[ON-6-1] 外来診療における作業療法の褥瘡ケアマネジメントと限界
【はじめに】在宅では褥瘡有病患者の生活範囲は多岐にわたり,環境・ケア要因の評価に苦慮する.今回,外来診療にて多職種の情報から発生要因を分析し褥瘡治癒に至った一例から,作業療法に必要なマネジメント力,外来診療での限界を一考する.書面にて本人・家族に同意を得ている.
【症例紹介】70歳代男性,身長164cm,体重57.2kg.要介護4,障害高齢者生活自立度ランクC1,介護者は小柄な妻.既往歴は脳梗塞(左放線冠),左下腿切断.臀部の褥瘡が5か月間治癒遅延していた.車椅子座位や移乗介助時の外力による発生要因が疑われ,環境調整の目的で作業療法が外来処方された.
【作業療法評価】本人・妻に加え,ケアマネジャー,通所サービス事業所・福祉用具貸与事業所職員の同行を依頼し多岐に情報を収集した.右臀部に褥瘡分類(NPUAP)ステージⅡ,DESIGN-R10点(d2-e1s8i1g0n0p0)の創と,尾骨部にDESIGN-R2点(d2-e1s1i0g0n0p0)の創を認めた.心身機能は,臀筋の萎縮と四肢の浮腫を認め,右下肢はMMT3-で立位保持は困難.座位能力はHoffer座位能力分類2で,push up動作は可能だが行っていない.常に全身の疼痛や倦怠感の訴えがあり,本人の希望は「寝て過ごしたい,TVを観て何もしないのがいい」と活動意欲も低い.自宅ではベッド上生活で食事・TV視聴時は電動ベッドの背上げと背中にクッションを挟み過ごし,妻による姿勢修正は困難だった.排泄による創部の尿便汚染は無い.車椅子乗車時間は通所時に最大1時間,通院時に4時間であり,便座には30分座っていた.福祉用具は経済状況から,2モーターのベッド,ウレタンマットレスを配置,標準型車椅子に市販品の座クッションを設置していた.車椅子座位は,左右の傾きはなく骨盤後傾位で下腿長,座底長との不適合を認めた.座圧測定では尾骨部に130mmHg前後の圧が集中し,右臀部の創と一致しなかった.不十分な介助による便座移乗時や便座上での姿勢も創と一致しなかった.これらから,右臀部・尾骨の創はベッド上のずれと切断による右臀部圧の上昇を想定,尾骨の創は車椅子座位の影響もありと分析した.
【介入方法】電動ベッドを3モーターへ変更,圧切り替え機能付エアーマットとモジュラー型車椅子,エアークッションの貸与,スライドシートを紹介した.補装具支給による車椅子作製を提案した.ベッド背上げ操作を妻へ指導し,各職種へ姿勢の再確認と妻への再指導を依頼した.発生の要因分析を本人・妻・各職種で共有し,福祉用具の導入への理解が得られた.
【結果】介入21日後,右臀部,尾骨部の創は治癒した.ベッド上での姿勢のずれや疼痛は減少した.一方でスライドシートは未導入で,車椅子座位時間,活動に変化はなかった.座圧測定は坐骨への圧がありシーティングで調整した.創治癒にて2回目の外来診療で作業療法は終了とした.以後3か月現在も再発を認めていない.
【考察】外来診療で家族・多職種が褥瘡発生の要因を共有し,適切な福祉用具の選定と介助指導を行うことで創治癒が可能となった.一方,心身機能や活動,介護力から褥瘡発生のリスクは変わらず高い.実生活内での姿勢評価や介助指導,活動・参加への介入は情報提供が主となる外来診療では難しい.在宅での褥瘡ケアにおいて,人材・材料の不足や,局所の創が治癒しても再発予防に療養生活の支援が必要といわれている(切手俊弘,褥瘡会誌2020).外来診療で行える作業療法士の生活支援は限られるが,在宅を支える多職種との連携が有効な褥瘡ケアにつながると思われた.
【症例紹介】70歳代男性,身長164cm,体重57.2kg.要介護4,障害高齢者生活自立度ランクC1,介護者は小柄な妻.既往歴は脳梗塞(左放線冠),左下腿切断.臀部の褥瘡が5か月間治癒遅延していた.車椅子座位や移乗介助時の外力による発生要因が疑われ,環境調整の目的で作業療法が外来処方された.
【作業療法評価】本人・妻に加え,ケアマネジャー,通所サービス事業所・福祉用具貸与事業所職員の同行を依頼し多岐に情報を収集した.右臀部に褥瘡分類(NPUAP)ステージⅡ,DESIGN-R10点(d2-e1s8i1g0n0p0)の創と,尾骨部にDESIGN-R2点(d2-e1s1i0g0n0p0)の創を認めた.心身機能は,臀筋の萎縮と四肢の浮腫を認め,右下肢はMMT3-で立位保持は困難.座位能力はHoffer座位能力分類2で,push up動作は可能だが行っていない.常に全身の疼痛や倦怠感の訴えがあり,本人の希望は「寝て過ごしたい,TVを観て何もしないのがいい」と活動意欲も低い.自宅ではベッド上生活で食事・TV視聴時は電動ベッドの背上げと背中にクッションを挟み過ごし,妻による姿勢修正は困難だった.排泄による創部の尿便汚染は無い.車椅子乗車時間は通所時に最大1時間,通院時に4時間であり,便座には30分座っていた.福祉用具は経済状況から,2モーターのベッド,ウレタンマットレスを配置,標準型車椅子に市販品の座クッションを設置していた.車椅子座位は,左右の傾きはなく骨盤後傾位で下腿長,座底長との不適合を認めた.座圧測定では尾骨部に130mmHg前後の圧が集中し,右臀部の創と一致しなかった.不十分な介助による便座移乗時や便座上での姿勢も創と一致しなかった.これらから,右臀部・尾骨の創はベッド上のずれと切断による右臀部圧の上昇を想定,尾骨の創は車椅子座位の影響もありと分析した.
【介入方法】電動ベッドを3モーターへ変更,圧切り替え機能付エアーマットとモジュラー型車椅子,エアークッションの貸与,スライドシートを紹介した.補装具支給による車椅子作製を提案した.ベッド背上げ操作を妻へ指導し,各職種へ姿勢の再確認と妻への再指導を依頼した.発生の要因分析を本人・妻・各職種で共有し,福祉用具の導入への理解が得られた.
【結果】介入21日後,右臀部,尾骨部の創は治癒した.ベッド上での姿勢のずれや疼痛は減少した.一方でスライドシートは未導入で,車椅子座位時間,活動に変化はなかった.座圧測定は坐骨への圧がありシーティングで調整した.創治癒にて2回目の外来診療で作業療法は終了とした.以後3か月現在も再発を認めていない.
【考察】外来診療で家族・多職種が褥瘡発生の要因を共有し,適切な福祉用具の選定と介助指導を行うことで創治癒が可能となった.一方,心身機能や活動,介護力から褥瘡発生のリスクは変わらず高い.実生活内での姿勢評価や介助指導,活動・参加への介入は情報提供が主となる外来診療では難しい.在宅での褥瘡ケアにおいて,人材・材料の不足や,局所の創が治癒しても再発予防に療養生活の支援が必要といわれている(切手俊弘,褥瘡会誌2020).外来診療で行える作業療法士の生活支援は限られるが,在宅を支える多職種との連携が有効な褥瘡ケアにつながると思われた.