第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-3-9] 重度感覚障害を呈した脳卒中患者にメンタルプラクティスに感覚再教育と複合的上肢機能訓練を併用し利き手の再獲得に至った症例

古津 政明, 西川 順治, 仲 桂吾, 川嶋 浩己, 村上 浩基 (埼玉石心会病院)

【目的】
脳卒中後の重度感覚障害と上肢運動麻痺を重複した場合の介入手法は確立されておらず,利き手としての再獲得に至った報告も少ない.今回視床出血後,右上肢に中等度運動麻痺と重度の感覚障害を呈した40代男性に対し,回復期で初期にconstraint-induced movement therapy(以下CI療法)と感覚再教育を併用し,後期に運動イメージと反復した課題指向型訓練を実施した結果,深部感覚,表在感覚に改善を認め,利き手としての機能を再獲得できたためその介入手続きについて報告を行う.尚本報告は症例に同意を得て当院倫理委員会の承認を得ている.(2023-60)【初期評価】左視床出血の診断にて入院,保存加療となった40代男性,利き手は右手.第30病日で当院回復期病棟に転棟,病前ADL,IADLは自立,職業は電気工事の会社で管理職と工事を担当していた.意識清明,運動麻痺はBrunnstrome stage(以下Brs)上肢Ⅲ手指Ⅲ下肢Ⅳ,Fugl Meyer assessment(以下FMA)肩肘前腕13,手4,手指8,協調0で25点感覚は上肢項目で触覚0関節位置覚0で脱失,母指探しは3度であった.上肢の使用頻度はMotor Activity Log(以下MAL)Amount of Use(以下AOU)0点,Quality of Movement(以下QOM)0点.Simple Test for Evaluating Hand Function(以下STEF)は0点.高次脳機能障害は認めなかった.基本動作は監視,Functional Independence Measure(以下FIM)では日常生活で左上肢のみで行っており,運動項目47点,認知項目は31点であった.【方法】回復期初期は段階づけた重量弁別,関節位置覚,物体識別訓練を実施し感覚再教育に加えC I療法を行った.後期よりメンタルプラクティスとしてミラー療法と鏡に反転した動画を10分鑑賞して運動イメージを強化し,課題指向型訓練を60分,週7回を前期60日,後期90日行なった.また自主トレーニングとして前期はshaping課題と課題指向型訓練を3時間以上を60日,後期はメンタルプラクティス1回15分と課題指向型訓練3時間を90日実施.上肢使用場面はADLから徐々に復職動作に移行した.【経過と結果】第90病日にF M A44点,感覚は上肢項目で触覚1関節位置覚2でMALはQOM1.07,AOU1.42で改善を認め,自助具を用いて食事,髭剃りが可能となるが上肢の協調性の低下,巧緻動作の低下により不十分さを認めた.第180病日に右上肢はBrs上肢手指ともにⅥ,FMAは65点,感覚は触覚3,関節位置覚7,母指探し1度であった.表在は肩,上腕,前腕は正常,指は中等度鈍麻,深部感覚は肩,肘,手首は正常,指は中等度鈍麻, STEFは右65点,MALはAOU3.07,QOMは3.07,握力は20Kg,MMT5であった.食事では割り箸,書字,パソコン,電動ネジ回しも右上肢で可能となり自宅退院し元の職場に復職となった.「考察」Dohle はミラーセラピーとC I療法との併用で運動麻痺と感覚機能の改善に効果があるとしている.またcarlssonは能動的感覚再教育課題と課題指向型訓練を行うことで表在感覚閾値と上肢の使用頻度と動作の質が改善したと述べている.症例においては介入当初から筋の収縮や伸展の筋感覚がわずかに残存していたことから,筋収縮を利用して運動感覚を知覚していた可能性が考えられる.そのため視覚,感覚運動イメージ練習と反復した課題指向型練習でA D L動作を行うことで手指の道具のフォームや出力調整を円滑にし,視覚代償も行いながら反復することで利き手の機能が獲得できたのではないかと考える.残存した感覚を活かした再教育訓練と運動イメージを併用し反復した高頻度の課題練習を行うことで感覚障害を呈していてもA D L動作や復職に必要な上肢動作は獲得できる可能性があるのではないかと考える.