第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-3-1] 回復期病棟入院中の上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対する病棟実施型CI療法の試み

ケースシリーズ

草野 嵩一朗, 原 修平, 池田 結花, 小川 良輔, 荒木 安就 (社会医療法人 三佼会 宮崎病院 回復期リハビリテーション科)

【はじめに】脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとして,Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)が提唱されており,脳卒中治療ガイドライン2021でもグレードAと推奨されている.しかし,一人の療法士が対象者に対して常に練習時間を確保することには限界がある.近年では,療法士以外の存在を教師とする,病棟で実施するCI療法(以下,病棟実施型CI療法)が先行研究により成果を示している.今回,病棟実施型CI療法を看護師・介護福祉士の協力を得て実践し効果検証を行ったため,実施結果に考察を踏まえて報告する.また,CI療法が精神機能に与える影響についても考察する.
【倫理的配慮】すべての対象者に本研究に関するインフォームド・コンセントを実施し,本研究への参加に同意を得た上で介入を行った.
【対象】2022年3月から2023年9月までの期間に,当院回復期リハビリテーション病棟に入棟した対象者の中で,当院で定めた適応基準を満たし,かつ病棟実施型CI療法を4週間実施可能であった5事例(男性3名,女性2名,年齢75.8±4.09歳,右麻痺3名,左麻痺2名)を対象とした.
【方法】作業療法では,1日60分から80分の反復的課題指向型訓練とTransfer packageを実施し,病棟実施型CI療法では4週間,1日40分間を午前・午後に各20分間ずつ実施した.介入前,2週間後,4週間後にFugl-Meyer Assessment(FMA),簡易上肢機能検査(STEF),Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU)とQuality of Movement(QOM)を評価した.また介入前,4週間後にCanadian Occupational Performance Measure(COPM),うつ性自己評価尺度(SDS)の評価を行った.統計解析ではまず,データが正規分布に従うかをShapiro-Wilk検定で確認した.次に反復測定分散分析を実施し,各評価変数の群間差について調査した.各時系列の違いについては対応のあるt検定を用いて調査した.次にSDSの変化量と各評価項目に関連があるかPearsonの相関分析を行った.統計学的解析はEZR(version4.3.2)を使用し,有意水準は5%とする.
【結果】Shapiro-Wilk検定の結果からすべてのデータで正規性が担保されたため,反復測定分散分析を実施した結果,3群間の時系列に対して有意な差を認める結果となった(FMA:p<0.01,STEF:p<0.01,MAL-AOU:p<0.01,MAL-QOM: p<0.01).各時系列間に関しては,それぞれ対応のあるt検定において分析を行い,MAL-AOUとMAL-QOMの2週間から4週間の時期以外に有意な差を認めた.またCOPMでも対応のあるt検定にて同様に有意な差を認めたが,SDSでは有意な差は認められなかった(COPM遂行度:p<0.01,COPM満足度:p<0.01,SDS:p=0.11).Pearsonの相関分析に関しては,SDSとCOPMの遂行度,満足度のみ相関を認める結果となった(COPM遂行度:r=0.947,p<0.014,COPM満足度:r=0.943,p<0.016).
【考察】病棟実施型CI療法を実施した結果,FMA,STEF,MAL-AOU,MAL-QOM,COPM遂行度,COPM満足度において有意な改善を認めており,各評価項目の変化量の平均値においても臨床上意味のある最小変化量を超える改善を示した.本間らは,回復期病棟入院中において,「意味のある作業」に焦点を当てて満足度を高めることは脳卒中後のうつ症状を軽減させる要素として重要で,更に成功体験を得ることができる目標設定を行っていくことが必要であると述べている.今回SDSとCOPMの相関に関して,機能面より目標とした作業が達成できたかどうかが影響を与えた可能性が考えられた.また,病棟実施型CI療法の介入で病棟スタッフからのフィードバックにより成功体験を得る機会が多く,精神機能に好影響を与えた可能性がある.