第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-7] 一般演題:地域 7 

2024年11月10日(日) 10:50 〜 11:50 E会場 (204)

座長:小林 法一(東京都立大学 )

[ON-7-2] 共同住宅でのコミュニティの創出と作業療法士の関与

杉浦 まり (名古屋医専)

【はじめに】筆者は複数の住居(500戸程度)が共存する共同住宅に居住しており,住宅とは別に集会所を所有している.築30年程度経過しており,一部には住民の世代交代はみられるが住宅内での高齢化は顕著で現在でも40%近く,20年後には7割近くに上るとの事(地域介護保健課より).地域包括より,この共同住宅住民対象に,健康増進目的に地域健やか体操の紹介があった.その後「通いの場」立ち上げの案内があり,一市民として地域健やか体操定着から「通いの場」活動展開に至るまで関わる機会を得たのでここに報告する.なお,本報告は同市と該当住民に報告の趣旨と同意を得ている.
【背景】高齢社会が抱える問題も多様化しており,介護及び福祉の課題と改善,増加する高齢者の一人暮らしと,それに伴って発生する「孤独死」の問題も深刻化している.誰にも看取られる事なく息を引き取り,その後相当期間放置されるような悲惨な「孤立死(孤独死)」の事例が頻繁に報道されている.場所別の死亡者数では病院の71.3%に次いで自宅での死亡割合は死亡者数全体138.1万人の約14%を占めている. また,自宅での死亡の約7割は65歳以上となっており,死因としては病死が6割を占めるが,老衰による死亡者数は年々増加しているとの報告がある(厚生労働省2019).
【目的】介護保険法における規定に,「高齢者が地域で自立した生活を営むことを可能とする地域包括ケアシステムの構築が国及び地方公共団体の責務である」との文言は飛び込んでくるが情報格差も相まってかその恩恵を受ける事ができない事もある.コミュニティを形成するための地域活動の主体として自治会を前提としているが,自治会活動が活発な地域もあれば,停滞している地域も少なくない.先行研究は総じてコミュニティの形成の重要性を指摘する傾向にあるが,実現すべく具体的方策を論考するものは少ない.今回の関与においては,集合住宅におけるコミュニティを取り巻く実態を明らかにした上でコミュニティを創造する上での具体的な道筋を模索する事が目的である.
【介入経過9ヶ月間】開始~3M:住宅隣接の公園で行われていたが,暑さのため参加者が減っていき,このままでは立ち消えになると考え,集会所で活動可能か趣旨を説明すると理解が得られ,場所の確保が可能となった.中期(3~6か月):一度は顔を出すが,次回からは継続して来る事がないという事例が3名程度見られた.この半年間に, 3回に亘り活動内容が分かるチラシを配布したが,反応は乏しかった.現在:7~10名程度で推移しており参加メンバーは固定している状況である.また,体操に集まるメンバー同士でさえ顔は知っているものの,お互いの名前も知らない状況で互いが個人情報保護法の意識が強いのか,立ち入った事までは聞かないようにしている雰囲気が強かったが,年末最後の活動の場面では帰りがけに参加者の一人から「お互い名前ぐらい知りたいわね.」という言葉が聞かれるようになった.
【考察】社会的孤立の問題解決を行政のみに求める事に反論があるかもしれないが,「通いの場」立ち上げに携わる中で住民主体の「通いの場」を住民が理解していないと思われる発言が度々聞かれた.日常の舞台の中に人間関係を結ぶための条件整備をすることは,特に初期の段階では行政主体でないと困難であると思われる.社会的孤立の予防・解消のために重要である.しかしながら個人レベルでの努力には限界があるにしても,継続的に活動を維持するには個々人が出来そうな事がたくさんある事を発見した.例えば,特定の年代に絞らず興味を持って気軽に参加できるイベントを開催する等が挙げられる.