[PA-1-16] 「意味のある作業」に着目したギラン・バレー症候群の患者に対する介入
精神的な落ち込みを考慮した食事支援
【はじめに】
今回,軸索型のギラン・バレー症候群(以下,GBS)を発症した症例に食事動作の支援を行う機会を得た.両下肢の運動麻痺は軽快したが,重度の両上肢運動麻痺は残存し,精神的落ち込みを呈した.食事動作が全介助の状態から実動作を中心に段階付けを行い,3食自力摂取に至るまでの介入経過について報告する.なお,本報告は症例の同意を得ている.
【症例紹介】
60代女性.GBSの診断を受け44病日目に当院回復期リハ病棟へ転院となる.感覚障害や両上肢のROMは日常生活に支障のある制限は無く,MMTは肩関節近位筋(2/2),肘関節屈曲(3/2),伸展(3/2),前腕回内(3/3),回外(2/2),手関節背屈(2/2)手指屈曲(2/2),伸展(1/1)であった.入院時FIMは67/126点で,食事やトイレ以外の時間をベッド上で過ごし,全てのADLに介助を要していた.移動能力は歩行器を使用し,50m程度の連続歩行は可能であった.下肢の症状は比較的良好であったが,中々改善しない上肢機能や著明な全身の耐久性低下の影響で精神的な落ち込みがみられた.食事の自立に対する強い希望があったため,食事動作に着目して段階付けを行いつつ介入していくこととした.
【介入経過と結果】
介入時(44病日目)の食事動作は,自動介助のもと前腕回内位で先曲がりスプーンを使用し練習を行うが,耐久性の低下が著明で,3口程度の摂取が限界であり,食事時間が20分を超えると全量摂取が困難だった.そのため,介入初期は過負荷に注意しつつ筋力運動と併用しながら食事環境の設定を行った.保たれている肘関節の屈筋群を活かし,肘を支点とした動作が可能となる机の高さに調整し,耐久性に応じて段階的に肘の位置や机の高さ調整を行った.ポータブルスプリングバランサーを使用し負荷量にも配慮しつつ実際の食事場面で練習を行った.また,摂取環境や負荷量について食事介助に関わるスタッフに周知した.
経過の中で,自立度が変化しないことや疲労感から,「結局手が動かないと何もできないのね.」,「あの人は手が動くからいいじゃない.」といった悲観的な発言がきかれた.訴えについてはその都度改善案を一緒に考え,変化がみられた場面については具体的に本人に提示し,ポジティブフィードバックを基本とした関わりを行った.
最終的な両上肢のMMTは肩関節近位筋(2/2),肘屈曲(4/4),伸展(4/4),前腕回内(4/4),回外(4/4),手関節背屈(2/2),手関節掌屈(3/3)手指屈曲(3/3),伸展(2/2)となった.食事は病日130日目に先曲がりスプーンを使用し,自宅の食卓テーブルと同じ高さで自力摂取が可能となった.リハビリは病日152日目に自助具箸の操作練習まで実施に至った.
【考察】
舞田らは「意味のある作業」に基づく実践は単純な運動療法よりもGBS患者の心理・健康状態の改善に寄与する.」と報告している.今回,症例の主訴である「食事の自立」に関わる動作を中心に過負荷に配慮しながら段階的に介入したことで,精神的に不安定な中でも運動の継続ができ,最終的には3食の経口摂取につなげることができたと考える.症例は食事の自立を希望していたため,症例にとって実動作の練習が「意味のある作業」となった.また,今回の介入の中で,食事の環境面(机の高さ,食具)の調整,ポジティブフィードバック等の関わり方,症例に関わるスタッフに対して介入方法の伝達を行った. 実動作の練習だけでなく食事の環境面や関わり方にも配慮したことで,精神的に不安定でありながら3食自力摂取が可能になるまでリハビリを継続できたと考える. 今後も患者にとって「意味のある作業」を考えながら支援を行ってきたい.
今回,軸索型のギラン・バレー症候群(以下,GBS)を発症した症例に食事動作の支援を行う機会を得た.両下肢の運動麻痺は軽快したが,重度の両上肢運動麻痺は残存し,精神的落ち込みを呈した.食事動作が全介助の状態から実動作を中心に段階付けを行い,3食自力摂取に至るまでの介入経過について報告する.なお,本報告は症例の同意を得ている.
【症例紹介】
60代女性.GBSの診断を受け44病日目に当院回復期リハ病棟へ転院となる.感覚障害や両上肢のROMは日常生活に支障のある制限は無く,MMTは肩関節近位筋(2/2),肘関節屈曲(3/2),伸展(3/2),前腕回内(3/3),回外(2/2),手関節背屈(2/2)手指屈曲(2/2),伸展(1/1)であった.入院時FIMは67/126点で,食事やトイレ以外の時間をベッド上で過ごし,全てのADLに介助を要していた.移動能力は歩行器を使用し,50m程度の連続歩行は可能であった.下肢の症状は比較的良好であったが,中々改善しない上肢機能や著明な全身の耐久性低下の影響で精神的な落ち込みがみられた.食事の自立に対する強い希望があったため,食事動作に着目して段階付けを行いつつ介入していくこととした.
【介入経過と結果】
介入時(44病日目)の食事動作は,自動介助のもと前腕回内位で先曲がりスプーンを使用し練習を行うが,耐久性の低下が著明で,3口程度の摂取が限界であり,食事時間が20分を超えると全量摂取が困難だった.そのため,介入初期は過負荷に注意しつつ筋力運動と併用しながら食事環境の設定を行った.保たれている肘関節の屈筋群を活かし,肘を支点とした動作が可能となる机の高さに調整し,耐久性に応じて段階的に肘の位置や机の高さ調整を行った.ポータブルスプリングバランサーを使用し負荷量にも配慮しつつ実際の食事場面で練習を行った.また,摂取環境や負荷量について食事介助に関わるスタッフに周知した.
経過の中で,自立度が変化しないことや疲労感から,「結局手が動かないと何もできないのね.」,「あの人は手が動くからいいじゃない.」といった悲観的な発言がきかれた.訴えについてはその都度改善案を一緒に考え,変化がみられた場面については具体的に本人に提示し,ポジティブフィードバックを基本とした関わりを行った.
最終的な両上肢のMMTは肩関節近位筋(2/2),肘屈曲(4/4),伸展(4/4),前腕回内(4/4),回外(4/4),手関節背屈(2/2),手関節掌屈(3/3)手指屈曲(3/3),伸展(2/2)となった.食事は病日130日目に先曲がりスプーンを使用し,自宅の食卓テーブルと同じ高さで自力摂取が可能となった.リハビリは病日152日目に自助具箸の操作練習まで実施に至った.
【考察】
舞田らは「意味のある作業」に基づく実践は単純な運動療法よりもGBS患者の心理・健康状態の改善に寄与する.」と報告している.今回,症例の主訴である「食事の自立」に関わる動作を中心に過負荷に配慮しながら段階的に介入したことで,精神的に不安定な中でも運動の継続ができ,最終的には3食の経口摂取につなげることができたと考える.症例は食事の自立を希望していたため,症例にとって実動作の練習が「意味のある作業」となった.また,今回の介入の中で,食事の環境面(机の高さ,食具)の調整,ポジティブフィードバック等の関わり方,症例に関わるスタッフに対して介入方法の伝達を行った. 実動作の練習だけでなく食事の環境面や関わり方にも配慮したことで,精神的に不安定でありながら3食自力摂取が可能になるまでリハビリを継続できたと考える. 今後も患者にとって「意味のある作業」を考えながら支援を行ってきたい.