[PA-3-20] 外傷性頚髄損傷により不全麻痺を呈した症例に対する急性期作業療法
PSBを用いた部分的課題指向型訓練が有効であった一症例
【はじめに】ポータブルスプリングバランサー(以下,PSB)はスプリングの張力を利用して,肩屈筋群MMT2程度の力でもリーチ動作を可能とする腕保持用装具である.頚髄損傷患者を対象としたPSB使用に関する報告は,自助具や環境整備等の能力面に関するものが多く,急性期における機能改善に着目した報告は渉猟する限り見当たらなかった.中枢神経損傷後の神経リハビリテーションについて,近年の知見より早期から能動的かつ協調的な運動を取り入れた介入が必要と推察され,PSBは頚髄損傷患者に対して,より良い作業療法(以下,OT)の手段になり得ると考えた.今回,頚髄損傷患者に対して,代償動作の修正や神経レベルでの機能改善促進を目指し,早期からPSBによる部分的課題指向型訓練を実施した結果,良好な転帰を得たので報告する.
【症例】80代男性右利き.病前よりOPLL,腰部脊柱管狭窄症を指摘されていたが, ADLは杖歩行にて自立.X年Y月Z日に階段を降りようとした所を誤って転落.当院にて中心性脊髄損傷やOPLLに伴う頚髄症と診断,T2協調画像はC3~5に高信号を認めた.手術適応であったが,服薬状況などを理由に,保存加療にて当院でリハビリ後,転院となった. 尚,症例より情報提供及び学会発表することに同意を得ている.
【作業療法評価と経過】Z+1日にOT開始.初期評価は意識レベル,認知機能ともに低下なし,MMT(右/左)肩屈曲外転2-/3,外旋2-/2,内旋3/3,肘屈筋群各3/3+,他4/4と右上肢近位優位に筋力低下を呈し,右上肢に肩すくめ様の代償動作を認めた.巧緻動作は箸操作が可能な程度に保たれていた.機能的自立度評価法の運動項目(以下,m-FIM)は37/91点.食事場面は1時間要しても完食できなかった.生活行為聞き取りシートは食事の遂行度,満足度ともに0/10点であった.PSBはZ+4日より導入し,代償動作が生じた右上肢に対して,食事動作を見据えた直接的訓練を重点的に開始した.実際の生活場面では管理上の問題により,PSBを使用できず,ポジショニングや指導にて代償動作の抑制を図った.Z+12日には,食事時間が約40分に短縮.代償動作の軽減に伴い,直接的訓練から間接的訓練へと時間配分を増やし,動作安定性の向上に努めた.Z+21日にはMMT肩屈曲外転3+/4,外旋筋群3+/4,肘屈筋群各4/4,m-FIMは58/91点.食事は約20分で自力摂取が可能,主観的な遂行度,満足度ともに10/10点,「病前と変わらない」などの発言を認めた.その後,Z+22日転院となった.
【考察】本症例は,初期評価時点で,右三角筋・外旋筋群の筋力低下を認め,僧帽筋などによる肩すくめ様の代償動作が見られた. PSBは主に三角筋を補助するが,加えて佐々木らは, PSB使用時の筋活動について,僧帽筋上部線維や上腕二頭筋などの過剰な筋活動が有意に低下したと述べている.このことから,PSBの使用により過剰な僧帽筋の抑制と低出力である三角筋,外旋筋群の使用を促せると予測した.そして,筋力の不均衡を修正しながらの直接的訓練が筋活動順序の再学習に繋がったと考える.一般的に中枢神経損傷後の神経路の再編において,不必要な軸索は除去されると考えられており,それを「側枝の刈り込み」などと呼ばれている.藤田らは,「側枝の刈り込み」は損傷10~28日で生じ,リハビリテーションによってさらに促され,運動機能の回復が促進したと述べている.今回,PSBを使用したことで,より能動的かつ効率的に代償動作を軽減でき,「側枝の刈り込み」を考慮した動作の質の向上や練習量の担保に繋げた.今回,実施したPSBの使用による円滑な訓練の段階付けは,神経レベルでの機能回復を促進させ安定した食事動作の早期獲得に繋がったと考える.すなわち,頚髄損傷患者に対する機能訓練にPSBを用いることは急性期OTの一助になると考える.
【症例】80代男性右利き.病前よりOPLL,腰部脊柱管狭窄症を指摘されていたが, ADLは杖歩行にて自立.X年Y月Z日に階段を降りようとした所を誤って転落.当院にて中心性脊髄損傷やOPLLに伴う頚髄症と診断,T2協調画像はC3~5に高信号を認めた.手術適応であったが,服薬状況などを理由に,保存加療にて当院でリハビリ後,転院となった. 尚,症例より情報提供及び学会発表することに同意を得ている.
【作業療法評価と経過】Z+1日にOT開始.初期評価は意識レベル,認知機能ともに低下なし,MMT(右/左)肩屈曲外転2-/3,外旋2-/2,内旋3/3,肘屈筋群各3/3+,他4/4と右上肢近位優位に筋力低下を呈し,右上肢に肩すくめ様の代償動作を認めた.巧緻動作は箸操作が可能な程度に保たれていた.機能的自立度評価法の運動項目(以下,m-FIM)は37/91点.食事場面は1時間要しても完食できなかった.生活行為聞き取りシートは食事の遂行度,満足度ともに0/10点であった.PSBはZ+4日より導入し,代償動作が生じた右上肢に対して,食事動作を見据えた直接的訓練を重点的に開始した.実際の生活場面では管理上の問題により,PSBを使用できず,ポジショニングや指導にて代償動作の抑制を図った.Z+12日には,食事時間が約40分に短縮.代償動作の軽減に伴い,直接的訓練から間接的訓練へと時間配分を増やし,動作安定性の向上に努めた.Z+21日にはMMT肩屈曲外転3+/4,外旋筋群3+/4,肘屈筋群各4/4,m-FIMは58/91点.食事は約20分で自力摂取が可能,主観的な遂行度,満足度ともに10/10点,「病前と変わらない」などの発言を認めた.その後,Z+22日転院となった.
【考察】本症例は,初期評価時点で,右三角筋・外旋筋群の筋力低下を認め,僧帽筋などによる肩すくめ様の代償動作が見られた. PSBは主に三角筋を補助するが,加えて佐々木らは, PSB使用時の筋活動について,僧帽筋上部線維や上腕二頭筋などの過剰な筋活動が有意に低下したと述べている.このことから,PSBの使用により過剰な僧帽筋の抑制と低出力である三角筋,外旋筋群の使用を促せると予測した.そして,筋力の不均衡を修正しながらの直接的訓練が筋活動順序の再学習に繋がったと考える.一般的に中枢神経損傷後の神経路の再編において,不必要な軸索は除去されると考えられており,それを「側枝の刈り込み」などと呼ばれている.藤田らは,「側枝の刈り込み」は損傷10~28日で生じ,リハビリテーションによってさらに促され,運動機能の回復が促進したと述べている.今回,PSBを使用したことで,より能動的かつ効率的に代償動作を軽減でき,「側枝の刈り込み」を考慮した動作の質の向上や練習量の担保に繋げた.今回,実施したPSBの使用による円滑な訓練の段階付けは,神経レベルでの機能回復を促進させ安定した食事動作の早期獲得に繋がったと考える.すなわち,頚髄損傷患者に対する機能訓練にPSBを用いることは急性期OTの一助になると考える.