[PA-1-3] 多発性脳梗塞患者に対して目標共有ツールADOC2を使用し方針の明確化と目標達成を認めた一例
【はじめに】既往に多発性脳梗塞を認め,新規脳梗塞発症により多岐に渡る症状が出現し,介入方針が定まりづらい症例に対して,目標共有ツールAid for Decision-making in Occupation Choice 2(以下,ADOC2)を用いて活動レベルの目標を設定・共有した. 作業療法の方針を決定し,身体・高次脳及び環境面それぞれに着目し,多角的に介入した結果,訓練意欲や目標への達成度の向上を認めたため経過を報告する.本報告に際し,事例に同意を得た.
【事例紹介】60歳代男性右利き.現病歴:左上下肢麻痺を発症しラクナ梗塞と診断され入院,第40病日より当院回復期病棟へ転入院.既往歴:多発性脳梗塞,網膜色素変性症を有した.
【初期評価(41~51病日)】神経学的所見:意識清明,Fugl-Meyer Assessment 上肢(以下, FMA)32/66点,表在・深部感覚軽度鈍麻,体幹機能評価Trunk Impairment Scale (以下,TIS)6/23点,プッシャー症候群評価Scale for Contraversive Pushing(以下,SCP)3/3点 ,Mini Mental State Examination-Japanese 25/30点.半側身体失認評価Fluff test8/24点,BIT行動性無視検査(以下,BIT)115/146点で抹消課題は全般に見落としあり,人物描画は身体枠のみ描出しボディイメージの低下を認めた.病棟ADL:動作中周囲に注意が逸れやすく,基本動作全般に介助を要し,日中は臥床傾向であった.意欲評価Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下,PRPS)4点で訓練は受け身的,帰宅願望も認めた.プッシャー症候群の軽減を目的に座位で重心移動練習を行うことで,介助量軽減は図れるが,生活へ汎化は困難だった.今回,介入方針を事例と共有するためADOC2を用いると,目標の1つに起き上がり動作が挙げられた.満足度1/5点,実行度3/5点であった.
【経過】ADOC2で設定した起き上がり動作の獲得のため,身体機能,高次脳機能及び環境のそれぞれに介入した.
第1期(52~76病日)岡田ら(2014)を基に起き上がり動作を7相に分け各相の反復練習を実施した.重心変化に注意を向け,実施後に動作を阻害した要因の言語化を促した.結果,動作手順の定着は認めたが,on elbowからon handで介助を要し,所要時間は5~15分と実用性は低かった.
第2期(77~104病日)起き上がり動作中,周囲に意識が向き,自己身体へ注意が向かなかった.そこで,高次能面では左半身へ注意を向けるため開眼・閉眼で身体へのセルフタッチを実施し,環境面では病室での動作時に注意が逸れる物品を見えない位置に調整した.
【結果】FMA:34/66点,SCP:0.8/3点,TIS:9/23点.BIT:134/146点,人物描画にて顔や四肢体幹の描出可能.Fluff test:18/24点.PRPS:5点,ADOC2:満足度4/5点,実行度5/5点 へ向上した.起き上がり動作は30秒〜1分半で完了し,動作成功時の達成感が得られ,積極的な訓練の参加がみられた.「起き上がる時のイメージがわかった」と発言もあり,左上肢含め動作に適した自己身体の使い方が可能となった.また,車椅子駆動自立となり生活上の行動範囲が拡大した.
【考察】介入に難渋した事例に対し,ADOC2を用いて活動レベルで目標設定した結果,介入や支援の方向性が明確となり,訓練意欲や目標の達成度向上を認めた.Locke(1968)の目標設定理論では,自発的な目標設定,具体的な期間を示すことが意欲の向上に関与すると報告されている.ADOC2は満足度に加え,初版にはない実行度の測定,目標に対する期間及び介入方法を選択でき,支援計画書に方針を明示できるため,円滑に介入しやすい利点があった.またこれらの方法により,訓練意義がより伝わり,訓練意欲の向上にも影響したと考えられた.
【事例紹介】60歳代男性右利き.現病歴:左上下肢麻痺を発症しラクナ梗塞と診断され入院,第40病日より当院回復期病棟へ転入院.既往歴:多発性脳梗塞,網膜色素変性症を有した.
【初期評価(41~51病日)】神経学的所見:意識清明,Fugl-Meyer Assessment 上肢(以下, FMA)32/66点,表在・深部感覚軽度鈍麻,体幹機能評価Trunk Impairment Scale (以下,TIS)6/23点,プッシャー症候群評価Scale for Contraversive Pushing(以下,SCP)3/3点 ,Mini Mental State Examination-Japanese 25/30点.半側身体失認評価Fluff test8/24点,BIT行動性無視検査(以下,BIT)115/146点で抹消課題は全般に見落としあり,人物描画は身体枠のみ描出しボディイメージの低下を認めた.病棟ADL:動作中周囲に注意が逸れやすく,基本動作全般に介助を要し,日中は臥床傾向であった.意欲評価Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下,PRPS)4点で訓練は受け身的,帰宅願望も認めた.プッシャー症候群の軽減を目的に座位で重心移動練習を行うことで,介助量軽減は図れるが,生活へ汎化は困難だった.今回,介入方針を事例と共有するためADOC2を用いると,目標の1つに起き上がり動作が挙げられた.満足度1/5点,実行度3/5点であった.
【経過】ADOC2で設定した起き上がり動作の獲得のため,身体機能,高次脳機能及び環境のそれぞれに介入した.
第1期(52~76病日)岡田ら(2014)を基に起き上がり動作を7相に分け各相の反復練習を実施した.重心変化に注意を向け,実施後に動作を阻害した要因の言語化を促した.結果,動作手順の定着は認めたが,on elbowからon handで介助を要し,所要時間は5~15分と実用性は低かった.
第2期(77~104病日)起き上がり動作中,周囲に意識が向き,自己身体へ注意が向かなかった.そこで,高次能面では左半身へ注意を向けるため開眼・閉眼で身体へのセルフタッチを実施し,環境面では病室での動作時に注意が逸れる物品を見えない位置に調整した.
【結果】FMA:34/66点,SCP:0.8/3点,TIS:9/23点.BIT:134/146点,人物描画にて顔や四肢体幹の描出可能.Fluff test:18/24点.PRPS:5点,ADOC2:満足度4/5点,実行度5/5点 へ向上した.起き上がり動作は30秒〜1分半で完了し,動作成功時の達成感が得られ,積極的な訓練の参加がみられた.「起き上がる時のイメージがわかった」と発言もあり,左上肢含め動作に適した自己身体の使い方が可能となった.また,車椅子駆動自立となり生活上の行動範囲が拡大した.
【考察】介入に難渋した事例に対し,ADOC2を用いて活動レベルで目標設定した結果,介入や支援の方向性が明確となり,訓練意欲や目標の達成度向上を認めた.Locke(1968)の目標設定理論では,自発的な目標設定,具体的な期間を示すことが意欲の向上に関与すると報告されている.ADOC2は満足度に加え,初版にはない実行度の測定,目標に対する期間及び介入方法を選択でき,支援計画書に方針を明示できるため,円滑に介入しやすい利点があった.またこれらの方法により,訓練意義がより伝わり,訓練意欲の向上にも影響したと考えられた.