[PA-1-1] 普通箸操作を分類し不十分な動作を重点的に訓練した結果,動作確立に至った脳梗塞片麻痺の一例
【はじめに】左内包後脚の脳梗塞により右片麻痺,高次脳機能障害(注意・記憶障害)を呈した症例を担当した.本人のニーズとして右手での箸操作の獲得が挙げられた.そこで今回,普通箸操作を分類し不十分な動作を重点的に訓練した結果,普通箸での食事動作確立に行ったため報告する.
【倫理】発表に際し本人と家族から同意を得,十分な倫理的配慮を行った.
【症例紹介】70代男性,X年Y月Z日に左内包後脚の脳梗塞を発症し,A病院へ入院し保存的加療が行われた,Z+33病日目にリハビリテーション目的で当院へ入院となった.病前は母,兄と3人暮らしでADL・IADL自立していた.
【初期評価】入院時は意識清明で日常会話は可能だったが,注意障害を認め Trial-Making-Test(以下TMT)はA:90秒,B:208秒と低下していた.また右片麻痺が残存し, Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)はII-III-V,Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)の上肢項目は26/66点,simple test for evaluating hand function(以下STEF)は0/100点であり,粗大動作,巧緻動作ともに低下していた. Canadian Occupational Performance Measure(以下COPM)を実施し,「右手で箸を使用してご飯が食べたい」が挙げられ,遂行度・満足度共にスコア1であった. FIMは食事5点で,左上肢でスプーンを使用して摂取されていた.
【介入内容】初期から電気刺激や上肢用ロボット型運動訓練装置 (ReoGoⓇ-J)を用いた上肢機能訓練を実施し,54病日目にはFMA:33点と向上を認めたため,早期から右上肢にてバネ箸での実動作訓練を開始した.その結果,65病日目にはFMAが60点まで向上し, 随意性向上に合わせて85病日目から普通箸操作獲得に向けた訓練を開始した.箸操作を「刺す」「つまむ・切る」「すくう」「混ぜる」「くるむ」「ほぐす・分ける」の6つに分類し動作評価を行った.本症例は,「混ぜる」「くるむ」「ほぐす・分ける」の動作が不十分であったため,重点的に訓練を行うこととした.この 3種類の動作が不十分な要因として,①遠位箸の固定力低下や操作の拙劣さ,②肩関節や肘関節などの代償動作による効率の低下や食事スピードの遅延が挙げられた.①に対しては,第1・2・3指での摘まみ動作や書字動作など手内・外在筋訓練を反復的に行った.②に対しては,2ndポジションにて粗大運動を抑制し,前腕関節や手関節運動を誘導した状態で実動作訓練を行った.この際に(i)負荷量の少ないティッシュ等,(ii)粘性の低い物,(iii)粘性の高い物にて段階的に行った.結果として,遠位箸の安定性向上を認め,肘関節以遠の運動が食事場面でも積極的にみられた.122病日目には食事動作で右上肢のみ使用し,15-20分程度にて摂取可能となった.
【結果】退院時の右BRSはV-V-Vと改善し, FMAは66点,STEFが73点とそれぞれ向上を認めた.注意機能はTMTがA:66秒,B:113秒とこちらも改善を認めた.COPMでは遂行度・満足度共にスコア8であった. FIMは食事7点で,右上肢にて普通箸使用し食事動作が自力で可能となった.
【考察】本症例が普通箸使用での食事動作確立に至った要因としては,箸操作を分類し不十分な動作を集中的に訓練したこと,COPMを用いて本人にとって意味のある作業活動にアプローチしたことだと考える.箸操作を分類し,様々な特性を持った物品を用いた手指感覚入力訓練を行うことで様々な食形態に対応できるようになり,食事動作中の麻痺側上肢の使用機会を増やすことができた.またCOPMで,本人にとって意味のある作業活動を取り入れてモチベーション維持・向上に繋げることができたことも大きかった.またこの両者の介入により箸操作を獲得したことで,結果的に上肢機能が改善し,その他のADL・IADL動作向上に寄与したのではとないかと考えた.
【倫理】発表に際し本人と家族から同意を得,十分な倫理的配慮を行った.
【症例紹介】70代男性,X年Y月Z日に左内包後脚の脳梗塞を発症し,A病院へ入院し保存的加療が行われた,Z+33病日目にリハビリテーション目的で当院へ入院となった.病前は母,兄と3人暮らしでADL・IADL自立していた.
【初期評価】入院時は意識清明で日常会話は可能だったが,注意障害を認め Trial-Making-Test(以下TMT)はA:90秒,B:208秒と低下していた.また右片麻痺が残存し, Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)はII-III-V,Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)の上肢項目は26/66点,simple test for evaluating hand function(以下STEF)は0/100点であり,粗大動作,巧緻動作ともに低下していた. Canadian Occupational Performance Measure(以下COPM)を実施し,「右手で箸を使用してご飯が食べたい」が挙げられ,遂行度・満足度共にスコア1であった. FIMは食事5点で,左上肢でスプーンを使用して摂取されていた.
【介入内容】初期から電気刺激や上肢用ロボット型運動訓練装置 (ReoGoⓇ-J)を用いた上肢機能訓練を実施し,54病日目にはFMA:33点と向上を認めたため,早期から右上肢にてバネ箸での実動作訓練を開始した.その結果,65病日目にはFMAが60点まで向上し, 随意性向上に合わせて85病日目から普通箸操作獲得に向けた訓練を開始した.箸操作を「刺す」「つまむ・切る」「すくう」「混ぜる」「くるむ」「ほぐす・分ける」の6つに分類し動作評価を行った.本症例は,「混ぜる」「くるむ」「ほぐす・分ける」の動作が不十分であったため,重点的に訓練を行うこととした.この 3種類の動作が不十分な要因として,①遠位箸の固定力低下や操作の拙劣さ,②肩関節や肘関節などの代償動作による効率の低下や食事スピードの遅延が挙げられた.①に対しては,第1・2・3指での摘まみ動作や書字動作など手内・外在筋訓練を反復的に行った.②に対しては,2ndポジションにて粗大運動を抑制し,前腕関節や手関節運動を誘導した状態で実動作訓練を行った.この際に(i)負荷量の少ないティッシュ等,(ii)粘性の低い物,(iii)粘性の高い物にて段階的に行った.結果として,遠位箸の安定性向上を認め,肘関節以遠の運動が食事場面でも積極的にみられた.122病日目には食事動作で右上肢のみ使用し,15-20分程度にて摂取可能となった.
【結果】退院時の右BRSはV-V-Vと改善し, FMAは66点,STEFが73点とそれぞれ向上を認めた.注意機能はTMTがA:66秒,B:113秒とこちらも改善を認めた.COPMでは遂行度・満足度共にスコア8であった. FIMは食事7点で,右上肢にて普通箸使用し食事動作が自力で可能となった.
【考察】本症例が普通箸使用での食事動作確立に至った要因としては,箸操作を分類し不十分な動作を集中的に訓練したこと,COPMを用いて本人にとって意味のある作業活動にアプローチしたことだと考える.箸操作を分類し,様々な特性を持った物品を用いた手指感覚入力訓練を行うことで様々な食形態に対応できるようになり,食事動作中の麻痺側上肢の使用機会を増やすことができた.またCOPMで,本人にとって意味のある作業活動を取り入れてモチベーション維持・向上に繋げることができたことも大きかった.またこの両者の介入により箸操作を獲得したことで,結果的に上肢機能が改善し,その他のADL・IADL動作向上に寄与したのではとないかと考えた.