[PA-4-4] 前頭葉機能低下によってADL重介助を要した事例に対し,習慣であった化粧を行ったことで整容動作の自立度が向上した一例
はじめに
前頭葉機能の低下が認められるとADLの低下を伴うことから,包括的なリハビリテーションが必要とされている(Honda Y/2013).また,ADLに焦点を当てた作業療法は,より健康促進や自立に向けた精神面の効果を期待できるとも報告されている(Legg L/2006).今回,脳挫傷により前頭葉機能の低下を認め,指示が入らずADLにて重介助を要した事例に対して,習慣であった整容動作を導入した結果,ADLの改善を認めた為,以下に報告する.尚,報告に際して事例から同意を得ている.
事例紹介
80歳代女性.右脳挫傷.病前の生活はADL自立.町内会の集まりにも参加しゲートボールなど行っていた.また,毎日化粧をすることが習慣となっていた.発症後42日後に当院回復期病棟へ入院.入院時はベッドから自己転落やMGチューブの自己抜去などの問題行動から,上肢抑制や体幹ベルト,ミトンを使用していた. BRS左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ. FBI30点,FAB3点,MMSE10点,FIM23点(整容動作2点)その他のアウトカムは指示が入らず実施困難.
介入経過
【第Ⅰ期】(45~50病日)髪をブラシでとく事や歯磨きの2種類の動作だけは物品を提示することでスムーズに遂行可能であった.2つの項目を実施しているときにはポジティブな発言が多く見られたが,手洗いや洗顔を促すと「うるさいやらないよ」などと拒否的であり実施不可であった.その為,実施可能な整容動作中心にADL訓練を実施していった.【第Ⅱ期】(50~80病日)毎日の習慣を家族に聴取すると,町内会に積極的に参加しており,その際に化粧施すことを欠かさずおこなっていた.症例にも化粧の話をすると「外に出かける時はしっかりするよ」などと前向きに取り組める様子であった. そのことから,家族の協力のもとで症例の化粧道具を準備してもらい実施すると,「これは私のだね,使いやすいよ」などの発言や「最初はファンデーションからするんだよ」など化粧の順番を伝える場面もあった.集団では,拒否的な様子など動作の遂行度にムラがあったが,個室での静かな環境の中で行うなどの環境調整で段階づけた.【第Ⅲ期】(80~115病日)化粧動作は個室でない環境下でも物品を目の前に並べて提示することで,遠位監視にて可能となった.身なりを整えるか尋ねると自ら全身鏡の前に行く様子も見られ,髪を整える様子や服の乱れを直し「結構いいでしょ」などポジティブな発言や他者からの称賛に笑顔を見せることが多くなった.また,拒否的であった洗顔や手洗い動作においても「起きたから顔を洗わないと」など主体的な発言が見られるようになった.
結果
FBI45点.FAB7点,MMSE15点.FIM75点(整容動作5点)となり,整容動作の自立度が向上した.整容動作において「こうやればいいんだよ」や「手が汚いから洗わないと」など主体的な発言が見られるようになり,スムーズに動作を開始することが可能となった.
考察
意味のある作業での成功体験は能動的な行動を産出する機会となり,セルフケアといったほかの活動が向上すると報告している(小檜山修平/2013).本事例は前頭葉機能低下によりADL重介助を要していたが,整容動作の項目においては主体的に取り組める項目があり,化粧は習慣化しているものであった.重度高次脳機能障害を有していても,化粧など事例にとって意味のある作業を実施することでADLの自立度の改善に繋がったと考える.
前頭葉機能の低下が認められるとADLの低下を伴うことから,包括的なリハビリテーションが必要とされている(Honda Y/2013).また,ADLに焦点を当てた作業療法は,より健康促進や自立に向けた精神面の効果を期待できるとも報告されている(Legg L/2006).今回,脳挫傷により前頭葉機能の低下を認め,指示が入らずADLにて重介助を要した事例に対して,習慣であった整容動作を導入した結果,ADLの改善を認めた為,以下に報告する.尚,報告に際して事例から同意を得ている.
事例紹介
80歳代女性.右脳挫傷.病前の生活はADL自立.町内会の集まりにも参加しゲートボールなど行っていた.また,毎日化粧をすることが習慣となっていた.発症後42日後に当院回復期病棟へ入院.入院時はベッドから自己転落やMGチューブの自己抜去などの問題行動から,上肢抑制や体幹ベルト,ミトンを使用していた. BRS左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ. FBI30点,FAB3点,MMSE10点,FIM23点(整容動作2点)その他のアウトカムは指示が入らず実施困難.
介入経過
【第Ⅰ期】(45~50病日)髪をブラシでとく事や歯磨きの2種類の動作だけは物品を提示することでスムーズに遂行可能であった.2つの項目を実施しているときにはポジティブな発言が多く見られたが,手洗いや洗顔を促すと「うるさいやらないよ」などと拒否的であり実施不可であった.その為,実施可能な整容動作中心にADL訓練を実施していった.【第Ⅱ期】(50~80病日)毎日の習慣を家族に聴取すると,町内会に積極的に参加しており,その際に化粧施すことを欠かさずおこなっていた.症例にも化粧の話をすると「外に出かける時はしっかりするよ」などと前向きに取り組める様子であった. そのことから,家族の協力のもとで症例の化粧道具を準備してもらい実施すると,「これは私のだね,使いやすいよ」などの発言や「最初はファンデーションからするんだよ」など化粧の順番を伝える場面もあった.集団では,拒否的な様子など動作の遂行度にムラがあったが,個室での静かな環境の中で行うなどの環境調整で段階づけた.【第Ⅲ期】(80~115病日)化粧動作は個室でない環境下でも物品を目の前に並べて提示することで,遠位監視にて可能となった.身なりを整えるか尋ねると自ら全身鏡の前に行く様子も見られ,髪を整える様子や服の乱れを直し「結構いいでしょ」などポジティブな発言や他者からの称賛に笑顔を見せることが多くなった.また,拒否的であった洗顔や手洗い動作においても「起きたから顔を洗わないと」など主体的な発言が見られるようになった.
結果
FBI45点.FAB7点,MMSE15点.FIM75点(整容動作5点)となり,整容動作の自立度が向上した.整容動作において「こうやればいいんだよ」や「手が汚いから洗わないと」など主体的な発言が見られるようになり,スムーズに動作を開始することが可能となった.
考察
意味のある作業での成功体験は能動的な行動を産出する機会となり,セルフケアといったほかの活動が向上すると報告している(小檜山修平/2013).本事例は前頭葉機能低下によりADL重介助を要していたが,整容動作の項目においては主体的に取り組める項目があり,化粧は習慣化しているものであった.重度高次脳機能障害を有していても,化粧など事例にとって意味のある作業を実施することでADLの自立度の改善に繋がったと考える.