[PA-4-13] 中央線のないドライビングシミュレータコースで不安定な運転挙動が観察された右視床出血例
<はじめに>
右半球損傷患者に対する自動車運転評価において運転操作課題(Honda®セーフティナビ)の有用性が報告されている.中央線の有無により,運転操作課題のパフォーマンスが大きく変化した症例を経験した.本症例のDriving Simulator(以下,DS)評価訓練の経過,中央線の有無によるパフォーマンスの違いについて考察したので報告する.報告にあたり,本症例より書面で同意を得た.
<症例情報>
症例は60代男性,トラック運転手,独居である.右視床出血による左片麻痺を発症し他院での加療後,発症21日目リハビリテーション目的で当院転院し作業療法を開始した.ニードは職場復帰で,「運転がダメならすぐ退院する」と述べた.運転環境は「早朝~夜間」「高速道路」の運転行動様式だが,勤務時間等の調整は可能であった.身体機能は,BRS上肢V,手指V,下肢Ⅴ,感覚障害は軽度鈍麻,FIM:105点,HDS-R:28点,MMSE:29点.発症後30日目から開始した神経心理学的検査ではTMT A:42秒,B:150秒,かな拾い:89%,KBDTはIQ80.2,J-SDSAは運転適性あり(合格式:14.869,不合格式:11.774),BIT:通常検査146点,ROCF:模写32.5点で右側から描き始めた.観察上,独歩自立レベルだが, 通路左端寄りに歩く,左足元の荷物に躓く,訓練時間を覚えていないことがあり,USN,受動性注意の低下,記憶障害を疑った.
DSの市街地コースでは,衝突イベントはなく概ね良好であったが,「中央線のない道路上の車体位置の不安定さ」「左折時の不安定な挙動」を認めた.運転操作課題(視野・単純反応・曲線路)では車体位置が左寄りに乱れ,刺激の見落としが左画面左端1列と左画面中心と右画面右上に見られ,反応時間は左空間で大きく遅延していた.現状では運転は厳しい状態であるが,徐々に改善しているため訓練継続を医師から提案しリハ継続となった.
<DS訓練介入の経過および結果>
DS訓練では,市街地コース,運転操作課題(視野・曲線路・単純/選択反応・中央線有/無)を実施した.業務を想定した環境下(夜,高速,会話)での市街地走行は大きな問題はなかった.トラック業務は高速道路,無線での会話等注意力を要する運転環境が予測されることから,運転操作課題の選択反応課題も実施した.中央線の表示のある従来の選択反応課題では誤差率平均値の右方向の数値が-24.243%,左方向が100.362%,左画面左下(C1)に1度見落とし,横のC2の遅延があるものの車体位置もほぼ正中となり改善がみられた.しかし,中央線の表示を消す改良を加えた選択反応課題は誤差率平均値の右方向の数値が-121.254%,左方向が132.794%と,最後まで車体位置が動揺し,C1は3度見落とし,左画面左端中央と右画面右上は平均反応時間が1秒を超えた.中央線の有無でパフォーマンスが大きく変わったことで本症例も今までと違うことに気づきを得た.
<考察>
DSでの車両位置偏位などの特徴が観察されたが,運転に関する自己認識の改善があり,全般性注意機能の改善が方向性注意機能の低下を補完した可能性が示唆された.中央線の無い道路は,右方向からの手がかりが得られず車体位置が不安定となり,車両の制御に注意のリソースが割かれたため反応の見落としや遅延を生じた可能性がある.このことからUSNを疑う患者にとって中央線がない道路は難しい道路状況であることが考えられた.
右半球損傷患者に対する自動車運転評価において運転操作課題(Honda®セーフティナビ)の有用性が報告されている.中央線の有無により,運転操作課題のパフォーマンスが大きく変化した症例を経験した.本症例のDriving Simulator(以下,DS)評価訓練の経過,中央線の有無によるパフォーマンスの違いについて考察したので報告する.報告にあたり,本症例より書面で同意を得た.
<症例情報>
症例は60代男性,トラック運転手,独居である.右視床出血による左片麻痺を発症し他院での加療後,発症21日目リハビリテーション目的で当院転院し作業療法を開始した.ニードは職場復帰で,「運転がダメならすぐ退院する」と述べた.運転環境は「早朝~夜間」「高速道路」の運転行動様式だが,勤務時間等の調整は可能であった.身体機能は,BRS上肢V,手指V,下肢Ⅴ,感覚障害は軽度鈍麻,FIM:105点,HDS-R:28点,MMSE:29点.発症後30日目から開始した神経心理学的検査ではTMT A:42秒,B:150秒,かな拾い:89%,KBDTはIQ80.2,J-SDSAは運転適性あり(合格式:14.869,不合格式:11.774),BIT:通常検査146点,ROCF:模写32.5点で右側から描き始めた.観察上,独歩自立レベルだが, 通路左端寄りに歩く,左足元の荷物に躓く,訓練時間を覚えていないことがあり,USN,受動性注意の低下,記憶障害を疑った.
DSの市街地コースでは,衝突イベントはなく概ね良好であったが,「中央線のない道路上の車体位置の不安定さ」「左折時の不安定な挙動」を認めた.運転操作課題(視野・単純反応・曲線路)では車体位置が左寄りに乱れ,刺激の見落としが左画面左端1列と左画面中心と右画面右上に見られ,反応時間は左空間で大きく遅延していた.現状では運転は厳しい状態であるが,徐々に改善しているため訓練継続を医師から提案しリハ継続となった.
<DS訓練介入の経過および結果>
DS訓練では,市街地コース,運転操作課題(視野・曲線路・単純/選択反応・中央線有/無)を実施した.業務を想定した環境下(夜,高速,会話)での市街地走行は大きな問題はなかった.トラック業務は高速道路,無線での会話等注意力を要する運転環境が予測されることから,運転操作課題の選択反応課題も実施した.中央線の表示のある従来の選択反応課題では誤差率平均値の右方向の数値が-24.243%,左方向が100.362%,左画面左下(C1)に1度見落とし,横のC2の遅延があるものの車体位置もほぼ正中となり改善がみられた.しかし,中央線の表示を消す改良を加えた選択反応課題は誤差率平均値の右方向の数値が-121.254%,左方向が132.794%と,最後まで車体位置が動揺し,C1は3度見落とし,左画面左端中央と右画面右上は平均反応時間が1秒を超えた.中央線の有無でパフォーマンスが大きく変わったことで本症例も今までと違うことに気づきを得た.
<考察>
DSでの車両位置偏位などの特徴が観察されたが,運転に関する自己認識の改善があり,全般性注意機能の改善が方向性注意機能の低下を補完した可能性が示唆された.中央線の無い道路は,右方向からの手がかりが得られず車体位置が不安定となり,車両の制御に注意のリソースが割かれたため反応の見落としや遅延を生じた可能性がある.このことからUSNを疑う患者にとって中央線がない道路は難しい道路状況であることが考えられた.