第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-1-2] 重度失語症患者に対するADOCでの意味のある作業の共有とCBAを用いた関わりが家事動作の再獲得に繋がった事例

山本 大稀1,2, 近藤 実咲1, 川村 遥1, 鴻上 雄一1, 古田 亮一1 (1.社会医療法人柏葉会 柏葉脳神経外科病院  リハビリテーション科, 2.札幌医科大学大学院 保健医療学研究科 博士課程前期 理学療法学・作業療法学専攻 活動能力障害学分野)

【はじめに】Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下ADOC)は,対象者と作業療法士との意味のある作業を共有し,協働的に目標設定を行うことを促進するツールであり,失語症を呈した対象者にも有用であると報告されている(斎藤ら,2012).また,認知行動関連アセスメント(以下CBA)は,認知機能の行動観察評価であり,認知機能の重症度別の関わりが示されている(森田,2014).今回,ADOCを用いて対象者の意味のある作業で上がった家事に関して,CBAを用い,段階的な家事動作訓練を通して,家事の再獲得に繋がった事例に関して報告する.
【事例】80歳代女性,左内包から放線冠梗塞で入院し,翌日左尾状核から被殻に出血性梗塞を認めた.病前は2世帯住宅にて夫,息子夫婦と暮らしており,家事全般の役割を担っていた.本報告に際し,ご本人,ご家族より書面にて同意を得ている.
【作業療法評価・介入】32病日目に担当となり,初回面接を実施.主訴は言葉が出ないであった.身体機能は極軽度の右片麻痺を認めたが,生活上には支障を認めなかった.高次脳機能は,Kohs立方体組み合わせテスト(以下Kohs)はIQ51,レーブン色彩マトリックス検査(以下RCPM)は26点,標準失語症検査(以下SLTA)では重度の皮質下性失語を認め,理解は短文レベルから低下していたが,聴理解に比して読解面の方が良好であった.表出面では,喚語困難と音韻性錯語を認めていたが,ジェスチャーやYes-Noの反応を自ら用いていた.運動FIMは57点で移動を含むADL全般に見守りや声掛けを要したが,ナースコールでスタッフを呼ぶ等の問題解決は行えていた.この様な生活場面からCBAは23点で重症度は軽度と評価した.さらに,理解並びに表出面からADOCにて対象者にとって意味のある作業の表出は可能と判断し,ADOCでは炊事(満足度3),洗濯(満足度3),掃除(満足度3)が上がった.CBAの重症度から状況理解が良好であり,実際の作業場面で対象者が対応出来ることが必要であると考え,介入方針は,ADOCから上がった作業に対してCBAを下に難易度を段階的に調整して調理訓練を中心に実施することとした.調理訓練では,調味料や工程の少ない物から実施して,ご本人と遂行できたことを確認した上で炊飯等の数字を要するものや複数品の調理を実施した.開始時は目盛りの読み間違いや同時並行が出来ない場面も見られたが,同一調理環境下で複数回実施したことで上記のエラーは無く,複数品の作成も可能になった.
【結果】93病日目自宅退院となる.退院前評価では,高次脳機能は,KohsIQ51,RCPM31点で,SLTAでは重から中等度の皮質下性失語は残存し,理解面は短文レベルでの低下を認めたものの,読解能力の向上に伴い,書字命令は5割正答であった.表出面は喚語困難,音韻性錯語は残存し,聞き手の推測は必要であった.しかし,CBAは,生活面でジェスチャー等を用いて他スタッフやご家族に依頼するといった症状に対して状況にあった判断を行っており,29点と向上を認めた.運動FIMは88点となり,ADOCの満足度は炊事(満足度3),洗濯(満足度4),掃除(満足度5)となった.調理は「帰ってみて確かめる」との発言が聞かれた.
【考察】今回,重度失語症を呈した事例に対してADOCを用い家事動作に焦点を当て,CBA上認知機能の重症度は軽度であったことから重症度に合わせた実際の家事動作訓練を実施した結果,家事動作の満足度の向上や調理動作の再獲得に繋がった.失語症を呈した方にこの様な意味のある作業の再獲得にはADOCといった非言語的ツールに加え,CBAの様な観察評価によって認知機能を捉え,介入や関わり方を検討していくことが重要であると考えられる.