第58回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2

Sat. Nov 9, 2024 4:50 PM - 5:50 PM H会場 (207)

座長:天野 暁(長崎大学 医学部保健学科)

[OP-2-3] 危険回避に必要なハンドル操作中の上肢協調性パターン

岸本 進太郎1, 井原 拓哉2, 辛嶋 良介1, 後藤 剛3, 古江 幸博3 (1.社会医療法人玄真堂かわしまクリニック リハビリテーション科, 2.東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科運動器機能形態学講座, 3.社会医療法人玄真堂川嶌整形外科病院 整形外科)

【はじに】肘関節および前腕は,空間での到達や調整を担う機能を持つとされ,その機能制限は自動車運転においてハンドル操作に大きな影響を与えることが予測される.先行研究では,自動車運転に必要な上肢の関節可動域についての検証がなされている.しかし,これまでの検証は,取得した角度データのピーク値や変化量を算出するものであり,時系列で分節間の運動の関係性や優位性など動きの協調性を把握することはできなかった.Modified Vector Coding Technique(以下,MVCT)を用いることで,上腕と前腕の運動の優位性をCoupling Angle(以下,CA)として算出し,1)Proximal-phase(上腕運動優位),2)Distal-phase(前腕運動優位),3)In-phase(同位相に同程度の運動),4)Anti-phase(逆位相に同程度の運動)の4つの協調性パターンに分類することが可能である.そこで本研究では,MVCTを用いてハンドル操作中の肘,前腕の協調性パターンを定量化することを目的とした.
【方法】対象は,上肢に可動域制限のない健常成人10名とした(男性5名,女性5名,年齢36.5±6.7歳).課題はドライビングシミュレータ(Honda社製)を使用し,危険回避に必要とされるハンドル操作(回転角度:左右各60°)とした.9軸慣性センサXsens DOT(Movella社製)3台を上腕中間部外側(以下,上腕)と前腕遠位部背側(以下,前腕),ハンドル中央部に貼付し,サンプリング周波数60Hzで角速度の時系列データを取得した.各対象者はハンドルを2時と10時の方向で把持し両手でハンドル操作を左右15回ずつ施行し,安定して連続する10施行の各施行を100%に時間正規化した.次に,MVCTを用いて,上腕と前腕の角速度データについて,肘関節屈曲-伸展(以下,屈伸),前腕回内-回外(以下,回旋)の運動間のCAを算出した.さらに,解析肢を右上肢としハンドルの右回転および左回転操作中のCAを4つの協調パターンにそれぞれ分類した.なお,本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て,対象者には研究の意義,目的について十分に説明し,同意を得た後に実施した.
【結果】ハンドルを右回転させる際の協調性パターンの出現率は,屈伸運動ではIn-phaseが全体の83.8%の割合を示し,次いでDistal-phaseが10.6%であった.回旋運動ではProximal-phaseが全体の56.1%の割合を示し,In-phaseの割合は37.2%であった. ハンドルを左回転させる際の協調性パターンの出現率は,屈伸運動ではProximal-phaseが全体の49.7%の割合を示し,In-phaseの割合は32.8%であった.回旋運動ではProximal-phaseが全体の90.5%の割合を示した.
【考察】本研究では,危険回避に必要なハンドル操作における肘と前腕の協調性パターンを明らかにした.特に,右回転と左回転では異なる協調性パターンが観察され,これは運動の方向によって上肢の協調性が異なることを示唆している.この結果は,健常者を対象にしており病態の存在によりCAや協調性パターンの出現率が変化する可能性がある.そのため自動車運転時の上肢機能に関する特性を理解することにより,今後ハンドルの操作スキルの定量評価や上肢傷害後の運転者に対する安全性向上に貢献する可能性がある.