[OP-3-3] 舌への感覚刺激が脳血管性認知症モデルラットの認知機能低下に及ぼす影響
【はじめに】
我々はこれまで舌への体性感覚刺激がラットの海馬を活性化させ,成長因子の増加や細胞新生を促進させることで記憶力の増強に影響を与える可能性を報告した.しかし,認知症の中で脳血管性認知症モデルラットに対する舌への体性感覚刺激が認知機能に及ぼす影響については報告が少なく未だ明らかではない.本研究では舌刺激が脳血管性認知症モデルラットに及ぼす影響を行動学的手法,分子生物学的手法を用いて検討した.
【目的】
本研究では,正常ラットで効果的で有った舌刺激が脳血管性認知症モデルラットに及ぼす影響を行動学的手法,免疫学的手法を用いて解明することで,舌からの脳に伝えられる体性情報の意義と臨床応用への生理学的基盤を構築することを目的とした.
【方法】
Wistar系雄性ラット(体重約200g)20匹を用いて①総頚動脈非結紮群+開口のみ群(Sham Control,n=5),②両側総頚動脈結紮群(P2VO)+開口のみ群(P2VO,n=5),③両側総頚動脈結紮群+0.73 newton(N)触・圧覚舌刺激群(P2VO+TS,n=5)④両側総頚動脈結紮群+1600ng/10㎕カプサイシン痛覚舌刺激群 (P2VO+PS,n=5)の4群に分け,舌への刺激が中枢神経に及ぼす影響を調べた.舌刺激は脳血管性認知症モデル作成1週間後から行った.ラットの舌への触・圧覚舌刺激に関しては,鼻鏡を用いて開口させ,受容野は舌尖部及び舌縁部を選択し1日1回,1回あたり9回の頻度で1ヶ月間持続的に刺激した.舌刺激群では0.73 Nの強度の触・圧覚刺激を選択し,痛覚舌刺激群に対してはピペットを用いて,1回/1日,1600ng/10 ㎕のカプサイシンを直接舌に1ヶ月間投与した.コントロール群に対しては,鼻鏡による開口のみを行った.また,細胞の増殖を確認するために舌を刺激する1時間前に腹腔(I.P. Injection)に毎日1回100 mg/kgのBrdUを投与した.行動実験では,8方向放射状迷路試験,Y-maze試験,Water Maze試験,Step-down試験を行い,免疫学的手法ではc-Fos,BrdUを測定,Western Blot法ではBDNF,caspase-3を測定した. 動物の飼育および実験に関しては熊本保健科学大学実験規則を遵守した(動 20-03).
【結果】
総頚動脈結紮後開口のみを行った血管性認知症モデルラット(P2VO)群に対し,両側総頚動脈結紮後,触・圧覚刺激を行った(P2VO+TS)群で,8方向放射状迷路試験での所要時間, WMEの有意な減少,Y-maze試験での交代行動率低下,Water Maze試験での島到達時間短縮,Step Downテストでの逃避時間延長,c-Fos陽性細胞,BrdU,BDNFの優位な増加又は増加傾向を認めた.しかし,痛覚刺激を行った(P2VO+PS)群は,Water Maze試験では島到達時間の有意な短縮はみられたが,その他の有意差は認められなかった.また,Western blot法を用いた神経細胞死の検討では,P2VO群で有意なCaspase-3タンパク質の増加がみられたが,舌刺激群では若干の発現抑制がみられたものの,有意差は認められなかった.
【考察】
これらの結果から舌への触・圧覚刺激は脳血管性認知症モデルラットの海馬を活性化させ,細胞新生にも影響を与えた可能性が考えられる.その結果,脳血管性認知症での記憶力低下を改善させた可能性が示唆された.しかし,舌への刺激は細胞死に対する神経保護作用による記憶力低下改善の効果は低い可能性が示唆された.
我々はこれまで舌への体性感覚刺激がラットの海馬を活性化させ,成長因子の増加や細胞新生を促進させることで記憶力の増強に影響を与える可能性を報告した.しかし,認知症の中で脳血管性認知症モデルラットに対する舌への体性感覚刺激が認知機能に及ぼす影響については報告が少なく未だ明らかではない.本研究では舌刺激が脳血管性認知症モデルラットに及ぼす影響を行動学的手法,分子生物学的手法を用いて検討した.
【目的】
本研究では,正常ラットで効果的で有った舌刺激が脳血管性認知症モデルラットに及ぼす影響を行動学的手法,免疫学的手法を用いて解明することで,舌からの脳に伝えられる体性情報の意義と臨床応用への生理学的基盤を構築することを目的とした.
【方法】
Wistar系雄性ラット(体重約200g)20匹を用いて①総頚動脈非結紮群+開口のみ群(Sham Control,n=5),②両側総頚動脈結紮群(P2VO)+開口のみ群(P2VO,n=5),③両側総頚動脈結紮群+0.73 newton(N)触・圧覚舌刺激群(P2VO+TS,n=5)④両側総頚動脈結紮群+1600ng/10㎕カプサイシン痛覚舌刺激群 (P2VO+PS,n=5)の4群に分け,舌への刺激が中枢神経に及ぼす影響を調べた.舌刺激は脳血管性認知症モデル作成1週間後から行った.ラットの舌への触・圧覚舌刺激に関しては,鼻鏡を用いて開口させ,受容野は舌尖部及び舌縁部を選択し1日1回,1回あたり9回の頻度で1ヶ月間持続的に刺激した.舌刺激群では0.73 Nの強度の触・圧覚刺激を選択し,痛覚舌刺激群に対してはピペットを用いて,1回/1日,1600ng/10 ㎕のカプサイシンを直接舌に1ヶ月間投与した.コントロール群に対しては,鼻鏡による開口のみを行った.また,細胞の増殖を確認するために舌を刺激する1時間前に腹腔(I.P. Injection)に毎日1回100 mg/kgのBrdUを投与した.行動実験では,8方向放射状迷路試験,Y-maze試験,Water Maze試験,Step-down試験を行い,免疫学的手法ではc-Fos,BrdUを測定,Western Blot法ではBDNF,caspase-3を測定した. 動物の飼育および実験に関しては熊本保健科学大学実験規則を遵守した(動 20-03).
【結果】
総頚動脈結紮後開口のみを行った血管性認知症モデルラット(P2VO)群に対し,両側総頚動脈結紮後,触・圧覚刺激を行った(P2VO+TS)群で,8方向放射状迷路試験での所要時間, WMEの有意な減少,Y-maze試験での交代行動率低下,Water Maze試験での島到達時間短縮,Step Downテストでの逃避時間延長,c-Fos陽性細胞,BrdU,BDNFの優位な増加又は増加傾向を認めた.しかし,痛覚刺激を行った(P2VO+PS)群は,Water Maze試験では島到達時間の有意な短縮はみられたが,その他の有意差は認められなかった.また,Western blot法を用いた神経細胞死の検討では,P2VO群で有意なCaspase-3タンパク質の増加がみられたが,舌刺激群では若干の発現抑制がみられたものの,有意差は認められなかった.
【考察】
これらの結果から舌への触・圧覚刺激は脳血管性認知症モデルラットの海馬を活性化させ,細胞新生にも影響を与えた可能性が考えられる.その結果,脳血管性認知症での記憶力低下を改善させた可能性が示唆された.しかし,舌への刺激は細胞死に対する神経保護作用による記憶力低下改善の効果は低い可能性が示唆された.