[PA-2-9] 急性期から意味のある作業に着目した支援により発動性の向上につながった一症例
【はじめに】今回,くも膜下出血後に発動性が低下した症例を経験した.急性期から対象者にとって意味のある作業に着目した支援により,発動性の向上と離床機会の拡大に至ったため以下に報告する.なお意味のある作業とは,対象者にとっての大切な作業と定義した.
【倫理的配慮】本報告に際して,紙面と口頭にて同意を得ている.
【事例紹介】A氏70代女性.夫と2人暮らし.夫とスピッツの歌を聴くことが日課.X年Y月Z日,前交通動脈瘤によるくも膜下出血により当院へ救急搬送,同日開頭クリッピング術施行.X年Y月Z+4日,作業療法(以下,OT)開始. X年Y月Z+47日,転院.
【初期評価】ICUにて介入開始.意識レベルはGCS:E2V4M5.高次脳機能は精査困難.上肢は著明な麻痺なく感覚は正常だがリーチ動作は緩慢.ADLはFIM:26点BI:0点であった.発動性の低下と易疲労性が著明にあり,病棟では臥床傾向であった.
【介入の基本方針】発動性と作業耐久性を向上させ,離床機会拡大やADL自立度向上を図ること.
【経過】第一期(Z+4〜Z+15日):ICUでは,ROMexやベッドアップでのリーチ動作練習を実施.GCS:E4V4M6,食事が一部介助で可能となった一方で,動作は緩慢で気分不快等の訴えから臥床傾向が続いた.発動性の向上を図るため,対象者のこれまでの生活状況を聴取し意味のある作業を模索した.第二期(Z+16日〜Z+32日):血管攣縮期を離脱し一般病棟に転棟.OT室にて,病前の日課であったスピッツの歌を聴くことを離床の動機付けとした.離床には消極的であったが,スピッツの歌をOT室で聴くことには同意した.ADLは食事自立,トイレ動作一部介助で可能となった.しかしながら,高次脳機能検査では作業耐久性の低下や易疲労性が見られ,病棟では臥床傾向が続いた.高次脳機能は,MMSE:28点,TMT:A延長B:途中中止であった.第三期(Z+33〜Z+46):OT室では,スピッツの歌を聴くことを継続して実施し,高次脳機能検査や課題も実施した.作業療法士の顔を見ると「待ってたよ.スピッツ聴きに行こう.」等の発言があり,離床が円滑に進んだ. 高次脳機能検査や課題に対して易疲労性は改善,作業耐久性が向上した.身だしなみへの配慮や自室で本を読む等の行動も見られた.
【結果】意識レベルはGCS:E4V5M6.高次脳機能はMMSE:27点,TMT:A正常B異常,コース立方体組み合わせテストIQ:54.7. ADLは FIM:90点BI :65点.動作の緩慢さは残存していたが,発動性は改善し離床時間が拡大した.
【考察】"意味のある作業"は,対象者の自分に対する理解と人生に関わり,新たな自分を再構築する,作業療法士が支援する作業である(大松ら,2015).今回,急性期から対象者の意味のある作業に着目した介入を実施したことにより,発動性と作業耐久性が改善し,離床機会の拡大とADLの自立度向上につながった.大松ら(2015)は,意味のある作業従事後の対象者の変化として心身機能と行動の改善を促す,すなわち,心身の改善とそれに伴う意欲と行動の改善があることを挙げている.本症例にとって,スピッツを聴くという作業は意味のある作業であり,これにより生活に対する意欲が改善し,ADLのみならずIADLの行動改善に至ったと考えられた.このことから,対象者の習慣に着目したOTは発動性を改善させ, ADL・IADLを拡大し生活の再構築に寄与する可能性が示唆された.
【倫理的配慮】本報告に際して,紙面と口頭にて同意を得ている.
【事例紹介】A氏70代女性.夫と2人暮らし.夫とスピッツの歌を聴くことが日課.X年Y月Z日,前交通動脈瘤によるくも膜下出血により当院へ救急搬送,同日開頭クリッピング術施行.X年Y月Z+4日,作業療法(以下,OT)開始. X年Y月Z+47日,転院.
【初期評価】ICUにて介入開始.意識レベルはGCS:E2V4M5.高次脳機能は精査困難.上肢は著明な麻痺なく感覚は正常だがリーチ動作は緩慢.ADLはFIM:26点BI:0点であった.発動性の低下と易疲労性が著明にあり,病棟では臥床傾向であった.
【介入の基本方針】発動性と作業耐久性を向上させ,離床機会拡大やADL自立度向上を図ること.
【経過】第一期(Z+4〜Z+15日):ICUでは,ROMexやベッドアップでのリーチ動作練習を実施.GCS:E4V4M6,食事が一部介助で可能となった一方で,動作は緩慢で気分不快等の訴えから臥床傾向が続いた.発動性の向上を図るため,対象者のこれまでの生活状況を聴取し意味のある作業を模索した.第二期(Z+16日〜Z+32日):血管攣縮期を離脱し一般病棟に転棟.OT室にて,病前の日課であったスピッツの歌を聴くことを離床の動機付けとした.離床には消極的であったが,スピッツの歌をOT室で聴くことには同意した.ADLは食事自立,トイレ動作一部介助で可能となった.しかしながら,高次脳機能検査では作業耐久性の低下や易疲労性が見られ,病棟では臥床傾向が続いた.高次脳機能は,MMSE:28点,TMT:A延長B:途中中止であった.第三期(Z+33〜Z+46):OT室では,スピッツの歌を聴くことを継続して実施し,高次脳機能検査や課題も実施した.作業療法士の顔を見ると「待ってたよ.スピッツ聴きに行こう.」等の発言があり,離床が円滑に進んだ. 高次脳機能検査や課題に対して易疲労性は改善,作業耐久性が向上した.身だしなみへの配慮や自室で本を読む等の行動も見られた.
【結果】意識レベルはGCS:E4V5M6.高次脳機能はMMSE:27点,TMT:A正常B異常,コース立方体組み合わせテストIQ:54.7. ADLは FIM:90点BI :65点.動作の緩慢さは残存していたが,発動性は改善し離床時間が拡大した.
【考察】"意味のある作業"は,対象者の自分に対する理解と人生に関わり,新たな自分を再構築する,作業療法士が支援する作業である(大松ら,2015).今回,急性期から対象者の意味のある作業に着目した介入を実施したことにより,発動性と作業耐久性が改善し,離床機会の拡大とADLの自立度向上につながった.大松ら(2015)は,意味のある作業従事後の対象者の変化として心身機能と行動の改善を促す,すなわち,心身の改善とそれに伴う意欲と行動の改善があることを挙げている.本症例にとって,スピッツを聴くという作業は意味のある作業であり,これにより生活に対する意欲が改善し,ADLのみならずIADLの行動改善に至ったと考えられた.このことから,対象者の習慣に着目したOTは発動性を改善させ, ADL・IADLを拡大し生活の再構築に寄与する可能性が示唆された.