[PA-4-20] 急性期脳梗塞後の長期的な関わりにより運転再開に至った一例
はじめに 当院は三次救急医療機関であり,患者は退院後にかかりつけ医に受診する為,当院で自動車運転の再評価を行うことは稀である.この度,脳卒中急性期に自動車運転困難と判断したが,当院で再評価を行う機会があり,実車教習を得て自動車運転再開した症例を経験したので報告する. 症例紹介 A氏,70代男性,X年Y月Z日溶血性貧血の加療目的で血液内科入院,ステロイドにて加療.Z+4日話しにくさと左半身の動かしにくさを自覚.頭部MRIにて右放線冠脳梗塞と診断.Z+17日リハビリテーションが処方された.A氏は,月に数回隣県まで片道3時間程度車で通い農業を行っていた生活歴があり,自動車運転再開希望があった.自動車運転に関する法令と再開までの手順を医師と共に確認し,実用的な移動手段の獲得の為に作業療法を実施した.なお,この研究の参加について同意を得た(倫理審査委員会No.2022-52). 評価 著明な運動麻痺,感覚障害を認めず,MMSE 30点,TMT-A 異常(57秒),TMT-B 境界(83秒),Rey複雑図形模写33点,ドライビングシミュレーター(Hondaセーフティナビ;以下,DS) 単純反応検査(速さ 平均0.428秒,ムラ 標準偏差0.1818秒) ハンドル操作(速さ 平均2.009秒,正確さ 的中率34.4%,適応性 差分0.635秒,左右バランス(-)22.0%) 危険予測体験 事故1回(本線合流時後方不注意にて追突事故) 評価結果からカンファレンスにて協議を行い,注意力低下による問題が大きく運転再開不可と判断された.A氏に運転再開に関する法令と再開までの手順を説明したところ理解可能であったので,公共交通機関の利用と行政サービスについてパンフレットを手渡した.3カ月後に再評価を行うこととしてZ+25日に退院.後日,妻より荷物を散らかしてよく物を探している,今までとは別人のようとのエピソードあり.Z+90日,妻からも退院直後よりは落ち着いてきたとのことで運転再開に対する理解も得られた為に,再評価を行った. 再評価 MMSE 30点,TMT-A 正常(37秒),TMT-B境界(79秒),Rey複雑図形模写35点,DS 単純反応検査(速さ平均0.374秒,ムラ 標準偏差0.0638秒) ハンドル操作(速さ 平均1.672秒,正確さ 的中率40.6%,適応性 差分0.830秒,左右バランス(-)100%) 危険予測体験 事故1回(本線合流時後方不注意にて追突事故) 再評価結果をもとにA氏,医師,筆者で協議しDS上では事故を認めたが,その他の紙面上の検査は改善されていたこともあり,実車による確認を行った上で再度運転再開の可否を判断することとなった.筆者は医師を通じて情報提供を行った.後日,教習所での実車確認による結果を踏まえて協議し,隣県までといった長距離運転は避け,自宅のある比較的交通量の少ない地域での運転から再開することとなった. 考察 運転再開の是非を判断する時期について,一定の見解はないとされている(脳卒中・脳外傷者の自動車運転に関する指導指針,2021).当院は三次救急医療機関であり,再評価を行う機会は極めて少ない.A氏が運転再開できたのは,再評価時期の検討や手順を医師と確認し,実車評価を行うための情報提供や評価結果の共有,患者教育等を行ったことである.また,血液内科にて当院外来診察を継続していたことや,家族から自宅での情報を得やすい状態であったことも挙げられる.これらの橋渡しを作業療法士が中心となって担っていたことが再評価に繋がった要因であると考える.作業療法の役割として,他職種や患者に対し運転までの手順などを説明し,運転再開不可と判断された症例についても再評価の機会を設け,移動手段の検討を行うことも必要であると考える.