[PA-5-1] 失行症に対する戦略的訓練に視覚的手がかりとして動画を用いた介入が奏功した一例
コーチングを用いたことでメタ認知が変化した一例
【はじめに】失行に対する戦略的訓練や身振りを用いた訓練を行うことは妥当とされ,聴覚的,視覚的手がかりを用いた介入がある.今回,観念失行,観念運動失行に加えウェルニッケ失語を呈す症例に,動画を用いた視覚的手がかりにより道具の使用の改善を認めたため報告する.本報告は口頭及び書面にて本人,家族に説明し同意を得た.
【症例紹介】80代男性.構音障害と右不全麻痺を主訴に受診し,心原性脳塞栓症(左MCA皮質枝領域後部)の診断で当院急性期病棟へ入院した.抗凝固療法による保存的治療と並行し,発症3病日よりリハビリテーション開始,17病日に回復期リハビリテーション病棟に入棟し担当となった.
【作業療法評価】著明な麻痺症状は観察されず,高次脳機能障害は失行,ウェルニッケ失語を呈した.理解は単語とジェスチャー,状況判断で一部可能,表出は音韻性錯語,新造語が頻発した.失行スクリーニング検査は,作業療法士(以下,OT)の模倣で慣習動作は拙劣,パントマイム,道具の使用は錯行為があり, 口頭指示では困難であった.口頭指示やOTの模倣は行為の目的の理解が困難であり,動作の改善に効果が乏しかったが,動画の提示では動作が惹起された.新たな内容に混乱を示すことも観察された.FIMは58/126点(運動項目42点,認知項目16点)であった.
【作業療法計画】道具の使用で誤反応を観察した歯磨き動作,シャワーヘッド操作の改善を目標として設定した.動作の惹起が可能であった動画が,反復や学習を促進する手がかりになると推測し,統一した視覚情報で運動結果の提示,工程の分割,反復が可能な動画(タブレット端末で撮影したOTが行う正常な動作の動画)を用いた.方法は,対象動作の動画を示した後,模倣する順序で行った.段階付けは,①一連の動作と工程毎に区切った部分的な動画を提示,②一連の動作の動画のみ提示,③動画提示なしとした.
【経過】歯磨き動作は20病日より介入を開始した.初期は動作開始に戸惑う等観察された.①の提示方法で徐々に改善し,34病日で②の提示方法で可能,41病日で動画の提示なく可能となった.シャワーヘッド操作は42病日より介入を開始した.初期はシャワーヘッドを身体を拭く道具として使用する等の誤反応があった.①の提示方法から行い,67病日で②の提示方法で可能,77病日で動画提示なく可能となった.道具の使用は病棟生活で使用する物品で錯行為はなく,FIMは83/126点(運動項目67点,認知項目16点)であった.
【考察】本症例は失行,ウェルニッケ失語を呈し,口頭指示やOTの模倣命令は動作の改善に効果が乏しく,新たな内容に混乱を示すことも観察された.今回,言語を介さず,統一した視覚情報で提示可能な動画を使用し,模倣の促しと誤反応の改善を目指した.先行研究より,模倣は下頭頂小葉が関与し,運動結果が明らかであれば途中経過がなくても反応する(村田,2005)とされ,運動結果の予測を促進する介入が失行を改善する(信迫ら,2018)とされている.動画は連続性があり先行した運動結果の提示が可能なため,運動結果の予測を促進し,模倣動作が惹起されたと考える.また,毎回異なる介入方法は混乱を招き動作の定着がしがたい(大貫,2014)とされている.動画を選択したことで,再現性のある統一した情報で訓練を提供でき,混乱を招かず各工程の反復を促進し,動作の定着や対象動作における道具の使用の改善に寄与したと考える.一方で失行に正常な動作の動画を用いた報告は散見されず,本報告も一症例の検討であり,有効性について今後事例を重ね検証する必要がある.
【症例紹介】80代男性.構音障害と右不全麻痺を主訴に受診し,心原性脳塞栓症(左MCA皮質枝領域後部)の診断で当院急性期病棟へ入院した.抗凝固療法による保存的治療と並行し,発症3病日よりリハビリテーション開始,17病日に回復期リハビリテーション病棟に入棟し担当となった.
【作業療法評価】著明な麻痺症状は観察されず,高次脳機能障害は失行,ウェルニッケ失語を呈した.理解は単語とジェスチャー,状況判断で一部可能,表出は音韻性錯語,新造語が頻発した.失行スクリーニング検査は,作業療法士(以下,OT)の模倣で慣習動作は拙劣,パントマイム,道具の使用は錯行為があり, 口頭指示では困難であった.口頭指示やOTの模倣は行為の目的の理解が困難であり,動作の改善に効果が乏しかったが,動画の提示では動作が惹起された.新たな内容に混乱を示すことも観察された.FIMは58/126点(運動項目42点,認知項目16点)であった.
【作業療法計画】道具の使用で誤反応を観察した歯磨き動作,シャワーヘッド操作の改善を目標として設定した.動作の惹起が可能であった動画が,反復や学習を促進する手がかりになると推測し,統一した視覚情報で運動結果の提示,工程の分割,反復が可能な動画(タブレット端末で撮影したOTが行う正常な動作の動画)を用いた.方法は,対象動作の動画を示した後,模倣する順序で行った.段階付けは,①一連の動作と工程毎に区切った部分的な動画を提示,②一連の動作の動画のみ提示,③動画提示なしとした.
【経過】歯磨き動作は20病日より介入を開始した.初期は動作開始に戸惑う等観察された.①の提示方法で徐々に改善し,34病日で②の提示方法で可能,41病日で動画の提示なく可能となった.シャワーヘッド操作は42病日より介入を開始した.初期はシャワーヘッドを身体を拭く道具として使用する等の誤反応があった.①の提示方法から行い,67病日で②の提示方法で可能,77病日で動画提示なく可能となった.道具の使用は病棟生活で使用する物品で錯行為はなく,FIMは83/126点(運動項目67点,認知項目16点)であった.
【考察】本症例は失行,ウェルニッケ失語を呈し,口頭指示やOTの模倣命令は動作の改善に効果が乏しく,新たな内容に混乱を示すことも観察された.今回,言語を介さず,統一した視覚情報で提示可能な動画を使用し,模倣の促しと誤反応の改善を目指した.先行研究より,模倣は下頭頂小葉が関与し,運動結果が明らかであれば途中経過がなくても反応する(村田,2005)とされ,運動結果の予測を促進する介入が失行を改善する(信迫ら,2018)とされている.動画は連続性があり先行した運動結果の提示が可能なため,運動結果の予測を促進し,模倣動作が惹起されたと考える.また,毎回異なる介入方法は混乱を招き動作の定着がしがたい(大貫,2014)とされている.動画を選択したことで,再現性のある統一した情報で訓練を提供でき,混乱を招かず各工程の反復を促進し,動作の定着や対象動作における道具の使用の改善に寄与したと考える.一方で失行に正常な動作の動画を用いた報告は散見されず,本報告も一症例の検討であり,有効性について今後事例を重ね検証する必要がある.