[PA-3-15] 自己効力感に着目した介入で退院後のIADLが保たれた血管性認知障害の一例
4日間の予防的作業療法の実践と追跡調査
【はじめに】本邦では在院日数短縮に伴い,再入院率が上昇しつつある(Hamada H,2012).団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向け,いかに健康寿命を延伸できるかが課題であり(岩田健太郎,2020),患者の退院後の生活を見据えた予防的介入は急性期における重要な役割となっている.介護予防には,これまでの人生や老いに対する受容の程度が影響し,適切な目標設定による自己効力感の向上が最も効果的である(深堀,2009)と述べられている.その一方で急性期からの介入や,認知機能が低下した症例に自己効力感への介入を主眼においた報告は少ない.今回,短期間での介入ながら,再発予防に向けた目標設定と,夫への手紙を通して得られた自己効力感の向上により,追跡調査にて退院後のIADLが保たれた症例を経験したため考察を加えて報告する.なお,本報告において,本人及びご家族に紙面での同意を得ている.
【症例】70歳代女性,協力的な夫と2人暮らし,電子レンジの使用困難を主訴に来院し,塞栓性脳梗塞の診断となった.脳梗塞,高血圧,脂質異常の既往あり.脳梗塞初発後より認知機能低下の自覚あるも,メモの活用により家事や趣味・余暇活動は保たれていた.
【評価】mRS0点,運動麻痺・パーキンソニズムなし,TUG8.5秒,SPPB12点.失語・失行・失認症状なし,RCPM30点,MOCA-J25点,S-PA有関係7-8-9 無関係0-0-0,老人式活動能力指標11点,FAI28点,General Self-Efficacy Scale:GSES7点.「人としての価値が無くなった」,「何でも1人で頑張ってきたのに悔しい」と気分の落ち込みを認めた.
【介入・経過】再発に伴う経緯や,評価結果から血管性認知障害(vascular cognitive impairment:VCI)と判断し介入した.また,症例の家事への役割意識の高さや,1人で抱え込む性格特性が自己効力感の低下を顕在化させていると思われた.今後も進行が予測される病態に対し,①家事動作継続に必要な身体機能の維持,②再発予防に向けた自己目標の設定,③夫に頼るという代償手段の促進,価値の転換を念頭に介入を行った.①においては,いきいき百歳体操を紙面にて提供し,各動作のポイントを確認,入院中1日1回は自主練習として行うに指導した.②に関しては,看護師による脳卒中再発パンフレットによる指導,栄養士による栄養指導を行った後,再度作業療法場面において内容を復習し,退院後意識的に行う目標を本人主体に設定した.③では,夫に頼ることの重要性を説明.本人の思いを手紙にし,退院後の目標と共に一枚の書面にまとめ,在宅にて夫と内容を共有し掲示することを依頼した.4日間の作業療法介入後,「皆さんとの出会いで前向きになれた」と6病日後に自宅退院となった.
【結果】退院時GSES10点と向上.また,90病日に自宅への追跡調査を行い,GSES10点と維持,FAI29点と向上を認めた.各評価が維持向上に至った要因としては,以前よりも家事や趣味・余暇活動全般に効率性の低下や助言を必要とするものの,夫の家事への協力意識や庭作業への促しにより,本人の自己効力感とIADLが保たれているものと思われた.
【考察】急性期は発症して間もない混乱期でありながら,今後の人生の在り方を再建する転換期といえる.その転換期に,患者の個人・環境・背景因子を念頭に予防的な視点や自己効力感に着目した介入は,再入院の防止や介護予防の観点からも重要だと思われる.今回,VCIのような認知機能低下の進行が予測される病態であっても,自己目標の設定や夫に頼るという価値の転換で自己効力感が保たれ,短期間の介入ながら退院後のIADLの維持向上に寄与できる可能性が示唆された.
【症例】70歳代女性,協力的な夫と2人暮らし,電子レンジの使用困難を主訴に来院し,塞栓性脳梗塞の診断となった.脳梗塞,高血圧,脂質異常の既往あり.脳梗塞初発後より認知機能低下の自覚あるも,メモの活用により家事や趣味・余暇活動は保たれていた.
【評価】mRS0点,運動麻痺・パーキンソニズムなし,TUG8.5秒,SPPB12点.失語・失行・失認症状なし,RCPM30点,MOCA-J25点,S-PA有関係7-8-9 無関係0-0-0,老人式活動能力指標11点,FAI28点,General Self-Efficacy Scale:GSES7点.「人としての価値が無くなった」,「何でも1人で頑張ってきたのに悔しい」と気分の落ち込みを認めた.
【介入・経過】再発に伴う経緯や,評価結果から血管性認知障害(vascular cognitive impairment:VCI)と判断し介入した.また,症例の家事への役割意識の高さや,1人で抱え込む性格特性が自己効力感の低下を顕在化させていると思われた.今後も進行が予測される病態に対し,①家事動作継続に必要な身体機能の維持,②再発予防に向けた自己目標の設定,③夫に頼るという代償手段の促進,価値の転換を念頭に介入を行った.①においては,いきいき百歳体操を紙面にて提供し,各動作のポイントを確認,入院中1日1回は自主練習として行うに指導した.②に関しては,看護師による脳卒中再発パンフレットによる指導,栄養士による栄養指導を行った後,再度作業療法場面において内容を復習し,退院後意識的に行う目標を本人主体に設定した.③では,夫に頼ることの重要性を説明.本人の思いを手紙にし,退院後の目標と共に一枚の書面にまとめ,在宅にて夫と内容を共有し掲示することを依頼した.4日間の作業療法介入後,「皆さんとの出会いで前向きになれた」と6病日後に自宅退院となった.
【結果】退院時GSES10点と向上.また,90病日に自宅への追跡調査を行い,GSES10点と維持,FAI29点と向上を認めた.各評価が維持向上に至った要因としては,以前よりも家事や趣味・余暇活動全般に効率性の低下や助言を必要とするものの,夫の家事への協力意識や庭作業への促しにより,本人の自己効力感とIADLが保たれているものと思われた.
【考察】急性期は発症して間もない混乱期でありながら,今後の人生の在り方を再建する転換期といえる.その転換期に,患者の個人・環境・背景因子を念頭に予防的な視点や自己効力感に着目した介入は,再入院の防止や介護予防の観点からも重要だと思われる.今回,VCIのような認知機能低下の進行が予測される病態であっても,自己目標の設定や夫に頼るという価値の転換で自己効力感が保たれ,短期間の介入ながら退院後のIADLの維持向上に寄与できる可能性が示唆された.