第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-6] 一般演題:地域 6 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 E会場 (204)

座長:石川 隆志(なかみちケアセンター)

[ON-6-3] 長野県木曽町における発達障害児・保護者支援に対する多職種との巡回相談システム構築に向けての作業療法士の関わり

宮脇 千史1, 小島 清香2, 松原 久江3, 中澤 容子3, 宮脇 利幸4 (1.在宅勤務, 2.木曽町役場 保健福祉課, 3.木曽町教育委員会 子育て支援課, 4.長野保健医療大学 保健科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

【はじめに】長野県西南部に位置し,県内では最大面積を占める木曽町において非常勤作業療法士として令和2年度より町立認定こども園(全4園)の巡回支援に携わってきた.作業療法士による巡回相談事業は,昨今未満児での入園が増加し,乳幼児健診後の経過観察やフォローが十分にできていない中で,支援が途切れることがないように園と保健師が連携することを目的に,双方へ助言することから始まった.4年間の作業療法士の関わりは,保健師,保育士に対し児の発達の見極めと集団の中での支援方法や保護者対応の序言,保護者に対しての相談対応,加えて医療へのつなぎ役等であった.これらの関わりは年々,役割が増し変化していった.そこで発達障害の診療環境がない地域において,作業療法士として巡回支援における役割が変化していった背景,巡回相談のシステムの構築について考察したので報告する.なお今回の報告に際し本事業の実施主体である木曽町の承諾を得ている.
【方法】対象は認定こども園(4園)に入園している園児.巡回スタッフは作業療法士,保健福祉課保健師,子育て教育課保健師,保育士,教育相談員.①園で相談が必要と判断した児の情報として,作業療法士が提案した「巡回相談シート」に保健師と担任保育士が記入②シートをもとに保育場面を観察後,個別に園長,担任,巡回スタッフでカンファレンス③必要に応じて園と家庭での困り感が共有できた保護者と作業療法士を含む巡回スタッフ,園長,担任との面談.作業療法士は,児の特性の理解と関わり方のアドバイスをおこない,必要な場合は専門医療機関へつなぐ.
【結果】「巡回依頼数と実施した延べ園数」:令和2年度は4回6園,3年度は10回12園,4年度は11回12園,5年度は15回16園であった.「延べ相談児数」:2年度17名,3年度は27名,4年度は37名,5年度は42名と巡回依頼回数及び相談児数は増加した.「保護者面談」:4年度に3名より開始し,5年度は12名実施した.「医療機関への紹介」:園より受診を勧めた児は2名だったが,さらに作業療法士から12名を受診につないだ.専門機関に受診するにあたっては,近医の紹介状が必要なため保健福祉課の保健師が町内の小児科医と連携し紹介状を準備した.
【考察】小規模町村の現状と課題としては幼児健診はなされているが,障害か否かの見極めが困難なこと,児童発達支援事業所などの療育施設や発達障害の診断やリハビリテーションが行える医療機関が自治体内や近隣にないこと,また発達障害に関しての専門的知識を有した専門家の確保が難しい点が挙げられていた.当町もその現状と等しいものであった.そのような状況下で作業療法士として関わった結果,保健師と園巡回し,保育士に健診等で要観察となった児の特性の理解と対応をアドバイスすることで,その児を含めたクラス全体の保育や活動に活かすことにつなぐことができた.さらに年度を追うごとに未満児だけではなく年少,中,長児と相談依頼が拡大し,教育相談員とともに就学を見据えた支援にもつなげることができた.令和4年度より保護者面談が始まった経緯として,園が抱いていた困り感を保護者に理解してもらうために作業療法士が一役を担ったことが大きく,次年度では面談の要望が拡大した.同様に園と保護者で困り感が共有できた結果,医療機関受診児数が増えたと考える.
今後はさらにこれまで実施してきた体制を強化するために作業療法士としての専門的な知見を出生から途切れのない支援に活かしていくことが重要である.