第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-4-18] 当院の自動車運転支援にて運転適性ありと判断された脳損傷者が起こした事故状況に関する一考察

美保 良典, 東 久也, 妹尾 博貴, 西澤 樹, 江﨑 貞治 (社会医療法人大雄会 総合大雄会病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
自動車運転は日常生活や社会参加に不可欠とされ,脳損傷者への自動車運転再開を目指す取り組みも散見されるが,その後の事故状況に関する報告は少ない.今回は,当院の自動車運転支援にて運転適正ありと判断された脳損傷者の追跡調査の中で,事故を起こしていた患者へ直接連絡を取り,事故発生の要因を考察した.
【対象と方法】
2019年7月〜2023年3月の期間に当院の自動車運転支援にて運転適正ありと判断された脳損傷患者 164 名の追跡調査の中で,事故を起こしていた5名に直接連絡を取り,事故内容,事故当時の心理状況,生活状況,受診状況を聴取した.また,各事例の診療情報は電子カルテより後方視的に調査した.本報告は各事例の同意を得ている.
【結果】
事故を起こしていた5名中4名と連絡が取れた.事例①は,60代前半の男性,診断名は脳腫瘍摘出後,事故内容は,駐車中の後方への軽度接触.後方に注意はしていたが「縁石があるはず」と思い込んでいたと回答.事例②は,60代後半の男性,診断名は急性硬膜下血腫,既往歴に狭心症と糖尿病あり.事故内容は,意識消失による追突事故.脳外科,内分泌内科,循環器内科で意識消失の原因は断定されていない.事例に意識消失歴はなく,処方薬も服用し,各科から運転の制限は無かった.しかし,事故前日から普段と異なる胸の違和感があり「調子は悪いが大丈夫だろう」と考え運転したと回答.事例③は50代前半の男性,診断名は脳梗塞,事故内容は,信号のない交差点で出会い頭の衝突.慣れた車道で止まれの標識も認識していたが,車通りが少ないため「いいだろう」と思い,交差点侵入時の減速を怠ったと回答.事例④は20代後半の男性,診断名は脳梗塞,軽度失語症あり.事故は2件.1件目は右折時,曲がりきれず左前輪が田んぼに脱輪.2件目は左折時,曲がりきれず停車中の車両に車体右前方部を衝突.2件の事故は就労開始し約2週間経過した同時期に発生.事例は勤め先の指導員から指導を受けながら復職したが,社内の高次脳機能障害への理解は乏しく,ミスに対し叱責されることが多かった.その頃から腹痛の症状認め,本人も「あの頃は毎日憂鬱で頭も回っていなかった」と回答.事故もそのタイミングに発生.現在は退職.就労開始前や退職後の運転は事故なく経過している.尚,各事例,支援当時や定期的な脳外科診療で医学的管理上の問題は指摘されておらず,身体・高次脳検査・活動評価結果は当院の基準値に達している.事例③④では実車教習を実施したが事故内容に類似した危険事象は認めていない.
【考察】
各事例,支援当時より医学的管理上の問題は指摘されておらず,身体・高次脳検査・活動評価結果が当院の基準値に達していたこと,また事例③④は実車教習でも事故内容に類似した危険事象は認めなかったことから,少なくとも当院の評価システムでは各事故の予測は困難であった.しかし,事例①③は,脳外科の外来診療でも病状の悪化なく経過し,事故内容が思い込みの影響の可能性もあったことを考慮すると,脳疾患が直接の事故要因とは限らず,一般的に起こりうる事故のリスクも含めて慎重に解釈する必要がある.事例②では,意識消失の原因が定かでないが,少なくとも日々の体調管理や,体調に応じ運転を控えるなどの自己判断が事故防止に重要であった可能性が考えられた.事例④では,復職後の心理状態の悪化に伴う事故の可能性も否定しきれない.そのため,運転支援のみならず,その後の就労を意識した関わりも事故防止に重要であった可能性が考えられた.