[PA-4-6] ADOCの使用とともに作業の文脈の変化に着目して目標共有を行なった失語症を伴う右片麻痺の一例
【はじめに】近年,言語表出が困難な失語症者へ作業選択意思決定支援ソフト(Aid for Decision-making in Occupation Choice: 以下,ADOC)を使用した目標共有について,その有用性を示唆する報告が多くみられている.今回,失語症及び右片麻痺を呈した症例に対しADOCを使用することで有効な目標共有ができた.また,作業の文脈の変化を捉えることで,より明確な目標共有及びシームレスなOccupational Engagement(以下,作業との結び付き)への介入ができた為,ここに報告する.尚,本報告にあたり症例及び家族に同意を得た.
【症例紹介】70代女性,右利き,夫・息子との3人暮らし,近所に妹がいる.病前日常生活動作(以下,ADL)自立,妻・母親として家事全般を1人で行なっていた.肺がん術後,左中大脳動脈領域に脳梗塞発症.51病日に当院回復期病棟へ転院,同日作業療法(以下,OT)開始.転院時Brunnstrom Stage(以下,BRS)上肢Ⅱ手指Ⅰ下肢Ⅱ,全般性注意障害,右半側空間無視,重度運動性・感覚性失語あり.基本動作は移乗・歩行に重度介助,ADL全般に中等度〜重度介助を要した.FIM運動項目16点,認知項目8点.
【経過】
第Ⅰ期: 目標設定に難渋した時期(51〜181病日) 失語・全般性注意障害が残存し,症例との目標共有が困難であった.介入当初はセラピストが介入を決定し,基本動作・ADL動作訓練を中心に行なったが,訓練に対し消極的な反応が多く見られた.
第Ⅱ期: ADOCによって目標設定し調理訓練を開始した時期(182〜228病日) 右半側空間無視・感覚性失語の改善に伴いADOCを使用し, 排泄・料理・家族との交流・言語での会話を目標の作業として設定した. 料理については”妻・母親としての役割の維持”,”自分の楽しみとしての料理”の2つの意味があること,その時点では前者がより強いことを妹同席のもとクローズドクエスチョンによる面接にて確認した.利き手交換し左手で調理訓練を開始すると笑顔が増え,ADL訓練も意欲的に行うようになった.また,入院中の調理自立は困難と予測し, “妹と一緒に時々料理を作る”を退院後の目標として症例・妹と共有し,妹同席のもと調理訓練を行った.入浴以外ADL動作が自立し,228病日に自宅退院となった.退院時FIM運動項目65点,認知項目24点.
第Ⅲ期: ”自分の楽しみとしての料理”の獲得に向けた訪問OTの導入(229病日〜) 退院前面談にて妹が退院後の料理について「いくら妹でも他人の台所に私1人では入りづらい」と話された.そこで訪問OTの訓練に妹が同行することを提案すると快諾され,訪問OT導入となった.261病日,訪問OTで症例にクローズドクエスチョンによる面接を行い,料理の意味として”自分の楽しみとしての料理”の割合が増加していることを確認した.同日,”楽しみとして妹と料理を行う”を目標として設定し症例・妹と共有した.
【結果(261病日)】BRS上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅳ,重度運動性失語残存,聴理解は7割程度可能.基本動作は立ち上がりまで自立,歩行見守り.ADOC満足度:料理1(初回評価時)→3.
【考察】ADOCの使用は言語表出が困難な症例への目標共有に有効であった.料理という作業の意味の変化は,脳梗塞後に生じた心身機能の変化により,利き手交換や役割の変化など,症例にとって作業の形態や機能が変化したことが影響したと考える.また,作業の意味の変化に応じて目標を調整したことは料理の満足度改善に寄与したと考える.妹が症例宅へ入ることへの抵抗感という社会文化的要素に介入したことは,退院後の症例の目標と,作業との結び付きの維持に必要であった.今回の経験から,ADOCの使用とともに作業の文脈の変化を捉えることは,より良い目標共有及び作業の結び付きの向上に有効である可能性が示唆された.
【症例紹介】70代女性,右利き,夫・息子との3人暮らし,近所に妹がいる.病前日常生活動作(以下,ADL)自立,妻・母親として家事全般を1人で行なっていた.肺がん術後,左中大脳動脈領域に脳梗塞発症.51病日に当院回復期病棟へ転院,同日作業療法(以下,OT)開始.転院時Brunnstrom Stage(以下,BRS)上肢Ⅱ手指Ⅰ下肢Ⅱ,全般性注意障害,右半側空間無視,重度運動性・感覚性失語あり.基本動作は移乗・歩行に重度介助,ADL全般に中等度〜重度介助を要した.FIM運動項目16点,認知項目8点.
【経過】
第Ⅰ期: 目標設定に難渋した時期(51〜181病日) 失語・全般性注意障害が残存し,症例との目標共有が困難であった.介入当初はセラピストが介入を決定し,基本動作・ADL動作訓練を中心に行なったが,訓練に対し消極的な反応が多く見られた.
第Ⅱ期: ADOCによって目標設定し調理訓練を開始した時期(182〜228病日) 右半側空間無視・感覚性失語の改善に伴いADOCを使用し, 排泄・料理・家族との交流・言語での会話を目標の作業として設定した. 料理については”妻・母親としての役割の維持”,”自分の楽しみとしての料理”の2つの意味があること,その時点では前者がより強いことを妹同席のもとクローズドクエスチョンによる面接にて確認した.利き手交換し左手で調理訓練を開始すると笑顔が増え,ADL訓練も意欲的に行うようになった.また,入院中の調理自立は困難と予測し, “妹と一緒に時々料理を作る”を退院後の目標として症例・妹と共有し,妹同席のもと調理訓練を行った.入浴以外ADL動作が自立し,228病日に自宅退院となった.退院時FIM運動項目65点,認知項目24点.
第Ⅲ期: ”自分の楽しみとしての料理”の獲得に向けた訪問OTの導入(229病日〜) 退院前面談にて妹が退院後の料理について「いくら妹でも他人の台所に私1人では入りづらい」と話された.そこで訪問OTの訓練に妹が同行することを提案すると快諾され,訪問OT導入となった.261病日,訪問OTで症例にクローズドクエスチョンによる面接を行い,料理の意味として”自分の楽しみとしての料理”の割合が増加していることを確認した.同日,”楽しみとして妹と料理を行う”を目標として設定し症例・妹と共有した.
【結果(261病日)】BRS上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅳ,重度運動性失語残存,聴理解は7割程度可能.基本動作は立ち上がりまで自立,歩行見守り.ADOC満足度:料理1(初回評価時)→3.
【考察】ADOCの使用は言語表出が困難な症例への目標共有に有効であった.料理という作業の意味の変化は,脳梗塞後に生じた心身機能の変化により,利き手交換や役割の変化など,症例にとって作業の形態や機能が変化したことが影響したと考える.また,作業の意味の変化に応じて目標を調整したことは料理の満足度改善に寄与したと考える.妹が症例宅へ入ることへの抵抗感という社会文化的要素に介入したことは,退院後の症例の目標と,作業との結び付きの維持に必要であった.今回の経験から,ADOCの使用とともに作業の文脈の変化を捉えることは,より良い目標共有及び作業の結び付きの向上に有効である可能性が示唆された.