第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-3-21] 健康関連QOLに着目した在宅復帰を目標とするクライエントへの作業に根ざした実践

川瀬 ひなの1, 古桧山 建吾2, 酒井 四季子3 (1.香徳会 関中央病院, 2.学校法人 誠広学園 平成医療短期大学, 3.香徳会 関中央病院)

【はじめに】
 今回,右視床出血を発症し左片麻痺となったクライエント(以下,A氏)に対して,健康関連QOL(HRQOL)を評価するSF‐12v2を活用した介入を行った.身体的健康と精神的健康を比較することで,A氏の回復に対する思いと生活行為の変化が捉えやすくなった.本報告の目的は在宅復帰を目標とするクライエントへの介入の評価指標としてSF-12v2の有用性を検討し,今後の作業に根ざした実践の一助とすることである.尚,本報告の発表にあたりA氏に書面で同意を得た.
【症例紹介】
 A氏は70歳代男性.在宅復帰を目的に受傷から23日後に急性期病院から当院へ転院となった.受傷前は妻と二人暮らしで,ADLとIADLが自立した.
【介入経過】 
 介入時は,左上下肢に中等度運動麻痺(BRS上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅲ)を認めた.FIMは67点でADL全般に介助を必要とした.SF‐12v2は身体的健康(PCS)が19.9,精神的健康(MCS)が36.3,役割/社会的(RCS)が18.1であった.A氏は,MCSに比べ,PCSに顕著な低下を認めた.A氏からは「現実を受け入れられない」と悲観的な発言が多く語られた.一方で,「トイレに一人で行けるようになりたい」という希望が聞かれた.これらから, A氏は,身体的側面への介入が精神的下支えとなり,それがHRQOLの向上に繋がると考え,身体機能訓練に比重を置きながらADLの改善を図ることを基本方針とした.まずは車椅子でトイレに行くことを短期目標とし,2日目から上肢機能訓練とトイレ動作練習を並行して実施した.30日目にトイレ動作自立となり,この頃から自信のある発言が増えた.さらに,A氏と相談し麻痺側上肢の自主訓練を開始した.A氏は,常に三角巾を着用しており非麻痺側上肢の使用に依存的になっていた.OTが専門職としての意見を伝えたことで,三角巾を外すことが出来るようになり,生活内での麻痺側上肢の使用頻度が増加した.それにより,手指の巧緻性が改善し,更衣動作や整容動作の自立度が向上し,両手で服を畳むなどのIADLも自主的に行うようになった.その後,70日目には麻痺側肩関節の疼痛が出現したため,A氏と相談し肩甲帯の筋力強化と疼痛緩和を主に介入することとした.疼痛も徐々に軽減し,肩関節の可動域が拡大した.90日目には,自動車運転に対する希望が聞かれるようになったため神経心理学的評価を実施した.SDSAは,合格数値が不合格数値を上回る結果となった.その後,ドライブシミュレータ—を使用して,片手でのハンドル操作やアクセルやブレーキ操作の練習を行った.退院時は,左上下肢に軽度運動麻痺認めたが,FIMは123点とADLは殆ど自立となった.SF‐12は,PCSが37.2,MCSが66.2,RCSも42となりHRQOLが向上した.
【考察】
今回,SF-12v2を用いてPCS,MCSのスコアを比較することで,HRQOLを通したA氏の回復に対する思いと生活行為の変化が捉えやすくなった.中原らの先行研究では,HRQOLは作業参加を促進することが,運動のみに焦点を当てるよりも強い影響を与えると報告している.A氏も機能訓練と並行して,ADL練習や自動車運転に焦点を当てて介入したことがHRQOLの向上に繋がったと考えられる.一方でA氏は元々のこだわりの強い性格に加え,入院という自由度が低い環境でストレスを溜め,意欲低下を認める時期もあった.これに対して,A氏の希望の傾聴や目標共有を丁寧に行うことでMCSが改善し,意欲の向上にも繋がったと考えられる.SF-12v2は入院患者には適応しにくい項目があるため,回答者によって回答の妥当性の低下が危惧される.今後は,疾患の異なる事例へのSF-12v2の使用の検討を重ねていく必要がある.