第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

Sat. Nov 9, 2024 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-2-14] 運動失調を呈した脳卒中患者に対し振動刺激と課題指向型練習を実施し,上肢機能が改善した一症例

小森 江梨1, 横山 広樹2, 小寺 翔馬3 (1.蘇生会総合病院 リハビリテーション科, 2.関西医科大学くずは病院 リハビリテーション科, 3.株式会社ナレッジハンズ)

【はじめに】運動失調に関する介入の一つとして振動刺激がある.固有感覚障害を伴う運動失調に対する振動刺激の報告は散見されるが(有時由晋ら,2017),固有感覚障害を伴わない運動失調に対する振動刺激の有用性は明らかではない.今回軽度の運動麻痺と運動失調を呈した脳卒中患者に対し,運動失調に対する有効なアプローチと報告されている課題指向型練習(Richards L Et al,2014)に加えて振動刺激を併用して実施し,上肢機能の改善を認めたため報告する.なお,本報告は症例に発表の意図を説明し書面にて同意を得た.
【症例紹介】50歳代男性で右利き,既往歴はなく発症前ADLは自立.体動困難となり当院を受診し両側脳幹部の脳梗塞と診断され同日入院し保存加療を施行,入院翌日からリハビリを開始.リハビリ開始当初から軽度の右片麻痺と両側(右優位)の四肢の失調を認めた.感覚障害はなく,MMSE29点と全般的認知機能は保たれていた.13病日のFMA上肢運動項目は50点,握力は右8.0㎏左25.0㎏,SARAは10.5点(指追い試験右1点左1点,鼻-指試験右0点左0点,手の回内外試験右3点左0点),ロンベルグ兆候は陽性であった.STEFは右33点左71点で,右上肢はつまみ損ねや動揺による減点が目立った.食事は右手でスプーンにて摂取,排泄はポータブルトイレ見守り,更衣と整容と入浴に介助を要し,病棟内移動は車いす介助であった.右手の使用意識は保たれており,運動麻痺や失調の程度に応じて生活場面で使用していた.左手の動かしにくさの自覚はなく,生活場面でも問題なく使用していた.
【方法】課題指向型練習を含む1時間の作業療法訓練に加え20分程度の自主練習を週6~7日,12病日から41病日まで実施した.課題指向型練習は,麻痺手の機能障害と本人の希望に応じて課題内容を変化させ,必要に応じて右手の使用状況を確認し,口頭や紙面を用いて生活上での右手の使用場面の決定や使用方法を指導した.STEF等の結果をふまえ物品操作時の拙劣さは失調症状による影響が大きかったため,先行研究を参考に(児玉隆之,2014)課題指向型練習の実施前に手関節総指伸筋腱と上腕二頭筋腱部に1回1分の振動刺激を2回実施した.
【結果】振動刺激を併用して行った場合,課題指向型練習のみの場合と比較して物品が操作しやすいとの内省が得られ外観上も動揺は軽減した.42病日のFMAの上肢運動項目は62点へ改善し,急性期以降におけるFMAのMCIDである4.25~7.25点(Page SJ et al,2012)を超える結果となった.握力は右24.5㎏左35.0㎏,SARAは4.0点(指追い試験右1点左0点,鼻-指試験右0点左0点,手の回内外試験右1点左0点)と改善し,ロンベルグ兆候は陰性であった.STEFは右85点,左91点となり,右上肢でのつまみ損ねや動揺による落下が著明に改善した.生活場面でも実用的に右手は使用可能となり,食事は箸の使用が可能となった.整容・更衣・トイレ排泄は自立し入浴は見守りで可能となり,病棟内移動は歩行器歩行にて自立した.右手の使用感も問題なく満足感も得られていた.79病日に自宅退院し,ADLは全て自立し屋外独歩も自立した.
【考察】本症例の結果から,課題指向型練習に併用して振動刺激を行うことで失調症状の軽減やそれに伴う上肢機能の更なる改善へと繋がる可能性が示唆された.感覚障害のない運動障害をもつ脳血管障害患者に対し振動刺激を行い,振動側とは対側の感覚運動野や補足運動野の神経活動を高めたとの報告がある(児玉隆之ら,2014).本症例も補足運動野の興奮が惹起され,失調症状の改善や上肢機能の改善につながったと考える.今後は方法の統制や症例数を増やし,振動刺激による運動失調の改善機序を明らかにしたい.