第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-1-9] 自宅退院という最大の動機づけがCOPMで共有した具体的な目標達成のきっかけとなった重度介護四肢麻痺症例

中井 法子1, 中井 俊輔1,2, 磯野 理3 (1.京都民医連あすかい病院リハビリテーション部, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 3.京都民医連あすかい病院神経内科)

【はじめに】COPMはクライエントの作業遂行の主観的経験を測定する評価法として広く用いられている.今回,橋出血,延髄梗塞により四肢麻痺を呈し,動作全般に重度介助を要する患者を担当し,COPMにて目標を共有して介入を行った.自宅退院という最大の動機づけが具体的な目標の設定を可能にし,自助具の作成やより実践的な練習成果がさらなるモチベーション向上に繋がり,その結果,COPMの点数が向上して退院したため報告する.なお,報告にあたっては患者本人に口頭で趣旨を説明し同意を得た.
【症例紹介】60代後半の女性,病前は日常生活動作(以下,ADL),手段的日常生活動作(IADL)ともに自立していた.ある日,四肢感覚障害を認め,2日後に痺れが増悪,橋左側の脳出血,出血尾側の延髄に脳梗塞を認め,四肢麻痺が生じた.発症から77日後に当院回復期リハビリテーション病棟に転院した.
【作業療法評価】四肢麻痺を認めBrunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)で両上肢,手指,下肢とも3,関節可動域は上肢,手指に中等度の制限を認め,感覚は四肢に自他覚とも軽度の障害を認めた. FIMは運動項目13点で全項目全介助, 認知機能は長谷川式認知症スケール(HDS-R)29点と保たれていた.
【COPM介入までの経過】初期では自動介助での上肢運動を中心に行った.入院当初は「こんな状態では家族に迷惑をかけるだけ」「施設には行きたくない」など悲観的な発言が多かった.しかし家族が話合い,退院後娘家族と同居する方針が決まったことが本人の意欲を大きく変化させ,上肢の運動範囲の拡大とともに,「食事ができるようになりたい,友人とコンサートに行きたい」と前向きな発言が増した.そのためこの時点でCOPMを用いて重要度の高い活動やその遂行度と満足度を評価した.COPMで重要度が高かった作業とその評定は,「食事の自力摂取」が遂行度1満足度1,「スマートフォンやタブレットの操作」が遂行度1満足度 2,「外出をする」が遂行度1満足度1であった.
【COPM介入の経過】この評価をもとに,食事の自力摂取や電子機器の操作を本症例の目標として共有し介入を行った.まずは食事の自力摂取を目標とした両上肢の課題指向型練習に併せ,手指屈曲制限に合わせた太柄のスプーンで安定して把持でき,自力摂取が3割程度可能となった.電子機器の操作は,リハビリ以外の実践的訓練のために病室の環境を調整し,前方リーチを補う自助具を作成,病室内で実動作練習を反復した.その結果,リハビリ時間外にも電子機器の操作が可能になった.介入後期には,電動車いすの操作練習を開始した.手指屈曲制限には,手の形状に沿う操作スティックを作成し,電動車いすを操作し外出が可能となった.その後,自宅内の環境調整や家族指導などを経て発症から221日後に自宅退院した.最終的に,BRSは両上肢3,手指5,下肢3と手指のみ改善,FIMは食事動作のみ2点に改善したが,その他,運動項目各1点の合計14点と大幅な改善はなかった. COPMは「食事の自力摂取」が遂行度8満足度8,「スマートフォン・タブレット操作」が遂行度6満足度6,「外出をする」が遂行度8満足度9と向上した.
【考察】本症例は自宅退院という大きな目標がリハビリに対する最大の動機づけとなった.それにより,症例の気持ちが前向きになったことで,COPMが活用でき,退院後の生活を想定した具体的な目標を共有することができた.その結果,FIMの点数は変化がなかったが,COPMの点数向上に繋がった.このようにCOPMは個々の能力,ライフスタイルに合わせた目標に対する患者自身の評価を測定する点が,まさに吉川ひろみ(2008)のいうクライエント中心の作業療法と言える.