[PA-2-19] 「息子を自宅で看たい.」家族の幸せに焦点を当て,自宅退所ができた生活期重度脳卒中患者の一症例
【はじめに】 作業療法の新定義に対象は「人々」と表現されている.これは作業療法が多様化していることを指し,家族も作業療法の対象に含まれると言える(朝倉,2019).今回,生活期重度脳卒中者に対し,家族の幸せに着目した介入により自宅へ退所できた症例を報告する.報告に関して,家族に書面と口頭で趣旨を説明し,署名による同意を得た.
【症例紹介】40歳代男性(A氏),190㎝,90kgと大柄であった.10代の頃に統合失調症を発症していた. Y月Z日に左被殻出血を発症し,Y+6カ月で当院介護医療院へ入所となった. Brunnstrom Recovery Stageは上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅲであり,胃瘻による経管栄養で,日常生活動作は全介助,機能的自立度評価表は18点であった.構音障害を呈しており,感覚障害や高次脳機能障害は精査困難であった.発話は可能だが,反復言語を認め意思疎通は困難だった.要介護5,障害者支援区分6級であった.家族構成は父,母,弟の4人暮らし,父は自宅近くの開業医であり,母は専業主婦で弟は父の病院で事務を行っていた.介入当初,家族は介助量が多く,施設での生活を考えていたが,介入の中でA氏と自宅で過ごしたいと感じていることがわかった.本介入の効果判定には,生活行為聞き取りシートの実行度,満足度と主観的幸福感尺度(以下,SWBS),改訂版PGCモラールスケール(以下,PGCMS)を用いた.
【経過】Y+7ヶ月より, A氏の体格にあった車いすがなく,車いす作成を開始した.Y+15ヶ月に車いすが完成し,車いす離床練習を開始した.車いす納品後に生活行為聞き取りシートを用いて,家族と「A氏と自宅でできる限り一緒に過ごす.」という目標を立案した.介護負担に関しては,母より「負担は感じない,A氏と一緒にいることが私の幸せです.」と発言が聞かれた.その際の実行度,満足度は母,弟共に1点.SWBSは母が43点,弟が42点,PGCMSは母が12点,弟が13点だった. Y+22か月にケアマネジャー同行で家屋評価を実施した.自宅内に段差は無いが,玄関は車いすでの出入り困難のため,勝手口から出入りを検討した.その後,福祉用具専門相談員の確認のもと,昇降機を用いて勝手口から出入りが可能と判断した.Y+23か月に母,弟に対して他職種と家族指導を実施した.その後,在宅介護が可能か判断する目的で外泊を実施し,トラブルなく過ごすことができた.帰所する際,母より「また別れてしまうことが悲しい.」と発言が聞かれた.その際の実行度,満足度は,母は共に9点,弟は共に7点, SWBSは母が45点,弟が43点,PGCMSは母が13点,弟が14点だった.その後,訪問入浴,訪問リハビリテーションのサービス調整を行い,自宅へ退所できた.通所リハビリテーションを利用し,家族の介護負担軽減を図ることを考えたが,母より「外出が好きな子ではないので外出はさせたくないです.」と発言が聞かれ,外出を伴う介護サービスの提供は行わなかった.その際の実行度,満足度は,母,弟共に実行度,満足度10点,SWBSは母が46点,弟が42点,PGCMSは母が17点,弟が11点だった.
【考察】介入当初,A氏の介助量が多く在宅生活が困難と考えられた.しかし,作業療法士(以下,OTR)が家族へ目標の聞き取りを行い他職種,家族と協働したことが自宅退所へ繋がった一因と考える.また,他職種連携による環境面や介護面での調整後の試験外泊により家族の不安を取り除くことができたと考える.このことより,長期療養者でも,家族の状況や気持ちの変化をOTRがとらえ,家族の気持ちに寄り添った介入が自宅退所に繋がることが示唆された.本報告における家族の幸福感に焦点をあてた介入がその一助になると考える.
【症例紹介】40歳代男性(A氏),190㎝,90kgと大柄であった.10代の頃に統合失調症を発症していた. Y月Z日に左被殻出血を発症し,Y+6カ月で当院介護医療院へ入所となった. Brunnstrom Recovery Stageは上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅲであり,胃瘻による経管栄養で,日常生活動作は全介助,機能的自立度評価表は18点であった.構音障害を呈しており,感覚障害や高次脳機能障害は精査困難であった.発話は可能だが,反復言語を認め意思疎通は困難だった.要介護5,障害者支援区分6級であった.家族構成は父,母,弟の4人暮らし,父は自宅近くの開業医であり,母は専業主婦で弟は父の病院で事務を行っていた.介入当初,家族は介助量が多く,施設での生活を考えていたが,介入の中でA氏と自宅で過ごしたいと感じていることがわかった.本介入の効果判定には,生活行為聞き取りシートの実行度,満足度と主観的幸福感尺度(以下,SWBS),改訂版PGCモラールスケール(以下,PGCMS)を用いた.
【経過】Y+7ヶ月より, A氏の体格にあった車いすがなく,車いす作成を開始した.Y+15ヶ月に車いすが完成し,車いす離床練習を開始した.車いす納品後に生活行為聞き取りシートを用いて,家族と「A氏と自宅でできる限り一緒に過ごす.」という目標を立案した.介護負担に関しては,母より「負担は感じない,A氏と一緒にいることが私の幸せです.」と発言が聞かれた.その際の実行度,満足度は母,弟共に1点.SWBSは母が43点,弟が42点,PGCMSは母が12点,弟が13点だった. Y+22か月にケアマネジャー同行で家屋評価を実施した.自宅内に段差は無いが,玄関は車いすでの出入り困難のため,勝手口から出入りを検討した.その後,福祉用具専門相談員の確認のもと,昇降機を用いて勝手口から出入りが可能と判断した.Y+23か月に母,弟に対して他職種と家族指導を実施した.その後,在宅介護が可能か判断する目的で外泊を実施し,トラブルなく過ごすことができた.帰所する際,母より「また別れてしまうことが悲しい.」と発言が聞かれた.その際の実行度,満足度は,母は共に9点,弟は共に7点, SWBSは母が45点,弟が43点,PGCMSは母が13点,弟が14点だった.その後,訪問入浴,訪問リハビリテーションのサービス調整を行い,自宅へ退所できた.通所リハビリテーションを利用し,家族の介護負担軽減を図ることを考えたが,母より「外出が好きな子ではないので外出はさせたくないです.」と発言が聞かれ,外出を伴う介護サービスの提供は行わなかった.その際の実行度,満足度は,母,弟共に実行度,満足度10点,SWBSは母が46点,弟が42点,PGCMSは母が17点,弟が11点だった.
【考察】介入当初,A氏の介助量が多く在宅生活が困難と考えられた.しかし,作業療法士(以下,OTR)が家族へ目標の聞き取りを行い他職種,家族と協働したことが自宅退所へ繋がった一因と考える.また,他職種連携による環境面や介護面での調整後の試験外泊により家族の不安を取り除くことができたと考える.このことより,長期療養者でも,家族の状況や気持ちの変化をOTRがとらえ,家族の気持ちに寄り添った介入が自宅退所に繋がることが示唆された.本報告における家族の幸福感に焦点をあてた介入がその一助になると考える.