[PA-4-14] 自己評価が高い症例に対する実車講習後のフィードバック
コーチングを用いたことでメタ認知が変化した一例
【はじめに】自動車運転においては,自身を客観視するメタ認知が重要であるとされている.今回,処理速度の低下をはじめとする高次脳機能障害を呈した患者様の自動車運転の再開を当院外来にて支援する機会を得た.実車評価のみでは本人の自己の自動車運転への気づきは得られにくく,実車評価後の外来でコーチングを用いた振り返りが症例の自動車運転に対する認識の変化に有効であったため以下に報告する.症例には発表に関する同意を得ている.
【症例紹介】60歳代女性.X日浴室で体動困難になっている状態で発見された.急性期病院に搬送され,右中大脳動脈領域の脳梗塞と診断されその後当院へ転院.X+113日に自宅退院となったが,この時点では高次脳機能障害も残存しており,自動車運転の再開は見送りとなった.X+314日に再開の希望があり,当院外来を開始することになった.
【作業療法評価】著明な運動麻痺なく,神経心理学的検査結果からは全般的な注意障害を認めた. Hondaセーフティーナビにおいては,反応速度の低下と同時処理の低下が認められた.また,自動車運転に対する自信度をVisual Analogue Scaleで1点(全く自信がない)~10点(病前と同様に運転できる)に点数化すると検査実施前は8点,実施後は6点であった.
【実車評価結果】X+392日に自動車教習所にて実車評価を教習指導員(以下,指導員),症例,作業療法士(以下,OT)同乗のもと実施した.主な問題点としては①左側から人が出てきた際,スピード・走行位置に変化がなく指導員に補助ブレーキを踏まれた.(その場で指導員からのフィードバックあり)②車両の走行位置の理解不十分③二重課題下での信号の見落としなどを認めた.構内講習実施後に路上を走行予定であったが,指導員の判断で実施は見送られた.実車評価後の症例の自信度は6点であり,発言としては「飛び出しには気をつけなければならない」など抽象的な発言が多かった.また「いつ運転を再開できますかね?」などの発言もみられた.
【外来での振り返り】1週間後に実車評価で撮影したドライブレコーダーをもとに振り返りを実施した.当初,症例の発言としては「左から飛び出してきた場面があって気を付けないといけないと思った.」と補助ブレーキを踏まれた印象的な場面の想起はできたが,具体的な危険性の認知は不十分であった.そこでコーチング法を用い症例の意見を傾聴し理解度を確認しながらコミュニケーションを進め,適宜検査結果などのティーチングも行った.結果として,「人を確認した段階で事前にスピードを落とすとか飛び出してくるかもしれないとか考えておくこと.」など,症例から対応策の発言がみられた.
【考察】今回の症例は,実車講習のみではメタ認知の変化は見られず,「運転ができた」という経験のみで終了してしまったと思われる.実車講習後の自己認識に変化がなかった症例に対して危険場面を指摘するなどの一方向のコミュニケーションでは,反発を生み関係性を崩してしまうと考え,実車講習で実際に起きた問題点を絞りコーチング法で症例の意見や理解度を確認しながら振り返りを実施した.症例がどの段階での認識が不足しているかを確認しながらコミュニケーションを進めたことでOTは症例に今回の障害による影響を伝えるタイミングが図りやすくなったと思われる.適切なタイミングで伝えたことで,症例の中で今回の体験と障害予測を結び付けることができ,抽象的であった問題点の具体化と今後の予測的な対応策について考えやすくなったかと思われる.その結果として症例自身のメタ認知を向上に繋がったのではないかと考える.
【症例紹介】60歳代女性.X日浴室で体動困難になっている状態で発見された.急性期病院に搬送され,右中大脳動脈領域の脳梗塞と診断されその後当院へ転院.X+113日に自宅退院となったが,この時点では高次脳機能障害も残存しており,自動車運転の再開は見送りとなった.X+314日に再開の希望があり,当院外来を開始することになった.
【作業療法評価】著明な運動麻痺なく,神経心理学的検査結果からは全般的な注意障害を認めた. Hondaセーフティーナビにおいては,反応速度の低下と同時処理の低下が認められた.また,自動車運転に対する自信度をVisual Analogue Scaleで1点(全く自信がない)~10点(病前と同様に運転できる)に点数化すると検査実施前は8点,実施後は6点であった.
【実車評価結果】X+392日に自動車教習所にて実車評価を教習指導員(以下,指導員),症例,作業療法士(以下,OT)同乗のもと実施した.主な問題点としては①左側から人が出てきた際,スピード・走行位置に変化がなく指導員に補助ブレーキを踏まれた.(その場で指導員からのフィードバックあり)②車両の走行位置の理解不十分③二重課題下での信号の見落としなどを認めた.構内講習実施後に路上を走行予定であったが,指導員の判断で実施は見送られた.実車評価後の症例の自信度は6点であり,発言としては「飛び出しには気をつけなければならない」など抽象的な発言が多かった.また「いつ運転を再開できますかね?」などの発言もみられた.
【外来での振り返り】1週間後に実車評価で撮影したドライブレコーダーをもとに振り返りを実施した.当初,症例の発言としては「左から飛び出してきた場面があって気を付けないといけないと思った.」と補助ブレーキを踏まれた印象的な場面の想起はできたが,具体的な危険性の認知は不十分であった.そこでコーチング法を用い症例の意見を傾聴し理解度を確認しながらコミュニケーションを進め,適宜検査結果などのティーチングも行った.結果として,「人を確認した段階で事前にスピードを落とすとか飛び出してくるかもしれないとか考えておくこと.」など,症例から対応策の発言がみられた.
【考察】今回の症例は,実車講習のみではメタ認知の変化は見られず,「運転ができた」という経験のみで終了してしまったと思われる.実車講習後の自己認識に変化がなかった症例に対して危険場面を指摘するなどの一方向のコミュニケーションでは,反発を生み関係性を崩してしまうと考え,実車講習で実際に起きた問題点を絞りコーチング法で症例の意見や理解度を確認しながら振り返りを実施した.症例がどの段階での認識が不足しているかを確認しながらコミュニケーションを進めたことでOTは症例に今回の障害による影響を伝えるタイミングが図りやすくなったと思われる.適切なタイミングで伝えたことで,症例の中で今回の体験と障害予測を結び付けることができ,抽象的であった問題点の具体化と今後の予測的な対応策について考えやすくなったかと思われる.その結果として症例自身のメタ認知を向上に繋がったのではないかと考える.