様子(カルテから):夜間に1時間ほど室内を歩き回ることが週4回程度みられる. 妻以外との対人関係は, 社会性があり友好的. 妻に対して不安時に興奮状態になることがある. 日常会話は噛み合わない場面もみられるが話をすることには積極的で, 冗談を交えた会話も多い. 家族からの情報:機能訓練型のデイサービスに通うが途中で怒ってしまい利用中止となる.
【経過】
・第一期(X年11月初旬〜下旬) 当デイサービスを利用する
 午前中はやることがないと落ち着きがなくなっていた. 昼頃には「帰っていいですか?」と話し, スタッフが対応しなんとか落ち着く. 午後は終始落ち着きがない. 活動中は比較的落ち着きがみられるが活動中に妻に連絡することや, トイレに10回程度行くなど落ち着かない様子が続く.
・第二期(X年12月初旬〜中旬) 駄菓子屋の提案・準備・開店
 元々スーパーの店員をしていたことや, 社交的な性格から, 駄菓子屋を開くことを提案する. 本人は「ぜひやりましょう」と前向きな様子であった. 開店の準備から本人に主体的に参加してもらい, 看板作りや駄菓子の仕入れ, 近所へのポスティング, 駄菓子の陳列作業等を他のメンバー(デイサービス利用者)とともに行なった. 駄菓子屋の準備をしている時期から「駄菓子屋の準備をしないといけない」や「どうやったら子どもたちが来てくれますかね?」などの発言が聞かれ活動に集中している様子がうかがえた. また, 妻への連絡もなくなり, トイレの回数も5回程度に減っていた.
・第三期(X年12月下旬〜現在) 当デイサービスが居場所となる
駄菓子屋を開店すると近所の子どもたちが駄菓子を買いに来るようになり, A氏が接客を行なった. 「こんなに来てくれるなんて本当にうれしい」と何度も話されていた. また, 「他の仕事もやらないといけないね」とその他の活動にも積極的に取り組まれる姿勢が見られた. 自ら開店準備のための清掃活動を行うことや, 駄菓子の陳列を変更するなど自発的な行動も現れた. 妻より「デイサービスに行くことを毎日楽しそうにしている」との話があった.
【考察】若年性認知症の人にとって, 社会参加は新たな役割を担い, 希望を持ち続けることができると指摘されているように, A氏は駄菓子屋の運営・管理を通して新たな役割ができ, それがA氏にとって居場所となったと考えられた. また, 認知症の人が他者と共同することでポジティブな感情や感謝の気持ちを持つことができるとの報告もあることから, 他の利用者とともに社会参加活動を行うことが, 居場所づくりに重要であることが示唆された.