第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究 /理論

[OP-3] 一般演題:基礎研究 3/理論 1 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 H会場 (207)

座長:澄川 幸志(福島県立医科大学 )

[OP-3-2] 没入感のあるVR映像視聴時における前頭前野の脳賦活変化

矢野 羽奈1, 佐藤 菜々子2, 木村 修豪1, 平野 大輔1, 谷口 敬道1 (1.国際医療福祉大学 保健医療学部作業療法学科, 2.国際医療福祉大学病院)

【はじめに】リハビリテーションの分野でもVirtual Reality(以下VRとする)技術の積極的導入が推進されている.しかしVRを用いた治療が有用であるというエビデンスは不十分であり, 今後さらなる研究が求められている.今回, VR映像を視聴中の注意機能と覚醒に着目した. 施設入所や通所サービスの利用者に対して, VR映像で旅行や行いたいことの模擬体験をすることで脳賦活を促し, QOL維持・向上に寄与したいと考える. 本研究ではその前段階として, 没入型VR映像を視聴し探索課題を行うことで前頭前野領域の脳賦活変化が起きるのかについて, 健常成人を対象に検討した.
【目的】没入型VR映像視聴時の前頭前野領域の脳活動を明らかにする.
【方法】本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会で承認を得て行った. 対象者は右利きの健常成人30名で, 前頭前野の脳血流測定には近赤外分光法(NIRS : Near - infrared spectroscopy, 以下NIRS)を用いた. 過去に脳血管疾患の診断がないこと, 視覚に異常がないことを条件とした. NIRSの測定プローブは国際10-20法を用い, 前頭前野領域の前額部に装着した.視聴映像はヘッドマウントディスプレイを使用し再生した. 視聴映像は自然散策動画とし, 課題①視覚刺激あり(鳥を探す指示に鳥が現れる), 課題②視覚刺激なし(鳥を探す指示を出すが実際に鳥は出てこない), 課題③コントロール課題(閉眼)の3課題をランダムに視聴した.測定デザインはブロックデザインで, 閉眼と課題(動画視聴)を5回繰り返した. 探索課題終了後には各映像の課題の楽しさ, 達成感, 疲労感の主観的評価を4件法で聴取した. データ分析にはoxy-Hb濃度値を指標として用い, 全チャンネル加算し最大値を算出した. 統計解析は各課題間のoxy-Hb濃度値の比較にFriedman検定を用い, 有意水準は5%未満とした.
【結果】課題③と比較し, 鳥の出現がない課題②を視聴時の前頭前野oxy-Hb濃度値が有意に上昇した(p = 0.02). 課題①と課題②では前頭前野oxy-Hb濃度値に統計的な有意差はなかった(p = 1.00). 主観的評価では, 楽しいと答えたのは課題①で90.0%, 課題②で83.3%, 達成感があると答えたのは課題①で80.0%, 課題②で46.7%であった.
【考察】本研究結果より, 没入型VR映像視聴時に前頭前野の脳賦活が起こることが明らかとなった. 特に, 鳥を探すという探索課題に対して鳥が出現しない課題②において, 能動的注意が持続的に働いたと考えられる. また, VR映像の内容や課題の難易度によって前頭前野の賦活状態も変化する可能性がある. 今後高齢者における脳賦活を捉える場合には, さらに楽しさや達成感を考慮した映像や課題を作成していく必要がある. VR技術と脳活動の関係性を検討したことで, リハビリテーション分野でのVR技術の活用に役立つことが示唆された.