[OP-1-3] 回復期病院から自宅退院した患者が被災した場合,避難所生活で起こりうる問題について
~作業療法士の視点からの考察~
【背景】近年,大規模災害に限らず局所的な災害も頻発し,避難所などで生活を余儀なくされる可能性が増えている.東日本大震災では,災害関連死の約9割は70歳以上で,最も多い死因は「避難所等における生活の肉体的・精神的疲労」であった.回復期病院は,ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能を担っている.退院時FIMが7点6点の患者は,避難所での生活はある程度可能と思われが,FIM点数が5点以下で退院した患者については,避難所での生活に何らかの困難が生じることが予測される.
【目的】回復期病院から自宅退院した患者が被災した場合,自宅環境と異なる避難所での生活の困難感を,作業療法士の視点を用いて予測することで,回復期病院が災害関連死を未然に防ぐ役割を検討する.
【対象と方法】回答者は,当院回復期病棟に勤務する作業療法士.調査対象者は,2023年11月1日〜12月31日の間に,当院から自宅退院(居住系介護施設は含まず)した患者.場面設定は,調査対象者が退院1週間後に東日本大震災クラスの地震が発生し避難所生活を余儀なくされたと仮定.調査方法は,避難所のイメージを統一するため写真や説明文を交えたリーフレットを作成.また,調査対象者の基礎データ(年齢,性別,疾患名,介護保険,退院時FIM,HDS-R),①避難所での生活は自立できると思うか(可能を「1」不可能を「5」とした5段階評価),②避難所での生活で困ると思うこと,③その解決策(自由記述)についてアンケートを作成した.回答者はリーフレット確認後,Googleフォームでアンケートに回答.基礎データと5段階評価については単純集計を行い,自由記述に関しては,得られたデータをKJ法に準じてまとめた.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】回答者53名.アンケートは調査対象者146名に対して,116名分の回答を得た(有効回収率79.5%).調査対象者は,女性73名男性43名,平均年齢76歳,疾患は運動器77名,脳血管36名,廃用3名,HDS-R平均点は26点であった.①避難所での生活は自立できると思うかは,「1」40人,「2」36人,「3」24人,「4」6人,「5」10人で,「1」群のFIM平均合計点は121点に対し,「5」群は67点であった.介護保険は「1」群の75%が介護保険なしであったが,「5」群の40%は要介護5と,5段階評価と比例していた. ②避難所での生活で困ると思うことは, 177ラベルが抽出され,「床での生活」「移動」「入浴」「トイレ」「生活の全てにサポート」「神経心理学的要因」「心的要因」「医療的ケア」の8つの大カテゴリと,32の小カテゴリに分類された.③その解決策は176ラベルが抽出され,「物を使用した環境調整」「人的サポート」「スペースの確保」「コミュニケーション支援」「特別な配慮」の5つの大カテゴリと,30の小カテゴリとなった.
【考察】調査対象者は,HDS-R平均点26点と認知機能は保たれていた.運動器疾患患者(66%)では,避難所生活で困ることは,床上動作や移動など72%がADLに関連していた.その解決策は,物や人のサポートを工夫して行う内容が多かった.脳血管疾患患者(31%)が困ることは,高次脳機能障害が上げられた.自宅生活を全介助などで過ごしている方は,福祉避難所への優先的な移送が必要と示唆された.今回の結果から約8割の人は,避難所での生活は困難ながらも,環境調整や人的サポートを受けながら可能と判断できた.しかし,平均年齢は76歳と災害関連死のリスクと関連が高い.避難所での生活は靴や義歯がない等の些細なきっかけでADLが低下し,生活不活発へと直結する.以上から,今後,回復期病院では災害関連死予防をも視野に,本人家族への指導や環境調整を行う重要性が示唆された.
【目的】回復期病院から自宅退院した患者が被災した場合,自宅環境と異なる避難所での生活の困難感を,作業療法士の視点を用いて予測することで,回復期病院が災害関連死を未然に防ぐ役割を検討する.
【対象と方法】回答者は,当院回復期病棟に勤務する作業療法士.調査対象者は,2023年11月1日〜12月31日の間に,当院から自宅退院(居住系介護施設は含まず)した患者.場面設定は,調査対象者が退院1週間後に東日本大震災クラスの地震が発生し避難所生活を余儀なくされたと仮定.調査方法は,避難所のイメージを統一するため写真や説明文を交えたリーフレットを作成.また,調査対象者の基礎データ(年齢,性別,疾患名,介護保険,退院時FIM,HDS-R),①避難所での生活は自立できると思うか(可能を「1」不可能を「5」とした5段階評価),②避難所での生活で困ると思うこと,③その解決策(自由記述)についてアンケートを作成した.回答者はリーフレット確認後,Googleフォームでアンケートに回答.基礎データと5段階評価については単純集計を行い,自由記述に関しては,得られたデータをKJ法に準じてまとめた.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】回答者53名.アンケートは調査対象者146名に対して,116名分の回答を得た(有効回収率79.5%).調査対象者は,女性73名男性43名,平均年齢76歳,疾患は運動器77名,脳血管36名,廃用3名,HDS-R平均点は26点であった.①避難所での生活は自立できると思うかは,「1」40人,「2」36人,「3」24人,「4」6人,「5」10人で,「1」群のFIM平均合計点は121点に対し,「5」群は67点であった.介護保険は「1」群の75%が介護保険なしであったが,「5」群の40%は要介護5と,5段階評価と比例していた. ②避難所での生活で困ると思うことは, 177ラベルが抽出され,「床での生活」「移動」「入浴」「トイレ」「生活の全てにサポート」「神経心理学的要因」「心的要因」「医療的ケア」の8つの大カテゴリと,32の小カテゴリに分類された.③その解決策は176ラベルが抽出され,「物を使用した環境調整」「人的サポート」「スペースの確保」「コミュニケーション支援」「特別な配慮」の5つの大カテゴリと,30の小カテゴリとなった.
【考察】調査対象者は,HDS-R平均点26点と認知機能は保たれていた.運動器疾患患者(66%)では,避難所生活で困ることは,床上動作や移動など72%がADLに関連していた.その解決策は,物や人のサポートを工夫して行う内容が多かった.脳血管疾患患者(31%)が困ることは,高次脳機能障害が上げられた.自宅生活を全介助などで過ごしている方は,福祉避難所への優先的な移送が必要と示唆された.今回の結果から約8割の人は,避難所での生活は困難ながらも,環境調整や人的サポートを受けながら可能と判断できた.しかし,平均年齢は76歳と災害関連死のリスクと関連が高い.避難所での生活は靴や義歯がない等の些細なきっかけでADLが低下し,生活不活発へと直結する.以上から,今後,回復期病院では災害関連死予防をも視野に,本人家族への指導や環境調整を行う重要性が示唆された.