第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-4-16] 出張型自動車教習による実車評価にて運転再開に至った脳損傷者の2症例

倉澤 直樹1, 下田 辰也1, 糸川 悦子1, 野崎 貴裕1, 山中 義崇1,2 (1.国保直営総合病院 君津中央病院 リハビリテーション科, 2.千葉大学医学部附属病院 浦安リハビリテーション教育センター)

【はじめに】
脳損傷者における自動車運転評価は実車評価がゴールドスタンダードであるが,その評価における明確な基準は示されていない.その中で脳損傷後の実車評価では種々の運転場面における運転行動を詳細に評価することが推奨されている(生田ら2019).当院では3年前より出張型自動車教習にて自由なコース設定を行い,症例毎の運転環境に応じた実車評価を実施し,多様な運転場面における運転行動を評価してきた.本報告では出張型自動車教習による実車評価が復職・運転再開指導に有効と考えられた2症例を報告する.なお,倫理的配慮として,発表にあたり本人・家族には十分に説明し同意を得ている.
【方法】
症例1:左内包ラクナ梗塞の50代男性,バス運転手である.顕著な身体機能の低下はなく,早期にADLは自立した.神経心理学検査では,注意機能の低下を認め,運転再開支援として外来にて作業療法(OT)を継続した.注意機能は改善を認めたが,日本版脳卒中スクリーニング評価のDot抹消では33個と多数の見落としを認めた.バス運転手の復職支援にあたり,発症から約2ヵ月の段階で実際のバス運転経路にて時刻表時間の管理をしながら実車評価を実施した.
症例2:心原性脳塞栓症(右前頭葉)の60代男性である.軽度の左麻痺及び注意障害を呈し,回復期病院へ転院した.回復期病院を退院後,運転再開支援として当院外来でOTを実施した.ADLは自立し,Trail Making Test日本版はA43秒(境界),B91秒(異常)と注意機能の低下を認めていた.発症から約4ヵ月の段階で自宅周囲の生活道路を中心に実車評価を実施した.
【結果】
症例1:バス運転を想定した確実な安全確認や高度な運転操作に問題はみられなかった.また,時刻表の管理は停留所での時間を確認しながら,その都度運行計画の変更や決定を行うなどの柔軟な対応が可能であった.運転行動と時間管理のマルチタスクの遂行に問題はなく,職業ドライバーとして十分な結果であった.
症例2:交通量の多い片側2車線道路では,多方向へ注意を向けると速度超過をしてしまう傾向がみられたが,自宅周囲の交通量の少ない道路では運転行動に問題はみられなかった.ROADテストは45/60点であった.主治医や指導員と協議し,自宅周囲での限定的な運転再開許可となった.
【考察】
症例1では,出張型自動車教習で多様な運転場面の評価が実施できた. Michonは,運転における認知機能に関し,3つの階層構造を提唱している.その一つにStrategical levelと呼ばれる運行計画や変更,決定などに関わる高度な遂行機能を要す階層がある.出張型自動車教習での自由度の高い実車評価により,バス運転手には重要となるStrategical levelの評価がより詳細に可能となったと考える. 症例2では,交通量の少ない自宅周囲限定で運転再開許可となった. 脳損傷者のドライビングシュミレーターによる先行研究では,交通量の多い場面で事故や違反が増加することが示されている(Hirdら2015). また, 運転調整行動をとることで安全性が向上すると報告がされている.(小菅2017).症例の実際の運転環境にて評価したことで,運転調整行動を取り入れた運転再開が可能になったと考える.出張型自動車教習は様々な条件での路上評価を行え,脳損傷後の実車評価に有効であることが示唆された.