[PA-4-5] 模擬的就労訓練を通して生じた問題点に対する介入
PSBを用いた部分的課題指向型訓練が有効であった一症例
【はじめに】高次脳機能障害者に対する就労支援は個々人の障害状況に応じた支援が重要であるとされている (小松,2022).今回,高次脳機能障害患者に対し,模擬的就労訓練を通して新たに生じた問題点を共有して介入することで復職に至ったため報告する.
【症例】本報告に同意を得た60歳代右利きの男性.右頭頂葉皮質下出血により当院へ緊急搬送され,入院となった.運動・感覚麻痺はないが,左同名半盲と高次脳機能障害を呈していた.病前の職務は鉄道会社の清掃員であり,指定箇所の状態に合わせて優先順位を考慮しながら時間内に清掃を実施する必要があった.職場は復職に対して協力的であった.
【作業療法評価】第24-27病日のMMSEは24点,BITは通常検査130点,行動検査79点,BADS15点,TMT-J(A/B)120/277秒であった.病院内ADLは自立となったが,屋外歩行は監視であった.
【介入・経過】病前の職務では,作業を計画的に行う必要があった.そのため,難易度がより低いと思われる日常生活における計画性を対象に,スケジュール帳を用いて行動計画を立案させた.当初は,自身が立案した行動計画の遂行を優先したため,疲労により完遂することができなかった.さらに,疲労による作業効率低下を軽視していたため,疲労時に行動計画を修正することはなかった.そこで,自身の疲労に対する認識と,それに伴う行動計画の立案を促すために,行動後の内省をスケジュール帳へ記載させた.結果,疲労状態に合わせた適切な行動計画の立案・実施が可能となった.次に,制限時間内に院内の指定箇所を清掃させる模擬的就労訓練を実施させると,制限時間内に清掃を終わらせることはできなかった.原因を尋ねると,「時計を見ていないから」と答え,問題点を解決するために必要なことを尋ねると,「清掃箇所ごとに時間の確認をする」と解決策を自ら考案することができた.解決策を基にした行動計画では,制限時間内の清掃は可能となり,それ以降も定着していた.しかし,清掃範囲の拡大や時間の延長など難易度を徐々に高めると,疲労の高まりとともに左の障害物にぶつかるという問題が生じた.これに対しては,「左を意識すると疲れる」と原因を思考することができたが,具体的な解決策を自ら見出すことはできなかった.そのため,左側の障害物を増やした環境下での清掃を実施し,意識的に左空間に注意を向ける行動の習慣化を促した.
【結果】第63-65病日にはBADS21点,TMT-J(A/B)88/142秒と改善を認めた.ADLは屋外歩行を含め自立となった.左の障害物への衝突や清掃後の疲労は減少し,第72病日に自宅へと退院した.退院後は自身で1日の行動を計画する必要があったため,第78病日から外来OTとして生活内での行動計画に対する指導を継続した.第116病日,産業医の判断により復職した.
【考察】模擬的就労訓練は,可能な限り実際の職場の職務を行うことでその能力向上が直接復職の可能性と直結するうえで有効であるとされている (倉持,2009).本症例では,模擬的就労訓練を通じて行動計画の立案・実行が可能となったが,「左を意識すると疲れる」という新たな問題点が生じた.半側空間無視に対するトップダウンアプローチは,左側の注意が向きやすくなり無視空間への注意を高めるとされている (菅波,2018)ため,環境を設定して意識的に左空間に注意を向ける行動を習慣化したことが,復職に至った一要因であると考えた.
【症例】本報告に同意を得た60歳代右利きの男性.右頭頂葉皮質下出血により当院へ緊急搬送され,入院となった.運動・感覚麻痺はないが,左同名半盲と高次脳機能障害を呈していた.病前の職務は鉄道会社の清掃員であり,指定箇所の状態に合わせて優先順位を考慮しながら時間内に清掃を実施する必要があった.職場は復職に対して協力的であった.
【作業療法評価】第24-27病日のMMSEは24点,BITは通常検査130点,行動検査79点,BADS15点,TMT-J(A/B)120/277秒であった.病院内ADLは自立となったが,屋外歩行は監視であった.
【介入・経過】病前の職務では,作業を計画的に行う必要があった.そのため,難易度がより低いと思われる日常生活における計画性を対象に,スケジュール帳を用いて行動計画を立案させた.当初は,自身が立案した行動計画の遂行を優先したため,疲労により完遂することができなかった.さらに,疲労による作業効率低下を軽視していたため,疲労時に行動計画を修正することはなかった.そこで,自身の疲労に対する認識と,それに伴う行動計画の立案を促すために,行動後の内省をスケジュール帳へ記載させた.結果,疲労状態に合わせた適切な行動計画の立案・実施が可能となった.次に,制限時間内に院内の指定箇所を清掃させる模擬的就労訓練を実施させると,制限時間内に清掃を終わらせることはできなかった.原因を尋ねると,「時計を見ていないから」と答え,問題点を解決するために必要なことを尋ねると,「清掃箇所ごとに時間の確認をする」と解決策を自ら考案することができた.解決策を基にした行動計画では,制限時間内の清掃は可能となり,それ以降も定着していた.しかし,清掃範囲の拡大や時間の延長など難易度を徐々に高めると,疲労の高まりとともに左の障害物にぶつかるという問題が生じた.これに対しては,「左を意識すると疲れる」と原因を思考することができたが,具体的な解決策を自ら見出すことはできなかった.そのため,左側の障害物を増やした環境下での清掃を実施し,意識的に左空間に注意を向ける行動の習慣化を促した.
【結果】第63-65病日にはBADS21点,TMT-J(A/B)88/142秒と改善を認めた.ADLは屋外歩行を含め自立となった.左の障害物への衝突や清掃後の疲労は減少し,第72病日に自宅へと退院した.退院後は自身で1日の行動を計画する必要があったため,第78病日から外来OTとして生活内での行動計画に対する指導を継続した.第116病日,産業医の判断により復職した.
【考察】模擬的就労訓練は,可能な限り実際の職場の職務を行うことでその能力向上が直接復職の可能性と直結するうえで有効であるとされている (倉持,2009).本症例では,模擬的就労訓練を通じて行動計画の立案・実行が可能となったが,「左を意識すると疲れる」という新たな問題点が生じた.半側空間無視に対するトップダウンアプローチは,左側の注意が向きやすくなり無視空間への注意を高めるとされている (菅波,2018)ため,環境を設定して意識的に左空間に注意を向ける行動を習慣化したことが,復職に至った一要因であると考えた.