第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-4-2] 新たな上衣の着衣方法により自立に至った左片麻痺患者の一症例

佐々木 貴1, 所 和彦2 (1.神奈川県総合リハビリテーションセンター 作業療法科, 2.神奈川県総合リハビリテーションセンター 脳神経外科)

【はじめに】上衣はかぶりシャツと前開きシャツに分けられ,Tシャツなどのかぶりシャツは入院中や在宅においても使用頻度が高い.しかし,脳血管障害により左半側空間無視を伴う左片麻痺患者のかぶりシャツの着衣は,動作の習得の困難さをよく経験する.一般的な着衣動作の方法として,衣服を事前に広げる,袖などに目印を付ける,袖は前腕部分に溜めておかず肘から肩関節まで引き上げるなどの手順を反復練習することで動作の獲得を目指す.しかし上記の方法と反復練習で手順など習得可能となるが,衣類が動くことによる前後左右の修正や同時的な注意(麻痺側上肢の袖が抜けないように非麻痺側上肢や頭部の通しを行う)は反復練習では困難で動作獲得に至らないことが多い.そこで,今回,かぶりシャツの着衣動作の自立に難渋した左片麻痺・左半側空間無視を呈する症例を通し,混乱しにくい動作方法により着衣動作の獲得に至ったため報告する.なお,発表において,症例から書面による同意を得ている.
【症例紹介】60歳代男性,右利き,右視床出血,脳室穿破を認めた.発症から19日で当院に転院し作業療法を開始した.
【作業療法評価と経過】左片麻痺を呈し,Brunnstrom Stage上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅱで左身体に重度の表在・深部感覚障害を認めた.車椅子や左身体の安全管理は常に声掛けが必要であった.座位バランスの改善により当院入院後22日から日常生活活動(以下,ADL)訓練を開始した.当院入院後70日で下衣の着脱・トイレ動作は見守りとなったが,かぶりシャツの着衣は介助を要していた.
【上衣の着衣の問題点】端座位姿勢でのかぶりシャツの着衣は,衣類を広げること,麻痺側上肢を通すことは単独で可能となった.問題となったのは,①麻痺側上肢を入れた際,衣類が動いてしまい前後左右が乱れて混乱する,②非麻痺側上肢・頭部を通す際,麻痺側上肢の袖が肘以遠に下がる,または抜けてしまい遂行困難となることが反復練習において継続していた.そこで,上記2点を改善する方法を検討した.
【新たな着衣の方法】衣類の張りを常に作ることに着目し,動作の検討を行った.当院入院後79日から,①衣類を広げた後,非麻痺側袖を同側大腿の下で挟みながら麻痺側手部の袖を通す,②非麻痺側袖は同側大腿の下で挟んだまま,麻痺側上肢を同側臀部外側へ下ろし,麻痺側袖を肘より上方へ上げていく,③非麻痺側袖を同側大腿の下で挟んだまま,同側上肢を通していく,④頭部を通すことを実践した.新たな着衣の方法を開始してから8日目(入院後86日)に単独で可能となった.担当看護師と動作を共有し,かぶりシャツの着脱を病棟にて実践し自立に至った.
【考察】症例は,衣類が動くことによる前後左右の修正や同時的な注意(麻痺側上肢の袖が抜けないように非麻痺側上肢や頭部の通しを行う)は反復練習では改善がみられなかった.今回の新たな着衣方法は,基本的な手順は変わらず行えたため動作手順の混乱は生じなかった.非麻痺側袖を同側大腿の下で挟むことで支点となり,麻痺側上肢の袖通しに対して衣類が前後左右に終始,動かず遂行可能となった.また非麻痺側袖の支点と麻痺側上肢の位置(臀部外側)での衣類の張りにより,麻痺側袖が下がらず,着衣の一連の流れを終始停滞することなく動作が遂行できたと思われる.佐藤ら(2007)は,「失敗体験が拒否的感情を引き起こし,モチベーションを低め,ADLの自立度向上の妨げとなり得る」と述べている.1)ADL向上に反復練習は必要であるが,失敗を繰り返す反復練習は負の感情へ繋がるため,ADLの練習において成功体験となる支援方法が重要と考える.