第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-1] 一般演題:基礎研究 1

2024年11月9日(土) 15:40 〜 16:40 H会場 (207)

座長:柴田 克之(金沢大学 医薬保健学研究域保健学)

[OP-1-2] リーチ動作に伴う肩甲帯筋群活動の解明

~筋電図を用いた健常成人での検討~

豊田 正成1, 松野 豊2, 後藤 純信3 (1.医療法人社団高邦会柳川リハビリテーション病院 リハビリテーション部, 2.国際医療福祉大学福岡保健医療学部, 3.国際医療福祉大学医学部生理学講座)

【序論】対象物に手を伸ばし,把握する能力は,日常生活動作にとって重要な能力の1つである.特に,リーチ動作において肩甲帯は,上肢末梢部の操作性を発揮する為の基盤となり重要な役割を果たすと考えられている.また,リーチ動作時に上腕骨が屈曲方向に動くと共に,肩甲帯の前方突出が出現する.この運動には,僧帽筋各線維・前鋸筋等の協調的な筋活動が関与している.リーチと課題の関連に着目した先行研究では,把握特性が異なる課題へのリーチ速度の相違についての報告が主であり,形状の異なる物品に対してリーチする際の肩甲帯周囲筋活動の相違に着目した報告は,渉猟し得た範囲では認められなかった.そこで本研究では,簡易上肢機能検査項目の中で粗大な把握要素を含む大球と巧緻な把握要素を含むピンへリーチする際の僧帽筋各線維・前鋸筋の筋活動の相違を表面筋電図(EMG)とビデオ映像を用いて分析する事を目的とした.
【対象】対象は,文書で説明を行い同意が得られた成人男性14名(平均年齢は24±0.5歳で,右利き, リーチに影響を与える疾患・既往の無い者)とした.
【倫理的配慮】国際医療福祉大学倫理審査委員会【22-Ifh-007】の承認を得て実施した.
【方法】椅坐位を開始肢位とし,課題は,STEFの大球とピンへの利き手でのリーチ運動とした.リーチは,メトロノームの開始音と共に開始し,4秒かけて物品に触れ,物品に触れた最終肢位を4秒間保持する事とした.練習は,各課題3回行い本課題を5回実施する事とした.撮影には,2台のビデオカメラを使用し動作分析を実施した.動作分析では,リーチ動作を以下の5相に分けた.リーチ開始前の安静座位を0相とし,1相を肘関節屈曲の出現時期,2相を肩甲上腕関節伸展から屈曲方向への移行時期,3相を肘関節最大伸展時期,4相を物品に触れた姿勢を1秒間保持する時期と定義した.EMG 計測では,皮膚抵抗を 5kΩ 以下とし,周波数帯域幅は 20-460Hz で,サンプリング周波数は1000Hz とした.EMG時系列を,区間幅100msでRoot Mean Square を算出した.徒手筋力検査法にて100%MVC 記録時の RMS 時系列最大値を100%として,%RMS を求め課題間のリーチ相ごとの平均値推移比較を反復測定2元配置分散分析で解析した.統計ソフトは,SPSS を利用し,有意水準は5%とした.
【結果】リーチ相と課題の交互作用を認めたのは,僧帽筋上部線維(F(3,39)=4.61,p<0.05),中部線維(F(3,39)=3.21,p<0.05),下部線維(F(3,39)=4.22,p<0.05)であった.Bonferroni法の補正による多重比較検定の結果,僧帽筋上部線維では,3・4相で有意差を認めた(3相,大球:6.6±2.4%,ピン:8.7±2.8%,p<0.05,4相,大球:4.7±2.3%,ピン:7.7±2.4%,p<0.01).中部線維では,4相に有意差を認めた(大球:1.9±1.2%,ピン:2.7±1.8%,p<0.01).下部線維では,4相に有意差を認めた(大球:3.3±1.3%,ピン:4.2±1.6%,p<0.01).前鋸筋では,有意差は認められなかった.
【考察】1・2相は,両課題ともに同様のsetting phase傾向で肩甲骨周囲筋群が肩甲骨を固定する様に作用したと考えられる.3相では,ピン課題が大球課題より,Feed backを基にした手関節と指尖部による繊細なpre-shapingが必要となる為,僧帽筋上部線維を主とし,肩甲骨挙上位固定で肩甲帯の安定性を高め,リーチを減速させピンを把握する為の精度を高めたと推測される.4相では,ピン課題で,対象物に対して上肢の重みを預けるのではなく,空間上に滞空保持する課題特性が認められた.上肢を滞空保持する為,僧帽筋各線維で肩甲骨を内転・下制位固定し安定性を発揮する必要性が示唆された.