[PA-2-12] 運動学習により座位姿勢で下衣の足通し動作に介入した症例報告
早期更衣動作自立のために許容できる代償動作を考える
【はじめに】本症例は座位姿勢での下衣の足通し動作(以下,足通し)で, 下方リーチをした際に座位姿勢保持が困難な為,体幹を大きく前屈して行っていたがうまく足通しができなかった.今回は代償動作を許容し,運動学習理論に基づいたフィードバック(以下,FB)を行った結果,体幹を起こした状態で足通し動作が可能となり更衣動作が修正自立となった症例を報告する.また,この報告は倫理手続きに順守する.
【症例紹介】症例は90歳代女性で発症前は独居.ADL自立しており,屋内は伝い歩きで移動していた.X年X月X日脱力にて転倒し,呂律不良が出現.2病日後,頭部MRI にて左中大脳動脈領域に梗塞巣,MRAにて左内頚動脈高度狭窄を認め,アテローム性左脳梗塞と診断された.27病日,当院回復期病棟に入院.入院時評価はStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)motor右側上肢4-3,下肢4-4-4,上肢表在感覚1,深部感覚2,腹筋力2,垂直性3,視空間認知3.簡易上肢機能検査(以下,STEF)は右/左=25/79点.Functional Independence Measure(以下,FIM)は運動項目40/91点で更衣下衣2点.精神状態短時間検査改訂日本版(以下,MMSE-J)は20/30点.介入初期の下衣更衣の問題点として,①股関節屈曲が不十分で抗重力位で保持できないため体幹を前傾させて足通しすること,②股関節を屈曲しようとすると座位姿勢を保てず後方にバランスを崩してしまうことが挙げられた.
【介入方法】介入初期には①の問題点に対して,支援システムや補助を行ってでも下肢を持ち上げて足通しができることを学習する段階とし,プラットホームにて座位での股関節屈曲運動や輪を足に通す部分練習を支持物や座面を把持して行った.この時のKnowledge of Result (以下,KR)は下肢を持ち上げて輪が通せたことを可とし, Knowledge of Performance (以下,KP)は上肢のリーチ時に体幹が前屈しないようFBを行った.また,体幹を補助して,ある一定の帯域から前屈しなければ可とした.介入中期には②の問題点に対して,代償動作を許容して座位姿勢を保持できる足通しができることを学習する段階とした.自室ベッドで衣服を使用して足通しの部分練習を実施した.KRは座位バランスを崩さず足通しができたことを可とし, KPは初期と同様に上肢のリーチ時体幹が前屈しないこととした.骨盤後傾で代償しても,ある一定の帯域から後方に倒れ込まなければ可とした.
【結果】端座位での足通しが骨盤と体幹の代償動作を活用して可能となった.69病日の退院時評価ではSIAS motor上肢4-4,下肢4-4-4,上肢表在感覚3,深部感覚3,腹筋力3,垂直性3,視空間認知3. STEFは61/89点.FIM運動項目76/91点,下衣更衣6点. MMSE-Jは26/30点.退院後は介護老人保健施設へ入所し自室内ADL修正自立となった.
【考察】本症例は足通しの際に体幹を大きく前屈させる代償を行い,重心が前方に移動している為つま先しか持ち上がらずうまく足通しができなかった.そこで体幹を前屈する代償を抑制して,上肢のリーチと股関節屈曲保持を成立させることを課題とした.座位での下衣着脱動作において,股関節最大屈曲時に体幹保持に働くのは内腹斜筋,外腹斜筋である.骨盤後傾角度が増加すると腹筋群の筋活動は減少する(能崎ら,2009).本症例の背景を考慮すると骨盤後傾や上部体幹の代償は許容し後方に倒れない程度の重心移動で足が通せるようになることを目標と考えた.
今回のような足通しの問題は臨床の場でよく出会うが,患者によっては正常動作で獲得困難な場合もあり,正常動作に拘りすぎると学習に繋がらない可能性もある.許容できる代償動作を考えておくことや練習段階ごとに最適課題になるように難易度やFBを変えることで効率よく運動学習が進むと考えられた.
【症例紹介】症例は90歳代女性で発症前は独居.ADL自立しており,屋内は伝い歩きで移動していた.X年X月X日脱力にて転倒し,呂律不良が出現.2病日後,頭部MRI にて左中大脳動脈領域に梗塞巣,MRAにて左内頚動脈高度狭窄を認め,アテローム性左脳梗塞と診断された.27病日,当院回復期病棟に入院.入院時評価はStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)motor右側上肢4-3,下肢4-4-4,上肢表在感覚1,深部感覚2,腹筋力2,垂直性3,視空間認知3.簡易上肢機能検査(以下,STEF)は右/左=25/79点.Functional Independence Measure(以下,FIM)は運動項目40/91点で更衣下衣2点.精神状態短時間検査改訂日本版(以下,MMSE-J)は20/30点.介入初期の下衣更衣の問題点として,①股関節屈曲が不十分で抗重力位で保持できないため体幹を前傾させて足通しすること,②股関節を屈曲しようとすると座位姿勢を保てず後方にバランスを崩してしまうことが挙げられた.
【介入方法】介入初期には①の問題点に対して,支援システムや補助を行ってでも下肢を持ち上げて足通しができることを学習する段階とし,プラットホームにて座位での股関節屈曲運動や輪を足に通す部分練習を支持物や座面を把持して行った.この時のKnowledge of Result (以下,KR)は下肢を持ち上げて輪が通せたことを可とし, Knowledge of Performance (以下,KP)は上肢のリーチ時に体幹が前屈しないようFBを行った.また,体幹を補助して,ある一定の帯域から前屈しなければ可とした.介入中期には②の問題点に対して,代償動作を許容して座位姿勢を保持できる足通しができることを学習する段階とした.自室ベッドで衣服を使用して足通しの部分練習を実施した.KRは座位バランスを崩さず足通しができたことを可とし, KPは初期と同様に上肢のリーチ時体幹が前屈しないこととした.骨盤後傾で代償しても,ある一定の帯域から後方に倒れ込まなければ可とした.
【結果】端座位での足通しが骨盤と体幹の代償動作を活用して可能となった.69病日の退院時評価ではSIAS motor上肢4-4,下肢4-4-4,上肢表在感覚3,深部感覚3,腹筋力3,垂直性3,視空間認知3. STEFは61/89点.FIM運動項目76/91点,下衣更衣6点. MMSE-Jは26/30点.退院後は介護老人保健施設へ入所し自室内ADL修正自立となった.
【考察】本症例は足通しの際に体幹を大きく前屈させる代償を行い,重心が前方に移動している為つま先しか持ち上がらずうまく足通しができなかった.そこで体幹を前屈する代償を抑制して,上肢のリーチと股関節屈曲保持を成立させることを課題とした.座位での下衣着脱動作において,股関節最大屈曲時に体幹保持に働くのは内腹斜筋,外腹斜筋である.骨盤後傾角度が増加すると腹筋群の筋活動は減少する(能崎ら,2009).本症例の背景を考慮すると骨盤後傾や上部体幹の代償は許容し後方に倒れない程度の重心移動で足が通せるようになることを目標と考えた.
今回のような足通しの問題は臨床の場でよく出会うが,患者によっては正常動作で獲得困難な場合もあり,正常動作に拘りすぎると学習に繋がらない可能性もある.許容できる代償動作を考えておくことや練習段階ごとに最適課題になるように難易度やFBを変えることで効率よく運動学習が進むと考えられた.