第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2

2024年11月9日(土) 16:50 〜 17:50 H会場 (207)

座長:天野 暁(長崎大学 医学部保健学科)

[OP-2-2] 振動刺激を当てる向きの違いが脊髄前角細胞の興奮性に与える影響

元島 俊弥1, 久納 健太1, 竹中 孝博2 (1.医療法人和光会山田病院 リハビリテーション部, 2.平成医療短期大学 リハビリテーション学科作業療法専攻)

【目的】脳卒中後の痙縮は,日常生活動作に影響を与える.そのため,筋緊張の抑制手法が数多く考案されているが,その1つに振動刺激がある.振動刺激は刺激筋には促通性に作用し,その拮抗筋には抑制性に作用する機序が広く知られており,臨床場面では,ハンディーマッサージャー(以下,HM)を用いて実践することが多い.しかし,HMの当てる方は,人によって様々である.HMを当てる向きの違いによって筋線維に加わる刺激が異なるため,刺激筋に及ぼす効果の程度が異なる可能性があるが,十分に検討されていない.そこで,本研究の目的は,HMの当てる向きの違いによって脊髄前角細胞の興奮性に与える影響が異なるか否かを検討することとした.
【方法】対象は右利きの健常成人12名(年齢23.4±4.1歳)とした.刺激条件は,周波数100Hz,振幅0.6㎜,刺激部位は短母指外転筋で1分間振動刺激を行った.測定肢位は背臥位で行った.使用機器は,ハンディーマッサージャーMD011(大東電機工業社製)を用いた.なお,HMを縦向きにあてる条件を縦条件,HMを横向きに当てる条件を横条件とし,被験者は各条件をそれぞれ行い,各条件の実施前後でF波を計測した.F波の記録方法は,短母指外転筋に探索電極,第一基節骨上に基準電極,前腕掌側部に接地電極を貼付した.刺激条件は,刺激部位を正中神経に刺激強度を最大M波の120%,刺激頻度を0.5Hz,刺激回数を連続30回とした.分析項目は,振幅F/M比と安静時を1とした振幅F/M比相対値とした.また,縦条件と横条件の測定は10分の間隔をあけて実施した.統計学的解析では,振動前後の比較は,Wilcoxonの符号付順位検定を実施した.各条件の刺激前後の変化量の比較は,振幅F/M比相対値を算出し,Wilcoxonの符号付順位検定を実施し,有意水準は5%とした.なお,本研究は,研究機関の研究倫理審査委員会の承認(R04-6)を得ている.
【結果】横条件における振動刺激前の振幅F/M比は0.5±0.3 %,振動刺激後の振幅F/M比は1.0±0.9%であり,刺激前と比較して刺激後において有意な差を認めなかった(p=0.08).縦条件の振動刺激前の振幅F/M比は0.3±0.2%であり,振動刺激後の振幅F/M比は0.8±0.7%であり,刺激前と比較して刺激後において有意な差を認めた(p=0.01).これらの結果を基に,各条件の振幅F/M比相対値を算出したところ,横条件は2.3±2.1,縦条件は4.0±3.9であり,縦条件の方が横条件よりも有意差を認めた.(p=0.01).
【考察】本結果では,縦条件において,刺激前と比較し,刺激後において,振幅F/M比の上昇を認めた.振動刺激は,刺激筋の筋紡錘を興奮させ,Ia線維を介して感覚が伝達され,α運動ニューロンに単シナプス性に興奮性接続することで,筋緊張を亢進させる.本研究においても振動刺激を与えたことで,刺激筋に対応する脊髄前角細胞の興奮性が高まったため,振幅F/M比の上昇を認めたと解釈される.また,縦条件と横条件における振幅F/M比相対値は,横条件に比べ,縦条件で上昇した.HMは,構造の特性上,刺激付与部分の可動性が高くなっている.そのため,横条件では,HMの可動を許すことから,刺激付与部分が十分に筋に押し当てられない一方で,縦条件では,刺激付与部分の可動を許さず,筋に十分に押し当てられていたため,各条件間に差を認めたと考えられる.しかし,刺激筋へ押し当てた荷重量の違いは十分に検討出来ておらず,解釈には慎重さが必要であり,今後更なる検討が必要である.