第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-3-7] 自主練習指導とCOPMを用いた作業療法により日常的な麻痺側上肢使用頻度が促進された外来脳卒中患者の一例

藤島 貴幸1, ミュア 朋枝1, 滝澤 宏和2 (1.医療法人社団 時正会 佐々総合病院, 2.医療法人社団 武蔵野会 新座病院)

【はじめに】日本作業療法士協会のガイドラインではADL改善に向けた作業療法の効果は推奨グレードAとされている. 人の行動は自己効力感と報酬期待が共に高い場合に行動変容が生じる(Bandura 1997) と報告がある. リハビリにおける目標設定が自己効力感に影響を及ぼす(Leback 2015) とされており, 目標設定のツールとしてCanadian Occupational Performance Measure: COPMを用いられることも多い. 本症例にCOPMを活用し, 目的とする活動について対話を重ねながら介入を進め, 併せて必要な自主練習方法を提供した. その結果, 日常的な上肢使用が促進され, 背中を洗うこと, 息子に料理を振る舞うことが可能となった為報告する.
【倫理的配慮】本症例に対して口頭説明と書面にて同意を得た. 報告にあたり病院長の承認を得た.
【事例紹介】50代女性. 脳梗塞(右尾状核・被殻領域) を呈し, 血栓回収術を施行した. 約3週間の急性期治療後, 回復期病院で3ヶ月加療. 退院後, 当院脳外科受診時に「左肩が挙がらない」と訴えがあり, 外来リハビリを開始した. 病前は息子と2人暮らしでADL・IADL共に自立していた. 仕事は会計事務職であった. 回復期退院後は身体に自信が無く, 本人の実家に住んで家事はしていない状態であった. 「また息子と住みたい」「鍋を作りたい」と希望あり.
【作業療法評価】BRS Ⅴ-Ⅴ-Ⅴ. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia: SARA 2/40点. Motor Activity Log: MALのAmount of Use: AOU 2.83, Quality of Movement: QOM 3.83. COPM「背中を洗う」遂行度7/10, 満足度10/10. 「鍋を作る」遂行度1/10, 満足度1/10. 「パソコン」遂行度3/10, 満足度2/10. 屋内ADLは独歩で自立. 屋外は杖を使用. FIM:125/126点.
【方法・経過】週1回40分の外来作業療法を実施した. 40分の中で①カウンセリング, ②身体機能評価, ③介入, ④自主練習の提供を行った. カウンセリングでは前回介入後から当日までの生活での変化点の聴取をした. 介入では運動療法を提供した. 初回は洗体を目的に麻痺側上肢訓練を実施した. 介入2回目で「肩が軽くなって鍋も作れそう」と麻痺手使用を期待する発言が得られた. 介入3回目で「背中を洗う」を達成した. 次回以降の介入目的は料理とパソコンで双方了承した. 介入5回目で「鍋が作れるようになって今は息子と住んでいます」と近況も聞かれた. 実生活での麻痺手の参加と自主練習は継続され, 介入に来る度に生活での変化点が確認できた.
【結果】BRS Ⅴ-Ⅵ-Ⅴ. SARA 2/40点. MALのAOU 2.50, QOM 3.83. COPM「背中を洗う」遂行度10/10, 満足度10/10. 「鍋を作る」遂行度10/10, 満足度10/10. 「パソコン」遂行度4/10, 満足度3/10.
【考察】本症例に①カウンセリング, ②身体機能評価, ③介入, ④自主練習の提供のプロセスで介入を進めた. 麻痺手を生活に反映させるには自身への気づきから行動変容を促すアプローチが必要であり, その1つとして行動療法が基盤の認知行動療法がある. 介入には運動療法を提供したが, 認知行動療法の①ホームワークの確認(カウンセリング), ②アジェンダの設定(評価), ③アジェンダの話し合い(治療), ④ホームワークの決定(自主練習) と同等のプロセスで介入を進めたことにより, 自身の身体状況の変化へ気づき, 日常的な麻痺手使用の動機づけとなった可能性がある. COPMのMCIDは遂行度3.0点, 満足度3.2点以上(Tuntland 2016) と報告があり, 「鍋を作る」で特に臨床上意味のある最小変化量が示唆された. 数値の改善だけでなく「鍋が作れるようになって息子と住んでいる」という発言から, 日常的な麻痺手の使用により希望する息子との生活も再開できたと考える.