[OP-3-4] 作業に対する意味づけの違いが前頭前野の脳活動に影響を及ぼすか?
~ NIRS による検討~
【背景】意味のある作業を行う必要性は,人間の基本的な欲求と位置づけられ(Yerxa,1990),意味のある作業への参加は,健康と幸福を支える(AOTA,2014).作業は,個人的,文化的に意味のある活動の一群(Zamke&Clark,1996)であり,個人の主観や生活の文脈に依存する.そのため,意味のある作業の分析には,作業の個人的経験のような主観的データを用いることが主流である.一方,主観的データを補完する方法として,神経生理学的手法が注目されている(Ellen et al., 2023).その中でも,近赤外分光法(NIRS)は,日常に近い状況での測定が可能である(Arenth et al., 2007).これまで我々は,作業を重要と認識するか否かで,動機づけに関与する前頭眼窩野(OFC)の活動の違いについてNIRSを用い明らかにしてきた(第58回日本作業療法学会).しかし,作業に対して「義務」や「願望」などの意味づけの違いによる影響を考慮できていなかった.本研究では,作業に対する意味づけの違いが前頭前野の脳活動に影響を及ぼすか否かを検討することを目的とした.
【対象と方法】作業は先行研究(第58回日本作業療法学会)と同様料理に設定した.料理を習慣的に実施しており,カナダ作業遂行測定(COPM)で重要度が8点以上の若年健常者12名(男性8名,女性4名)を対象とした.作業に対する意味づけは,吉川ら(2009)による作業の類型化から「義務」「願望」どちらに該当するか聴取した.NIRSによる測定はSpectratec社製OEG-16を使用した.測定方法は,野菜を切る課題をターゲット課題,切る模倣動作をコントロール課題に設定したブロックデザインを用い,前頭前野の酸素化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb)濃度変化を測定した.測定データの解析は,OEG-16に付随するソフトを使用し,血流動態分離法,ベースライン補正,加算平均処理を行い,ターゲット課題におけるOxy-Hb濃度変化を算出した.統計解析は意味づけにより「義務作業群」と「願望作業群」に分類し,2群間のOxy-Hb濃度変化をMann-Whitney U testで比較した(有意水準5%).本研究は,筆頭著者所属の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】義務作業群は6名,願望作業群は6名であった.2群間の前頭前野のOxy-Hb濃度変化(単位:mmM・mm)を比較した結果(それぞれ義務作業群vs願望作業群で記載),背外側前頭前野(DLPFC)では-0.012(-0.034‐0.013)vs0.019(-0.008‐0.097),前頭極(FP)では-0.013(-0.033‐0.015)vs0.035(-0.012‐0.076),前頭眼窩野(OFC)では-0.026(-0.032‐0.021)vs0.038(-0.021‐0.067)と有意差を認めた(p<0.05).
【考察】本研究では,願望作業群でDLPFC,FP,OFCの有意なOxy-Hb濃度変化を認めた.先行研究では,意味のある作業の遂行は,前頭前野の賦活を認めたと報告している(Balardin et al., 2017).また,DLPFCはワーキングメモリに関与し(船橋,2008),意思決定などの基盤とされている.これらDLPFCが関与するワーキングメモリの賦活は,行動の生成へと繋がり,行動の結果として得られる報酬をOFCが評価し,動機づけを形成する(竹田他,2012).つまり,料理をしたいという作業に対する「願望」としての意味づけが,行動や動機づけを高めることに繋がり,DLPFCやOFCを賦活する可能性があると考えられる.
【対象と方法】作業は先行研究(第58回日本作業療法学会)と同様料理に設定した.料理を習慣的に実施しており,カナダ作業遂行測定(COPM)で重要度が8点以上の若年健常者12名(男性8名,女性4名)を対象とした.作業に対する意味づけは,吉川ら(2009)による作業の類型化から「義務」「願望」どちらに該当するか聴取した.NIRSによる測定はSpectratec社製OEG-16を使用した.測定方法は,野菜を切る課題をターゲット課題,切る模倣動作をコントロール課題に設定したブロックデザインを用い,前頭前野の酸素化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb)濃度変化を測定した.測定データの解析は,OEG-16に付随するソフトを使用し,血流動態分離法,ベースライン補正,加算平均処理を行い,ターゲット課題におけるOxy-Hb濃度変化を算出した.統計解析は意味づけにより「義務作業群」と「願望作業群」に分類し,2群間のOxy-Hb濃度変化をMann-Whitney U testで比較した(有意水準5%).本研究は,筆頭著者所属の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】義務作業群は6名,願望作業群は6名であった.2群間の前頭前野のOxy-Hb濃度変化(単位:mmM・mm)を比較した結果(それぞれ義務作業群vs願望作業群で記載),背外側前頭前野(DLPFC)では-0.012(-0.034‐0.013)vs0.019(-0.008‐0.097),前頭極(FP)では-0.013(-0.033‐0.015)vs0.035(-0.012‐0.076),前頭眼窩野(OFC)では-0.026(-0.032‐0.021)vs0.038(-0.021‐0.067)と有意差を認めた(p<0.05).
【考察】本研究では,願望作業群でDLPFC,FP,OFCの有意なOxy-Hb濃度変化を認めた.先行研究では,意味のある作業の遂行は,前頭前野の賦活を認めたと報告している(Balardin et al., 2017).また,DLPFCはワーキングメモリに関与し(船橋,2008),意思決定などの基盤とされている.これらDLPFCが関与するワーキングメモリの賦活は,行動の生成へと繋がり,行動の結果として得られる報酬をOFCが評価し,動機づけを形成する(竹田他,2012).つまり,料理をしたいという作業に対する「願望」としての意味づけが,行動や動機づけを高めることに繋がり,DLPFCやOFCを賦活する可能性があると考えられる.