第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-4-22] 運動麻痺と失行症を呈した症例に対するスプーン操作の各過程に着目した介入報告

平見 彩貴, 寺田 萌, 石橋 凜太郎, 市村 幸盛 (医療法人穂翔会村田病院 リハビリテーション部)

【はじめに】失行症の治療介入は,機能代償と機能再建に分類されるが介入効果の汎化の有無に関する研究結果が一貫していないという指摘がある(Dovernら,2012).今回,左脳梗塞後に重度の運動麻痺,失行症を呈した一症例に対し,スプーン操作の獲得を目指して機能代償と機能再建を目的とした介入を組み合わせて実施した結果を報告する.
【症例】本発表に同意を得た80歳代右利き男性.病前のADLは自立であった.左被殻梗塞を発症し,第3病日に梗塞拡大を認めたが保存的治療で経過観察となった.
【作業療法評価】発症3か月後のBRSは右上肢Ⅲ手指Ⅳ,FMAは23点,感覚は軽度鈍麻であった.高次脳機能面は,MMSEは29点,SPTAの運動麻痺の影響を除いた修正誤反応率は36%で模倣障害やジェスチャー障害を認めた.Demandは右手での食事動作の獲得であり,スプーンの把持が可能で,肘を屈曲し手を口へ到達させることは可能であったことから目標として設定した.スプーン操作については,すくう過程はスプーンを食物へ当てることは可能だが,前腕の回内外が生じず肘が屈曲するため,左手で把持した食器を努力的に動かしてスプーンに食物を乗せていた.その後は肩外転・肘屈曲・前腕回内の運動がわずかに出現するのみで口へ運ぶ過程は困難であった.ただし,すくう過程を介助すれば頸部突出による代償を用いて食物を口へ入れることは可能であった.また,肘の運動が狭小化するなどの日差が生じていた.食物をすくって口へ運ぶという一連動作の成功率は0%,満足度・遂行度は3/10点で,「口元でもう少し手のひらを返したい」と発言があった.そこで,失行症の運動イメージ評価であるフロリダ・テストを参考に各過程で最も必要となる運動部位を理解しているかを問うと,口へ運ぶ過程は肘関節と正答したが,すくう過程は手関節と誤答し使用する運動部位のイメージ低下を認めた.これらから,スプーン操作の各過程に共通して失行症の影響があり,特に,すくう過程は運動イメージの低下により動作に必要な運動部位の理解が低下していると考えた.
【介入】失行症患者は運動学習効果が少ないと報告されている(Muthaら,2017).よって,スプーン操作の定着を目的に実際の食事場面でエラーレスラーニング(Goldenbergら,1998)を実施した.また,すくう過程においては運動イメージの低下を認めており,適切な運動イメージを想起させるために視覚と体性感覚の比較照合課題(大植ら,2011)を並行して実施した.介入期間は8日間で,1日に比較照合課題を20分,食事訓練を40分実施した.
【結果】BRSは右上肢Ⅲ手指Ⅳ,FMAは22点となった.SPTAの修正誤反応率は31%となった.スプーン操作の運動部位の理解は,すくう過程は「腕の返しが大事」と回答し,頸部の代償は軽度に残存したが一連動作の成功率は84.8%,満足度・遂行度は7/10点となった.前腕回外の不十分さや努力性から,食物の形状によってはすくう量が少なくなり操作回数が増加するため疲労感は残存した.
【考察】スプーン操作をすくう過程と口へ運ぶ過程に分けて,両方の過程で失行症への介入が重要と考え,機能代償を目的としたエラーレスラーニングを行った.加えて,すくう過程に対しては運動イメージの生成を促す機能再建を目的とした比較照合課題を行ったことで適切な運動が行えるようになったと考えた.各過程に沿って病態を解釈し,機能代償と機能再建の介入を組み合わせたことでスプーン操作の改善に繋がったと考えられた.