[OP-3-1] 高所が誘発する姿勢脅威下における二重課題干渉と大脳皮質の認知処理活動の特徴
【はじめに】
健常若年者は,認知パフォーマンスに対する大脳皮質の注意資源を調整することで,状況に応じて運動パフォーマンスを変化させ,二重課題干渉を最小化する(David et al. 2023).しかし,時に認知や運動パフォーマンスに対する大脳皮質活動の要求が増大することで,二重課題干渉が大きくなることが考えられる.その一つに,高所が誘発する姿勢脅威がある.高所の姿勢脅威は転落恐怖感が生じ,重心動揺の狭小(Adkin et al. 2018)などの運動パフォーマンスの変化が起こる.しかし,高所での認知,運動課題で構成される二重課題干渉の特徴や,それに関連する大脳皮質活動は明らかにされていない.
【目的】
本研究の目的は,高所が誘発する姿勢脅威下での二重課題干渉の特徴と,二重課題干渉に関連する大脳皮質の認知処理活動を検討することとした.
【方法】
対象は,事前に研究の十分な説明を行い同意が得られた若年健常成人6名(平均年齢23.71 ± 2.66歳)とした.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した.対象者は高所環境(地上0.8 m)において,認知課題(座位でフランカー課題),運動課題(動的立位姿勢制御課題),二重課題(立位でフランカー課題と動的立位姿勢制御課題)を実施した.フランカー課題は,モニター上に提示される青色または赤色の5つの矢印より構成され,全ての矢印が右または左を向き,かつ中央の矢印が青色の場合に,矢印が向く側の下肢を素早く挙上させた.この標的刺激は刺激提示全体の20%(48回)とした. 標的刺激提示に関連する脳波は,大脳皮質の認知処理活動として,国際10-20法によるCzから記録し,N200(刺激後150~300 msに出現する陰性波)の振幅と潜時を計測した.認知パフォーマンスは,認知課題と二重課題におけるフランカー課題の正答率と反応時間(標的刺激提示を0 sとし,下肢挙上開始までの時間)を計測した.運動課題時は標的刺激のみを提示した.動的立位姿勢制御課題は,標的刺激によって下肢を挙上した際のCenter of pressure(以下,COP)の前後最大移動距離を運動課題と二重課題で計測し,運動パフォーマンスの指標とした.統計は,N200振幅と潜時および認知パフォーマンスを認知課題と二重課題,運動パフォーマンスを運動課題と二重課題にて,対応のある差の検定により比較した.有意水準は5%とした.
【結果】
認知パフォーマンスにおいて,正答率に有意差はなかったが,反応時間では認知課題で632.02 ± 70.58 ms,二重課題で756.78 ± 95.89 msであり,二重課題が有意に遅延した(p < 0.01).運動パフォーマンスであるCOP前後最大移動距離において有意差はなかった.N200の最大振幅は,認知課題で–3.76μV,二重課題で–4.84μVであり,二重課題で有意に大きい振幅を示した(p < 0.05).潜時に有意差はなかった.
【考察】
結果より,二重課題時にフランカー課題の反応時間を遅延させることで,運動パフォーマンスを維持することが示唆された.高所が誘発する姿勢脅威は,転落恐怖感を引き起こし,運動パフォーマンスを優先する戦略をとった可能性がある.またN200は,刺激の識別後の運動反応に関連する大脳皮質の認知処理活動(Patel SH et al. 2005)を反映することから,本研究における二重課題時のN200振幅の増大は,高所におけるPosture-first strategyに関連していると考える.
健常若年者は,認知パフォーマンスに対する大脳皮質の注意資源を調整することで,状況に応じて運動パフォーマンスを変化させ,二重課題干渉を最小化する(David et al. 2023).しかし,時に認知や運動パフォーマンスに対する大脳皮質活動の要求が増大することで,二重課題干渉が大きくなることが考えられる.その一つに,高所が誘発する姿勢脅威がある.高所の姿勢脅威は転落恐怖感が生じ,重心動揺の狭小(Adkin et al. 2018)などの運動パフォーマンスの変化が起こる.しかし,高所での認知,運動課題で構成される二重課題干渉の特徴や,それに関連する大脳皮質活動は明らかにされていない.
【目的】
本研究の目的は,高所が誘発する姿勢脅威下での二重課題干渉の特徴と,二重課題干渉に関連する大脳皮質の認知処理活動を検討することとした.
【方法】
対象は,事前に研究の十分な説明を行い同意が得られた若年健常成人6名(平均年齢23.71 ± 2.66歳)とした.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した.対象者は高所環境(地上0.8 m)において,認知課題(座位でフランカー課題),運動課題(動的立位姿勢制御課題),二重課題(立位でフランカー課題と動的立位姿勢制御課題)を実施した.フランカー課題は,モニター上に提示される青色または赤色の5つの矢印より構成され,全ての矢印が右または左を向き,かつ中央の矢印が青色の場合に,矢印が向く側の下肢を素早く挙上させた.この標的刺激は刺激提示全体の20%(48回)とした. 標的刺激提示に関連する脳波は,大脳皮質の認知処理活動として,国際10-20法によるCzから記録し,N200(刺激後150~300 msに出現する陰性波)の振幅と潜時を計測した.認知パフォーマンスは,認知課題と二重課題におけるフランカー課題の正答率と反応時間(標的刺激提示を0 sとし,下肢挙上開始までの時間)を計測した.運動課題時は標的刺激のみを提示した.動的立位姿勢制御課題は,標的刺激によって下肢を挙上した際のCenter of pressure(以下,COP)の前後最大移動距離を運動課題と二重課題で計測し,運動パフォーマンスの指標とした.統計は,N200振幅と潜時および認知パフォーマンスを認知課題と二重課題,運動パフォーマンスを運動課題と二重課題にて,対応のある差の検定により比較した.有意水準は5%とした.
【結果】
認知パフォーマンスにおいて,正答率に有意差はなかったが,反応時間では認知課題で632.02 ± 70.58 ms,二重課題で756.78 ± 95.89 msであり,二重課題が有意に遅延した(p < 0.01).運動パフォーマンスであるCOP前後最大移動距離において有意差はなかった.N200の最大振幅は,認知課題で–3.76μV,二重課題で–4.84μVであり,二重課題で有意に大きい振幅を示した(p < 0.05).潜時に有意差はなかった.
【考察】
結果より,二重課題時にフランカー課題の反応時間を遅延させることで,運動パフォーマンスを維持することが示唆された.高所が誘発する姿勢脅威は,転落恐怖感を引き起こし,運動パフォーマンスを優先する戦略をとった可能性がある.またN200は,刺激の識別後の運動反応に関連する大脳皮質の認知処理活動(Patel SH et al. 2005)を反映することから,本研究における二重課題時のN200振幅の増大は,高所におけるPosture-first strategyに関連していると考える.