第58回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-5] 一般演題:地域 5 

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 E会場 (204)

座長:高島 理沙(北海道大学 大学院保健科学研究院)

[ON-5-5] 認知症対応型通所介護事業所における地域での社会参加活動

~普及啓発・本人発信の活動支援を通じて~

伊藤 篤史1, 齊藤 千晶2, 萬屋 京典3 (1.「とんと」OHANA, 2.認知症介護研究・研修大府センター, 3.星城大学)

【はじめに】わが国では令和元年に認知症施策推進大綱が発出以降,認知症の発症を遅らせ,認知症になっても希望を持ち日常生活を過ごせる社会を目指した「共生」と「予防」を軸に施策が進められている.その中で認知症の関する理解促進を目指した普及啓発・本人発信支援,若年性認知症の人の支援・社会参加支援が施策の柱の一つとして位置づけられている.また,令和5年6月に共生社会の実現を推進するための認知症基本法が成立し,事業所も支障がない範囲で認知症の人に必要かつ合理的配慮が努力義務となった.当事業所では「認知症の人が経験談を語り,認知症の正しい理解へと繋げていく」という地域活動を一人の認知症本人(本人)と作業療法士(OT)が一体となり実施してきた.今回,この活動が共生社会実現の一端を担う可能性を検討した.
【目的】本活動の経過を振り返り,本人の思いの変化や活動による周囲への影響を考察し,今後の共生社会の為の活動に資する示唆を得る事を目的とした.
【倫理的配慮】発表に際して,本人と家族に説明し,書面にて同意を得た.また法人代表者から承諾を得た.
【症例紹介】60歳代前半の女性.50歳代前半に水道メーターの検針員の業務中に「水道メーターの位置がわからない」等の症状があり,X年に若年性アルツハイマー型認知症と診断され,翌年の契約更新時に退職となった.医師の勧めで若年性認知症本人・家族交流会に参加し,他の当事者との出会いから元気を取り戻す.50歳代後半に講演会で経験談を語る認知症本人と出会い,講演会をしたいと考えるようになった.X+7年から当事業所の利用を開始した.
【評価】X+10年1月時点でN‐ADL50点,NMスケール49点.短期記憶の低下はあるが,手帳等の代替手段により活動は可能であった.二つ以上の事柄を同時に行えないため一つずつ確認した.
【介入の基本方針】就労中の認知症の気づきや戸惑い,地域への思い等を丁寧に聞き取り,書面にて時系列に整理した.さらにOTへ認知症の普及啓発に係る講演依頼があった際に,依頼主へ本人発信の意義等を伝え,企画を提案し,場を設けた.講演はOTとの対談方式を用いて本人が話しやすいよう配慮した.
【経過】X+10年1月より約6ヶ月間で3市町村にて講演を行った.本人は講演当初は少し戸惑いがあったが,講演会直後に2人で講演内容の振り返りを行った.その際,「もう少し楽しそうな表現がよかったかな」等と話され,次回に向けて前向きな姿勢が伺えた.また,講演後アンケートも後日振り返り次回へ反映した.
【結果】X+10年7月時点で前述の評価結果に変化はなかったが,本人は講演活動の回数を重ねることで自信をもち,話されるようになった.講演から「認知症は怖い病気じゃない」「認知症になっても色々できることが分かった」等と参加者や関係者の変化を直に実感でき,本人から「もっと多くの人に認知症を知ってもらいたい」と前向きな意見が得られ,講演活動に対してさらに意欲的になった.
【考察】OTの支援により本人は,講演会という作業に打ち込むことができ,認知症であってもできることがあるという実感等から自信や意欲の向上に繋がったと考える.他方,講演会では計画通りの内容が求められるが,今回は発話内容の強制的な修正は行わず,ありのままの本人を参加者に感じてもらえるよう支援した.これにより本人は安心感を持って活動でき,参加者や関係者の反応から認知症の理解促進に寄与できたと考える.普及啓発・本人発信は事業所からも可能で,本人の声は周囲の認知症の認識と理解を正し,共生社会の一端を担うことに繋がると考える.