第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

Sat. Nov 9, 2024 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-2-20] てんかん焦点切除術後に生じた下肢麻痺の改善要因の検証

運動イメージを強調した課題指向型訓練が随意性向上に与える影響

村上 魁斗 (江東リハビリテーション病院)

【序論】
脳血管障害に対する有効的なリハビリテーションとして課題指向型訓練(TOA)が挙げられる.脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023)では日常生活動作障害,上肢機能障害,体力低下の改善を目的に実施することが推奨されている.先行研究では重度片麻痺患者へのTOAを含む複合的な介入報告もある.しかし,随意性が認められていない身体部位を対象としたTOA実施報告は見当たらない.今回,エビデンスが確立されている電気刺激療法や装具療法を実施していたが,足関節背屈運動が出現しない症例を経験した.その症例に対し前脛骨筋(TA)の随意性出現を目的に,運動イメージ(IT)を強調したTOAを実施した.その結果,抗重力下にて足関節背屈が可能になった.この結果に対し機能改善要因の検証を行ったため報告する.なお,症例に対して本報告の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得ている.
【目的】
今回の目的は,症例を通じて随意性が認められない身体部位への,ITを強調したTOA効果の可能性及び有効とされる回数と頻度を明らかにすることである.
【症例】
30歳代男性,現病歴はXを手術日とし,X-16年に全般強直間代発作があり,内服治療していた.X-5年から発作増悪し,手術適応となる.X年に電極留置術施行し,一次運動野下肢領域に焦点同定され,切除術施行.X+16日後に当院に入院した.
【評価】
X+17日目のFugl-Meyer Assessment下肢項目(FMA-LE)は14/34点.Brunnstrom recovery stage(Brs)はⅥ-Ⅵ-Ⅲ.Manual muscle test(MMT)は足関節背屈0.10m歩行は31秒.Timed Up and Go Test(TUG)は30/40秒(右/左)(Shoehorn brace使用).Functional independence measure運動項目(motor FIM)は48/91点.
【方法と経過】
介入の流れは,症例に足尖でボールを蹴るITを行ってもらい,その内容(力,速度等)を詳細にセラピストに共有する.その後,遊脚後期の足尖位置に設置したボールを蹴る意識で歩行を実施.入院13日目より開始し40~60分/日,5回/週,合計12日間実施.この介入以外では装具や電気刺激装置(ウォークエイド)を使用した歩行訓練,バランス機能訓練を行った.
実施1日目ではTA収縮は生じない.実施2日目より,歩行中のTA収縮が生じるようになり,歩行後は座位にて一時的にTA収縮可能.実施12日目よりボールを使用せず歩行中のTA収縮可能となりTOAを終了する.TOA終了後10日目に立位でのTA随意的収縮が可能となった.
【結果】
X+53日目のFMA-LEは27/34点,膝関節屈曲,足関節背屈を含む課題が改善.BrsはⅥ-Ⅵ-Ⅵ.MMTは,足関節背屈3.10m歩行は7秒.TUGは13/15秒(右/左)(TurboMed使用),motor FIMは91/91点.
【考察】
術後に生じた下肢麻痺に対し,ITを強調したTOAを40~60分/日,5回/週実施することが今症例に関しては,TAの随意性向上に効果的であった可能性がある.松田らはITで補足運動野が賦活すると報告しており,大杉らはITにおいて力,速さを教示することで運動前野血流量が増加したと報告している.本症例においてTOA実施前に詳細にITを行うことで,運動皮質既存ネットワークの活動亢進が生じ随意性向上に繋がったと推測される.今回の結果から,随意性が認められない身体部位でもITを強調することでTOAは適応可能であることが示唆された.