[PA-3-11] 重度感覚障害のある脳卒中患者への指サックを用いた練習効果
【はじめに】
CI療法は脳卒中患者の麻痺側上肢機能の改善を目的とするエビデンスレベルの高いアプローチの一つである.その適応については議論があるが,Canadian Best Practice Guidelines(Hebert, et al. 2016)では,自動手関節背屈可動域20°以上および手指伸展可動域10°以上が可能であるとともに,感覚障害や認知障害が最小限である者に対して適用が検討されるべき,とされている.一方で,van der Leeら(1999)はCI療法が感覚障害や半側空間無視のある慢性脳卒中患者に対して,より有効である可能性を報告している.そのため,感覚障害のある者へのCI療法の実施の是非は,いまだコンセンサスが得られていない.今回,中等度の運動麻痺とともに重度の感覚障害を呈した症例に対して,上肢機能練習時の感覚障害に起因する失敗を軽減する代償的手段として指サックを使用し,CI療法の要素を取り入れた介入を行った.結果,麻痺手の機能向上と生活での使用状況(頻度と質)の改善を得られたので以下に報告する.倫理的配慮として,本報告は患者の個人情報とプライバシー保護に配慮し,本人から書面にて同意を得た.
【対象】
70歳代の男性,診断名は右内頚動脈閉塞,脳塞栓症で,発症から16病日に当院での介入を開始した.認知機能はMMSE 28点であった.上肢の運動機能は,FMAが28点,MFTは14点,STEFは15点であった.MALはAOU 0.8,QOM 0.6で,日常生活での麻痺手の使用頻度および動作の質は著明に低下していた.感覚は触覚が脱失レベル,深部感覚が中等度鈍麻であった.その他,手指に軽度の屈曲拘縮があった.ADLはFIM 82点であった.
【介入方法・経過】
介入開始時に目標設定を実施した.手指の可動域制限に対して可動域練習,麻痺の改善のために促通反復療法,感覚障害に対して物品を介しての感覚入力練習,物品の操作性向上,日常生活での使用を目的にCI療法の要素であるshaping課題を対象者に合わせて実施した.
2週間程度の介入で,麻痺の改善,STEFの軽度の改善は見られたが,MALの改善はほとんどみられず,日常での麻痺手の使用頻度と動作の質が低下している状況が続いていた.重度の感覚障害は残存しており,その影響からShaping課題で低難易度でも失敗が多くみられた.そのため感覚障害を代償する手段として指サックを手指先に装着しながら課題を実施したところ,できる課題が増加した.Shaping課題の実施と並行しTask Practiceも実施していき,その割合を徐々に増やしていった.また,日常生活でも指サックの使用を進め,生活での使用頻度の増加も進めていった.
【結果】
4週間の介入後,FMAは52点,MFTは21点,STEFは35点(指サック使用で51点)まで改善した.感覚障害に明らかな変化はなかった.指サックを日常的に使用することでMALはAOU 3.3,QOM 3.3に改善した.指サックがない状態でも洗顔や背部の洗体等で使用する機会が増加した.
【考察】
今回,感覚障害に起因する練習時の失敗を軽減するために指サックを使用した結果,感覚障害の改善は認められなかったものの,上肢機能,特に日常での麻痺手の使用と動作の質が大きく改善した.麻痺手での課題遂行の失敗は学習性不使用につながることが以前から指摘されている.今回,指サックを用い,机上課題や日常生活動作の難易度を調整できたことで,練習時および日常での課題遂行の失敗が減少し,成功体験が増え,生活での使用を促せたのではないかと考える.指サックは安価であり,容易に導入できる利点がある.今後もその有効性や感覚障害に関しての介入方法も再検討したい.
CI療法は脳卒中患者の麻痺側上肢機能の改善を目的とするエビデンスレベルの高いアプローチの一つである.その適応については議論があるが,Canadian Best Practice Guidelines(Hebert, et al. 2016)では,自動手関節背屈可動域20°以上および手指伸展可動域10°以上が可能であるとともに,感覚障害や認知障害が最小限である者に対して適用が検討されるべき,とされている.一方で,van der Leeら(1999)はCI療法が感覚障害や半側空間無視のある慢性脳卒中患者に対して,より有効である可能性を報告している.そのため,感覚障害のある者へのCI療法の実施の是非は,いまだコンセンサスが得られていない.今回,中等度の運動麻痺とともに重度の感覚障害を呈した症例に対して,上肢機能練習時の感覚障害に起因する失敗を軽減する代償的手段として指サックを使用し,CI療法の要素を取り入れた介入を行った.結果,麻痺手の機能向上と生活での使用状況(頻度と質)の改善を得られたので以下に報告する.倫理的配慮として,本報告は患者の個人情報とプライバシー保護に配慮し,本人から書面にて同意を得た.
【対象】
70歳代の男性,診断名は右内頚動脈閉塞,脳塞栓症で,発症から16病日に当院での介入を開始した.認知機能はMMSE 28点であった.上肢の運動機能は,FMAが28点,MFTは14点,STEFは15点であった.MALはAOU 0.8,QOM 0.6で,日常生活での麻痺手の使用頻度および動作の質は著明に低下していた.感覚は触覚が脱失レベル,深部感覚が中等度鈍麻であった.その他,手指に軽度の屈曲拘縮があった.ADLはFIM 82点であった.
【介入方法・経過】
介入開始時に目標設定を実施した.手指の可動域制限に対して可動域練習,麻痺の改善のために促通反復療法,感覚障害に対して物品を介しての感覚入力練習,物品の操作性向上,日常生活での使用を目的にCI療法の要素であるshaping課題を対象者に合わせて実施した.
2週間程度の介入で,麻痺の改善,STEFの軽度の改善は見られたが,MALの改善はほとんどみられず,日常での麻痺手の使用頻度と動作の質が低下している状況が続いていた.重度の感覚障害は残存しており,その影響からShaping課題で低難易度でも失敗が多くみられた.そのため感覚障害を代償する手段として指サックを手指先に装着しながら課題を実施したところ,できる課題が増加した.Shaping課題の実施と並行しTask Practiceも実施していき,その割合を徐々に増やしていった.また,日常生活でも指サックの使用を進め,生活での使用頻度の増加も進めていった.
【結果】
4週間の介入後,FMAは52点,MFTは21点,STEFは35点(指サック使用で51点)まで改善した.感覚障害に明らかな変化はなかった.指サックを日常的に使用することでMALはAOU 3.3,QOM 3.3に改善した.指サックがない状態でも洗顔や背部の洗体等で使用する機会が増加した.
【考察】
今回,感覚障害に起因する練習時の失敗を軽減するために指サックを使用した結果,感覚障害の改善は認められなかったものの,上肢機能,特に日常での麻痺手の使用と動作の質が大きく改善した.麻痺手での課題遂行の失敗は学習性不使用につながることが以前から指摘されている.今回,指サックを用い,机上課題や日常生活動作の難易度を調整できたことで,練習時および日常での課題遂行の失敗が減少し,成功体験が増え,生活での使用を促せたのではないかと考える.指サックは安価であり,容易に導入できる利点がある.今後もその有効性や感覚障害に関しての介入方法も再検討したい.