第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-5-14] 上肢集中訓練を行うことで自己導尿動作が自立に至った一例

鈴木 裕也 (島田市立総合医療センター リハビリテーション指導室)

【始めに】
 今回脳幹梗塞後右片麻痺を呈したA氏を担当し,自己導尿動作の獲得を目的に訓練を行った.その結果,動作を獲得し自宅退院に至ったため報告する.尚,本報告に際して症例より同意を得ている.
【基本情報】
 80代前半男性,右利き,妻と息子と3人暮らし,ADL自立していたが,前立腺癌術後より,自己導尿動作を行っていた.21病日に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院した.
【初回評価】(21病日~23病日)
 Brunnstrom Recovery Stages(以下BRS)上肢5 手指5 下肢5,Fugl-Meyer Assessment(以下FMA) 51点,簡易上肢機能検査(以下STEF)右38点 左84点,Motor Activity Log(以下MAL) Amount of Use(以下AOU) 1.6点,Quality of Movement(以下QOM) 1.2点であった.明らかな感覚障害,認知機能低下はなかった.機能的自立度尺度(以下FIM)84点,排尿管理は尿道留置カテーテルを使用し,後始末を介助者が行うため1点だった.竹串を用い模擬的に自己導尿動作を評価すると,導尿カテーテルを適切な強さでつまむ動作が困難だった.A氏は自己導尿動作を含むADLの自立を希望された.
【介入計画】 
 右上肢の運動麻痺と生活での使用頻度低下が,自己導尿動作の遂行を妨げる要因となっていると考えた.それに対して脳卒中治療ガイドライン2021にて推奨されているCI療法を基盤とした上肢集中訓練を実施することとした.まず,反復課題指向型アプローチのShapingを行い,運動麻痺の改善を図る.その後,Task practiceで自己導尿動作を重点的に訓練し,動作能力を改善させる.最終的にTransfer packageにて自己導尿動作を実生活で行うよう促すこととした.
【介入経過】(24病日~87病日)
 Shapingにてアクリルコーン,ペットボトルの移動を行い肩関節の分離を促した後,ペグの移動,粘土をつまむ,紐を結ぶ動作を行い,手関節以遠の分離も促した.
 Task practiceにて竹串を模擬的に扱い,自己導尿動作の訓練を行った.その後,実際の動作を行うため,看護師同伴で尿道留置カテーテルを抜去,導尿カテーテルを用いて訓練を行った.挿入時にカテーテルを操作し方向を定位する動作に難渋したため,短くつまむよう口頭指示を行った. 
 Transfer packageにて自己導尿動作を実生活でも行うよう促そうとしたが,まだ,歩行自立に至っていなかったことと,口頭指示を要したことから,看護師の見守りの元,1日3回行って頂くこととした.病棟での繰り返しの訓練を経て,動作が自立し,91病日に自宅退院となった.
【最終評価】(87病日~89病日)
 変化のあった項目のみ記載.FIM 120 点,排尿管理 6点,BRS上肢6手指6下肢5,FMA 65点,STEF 右90点 左91点,MAL AOU 4.5点 QOM 4.5点であった.
【考察】
 臨床上の意味のある最小重要差であるMinimal Clinically Important Difference(MCID)は,Aryaら(2011)がFMAは9~10点,Vanら(1999)がMALは0.5点と報告している.今回の変化量はそれらを上回っており,介入によって右上肢の運動麻痺の改善と生活での使用頻度向上が得られたと言え,自己導尿動作獲得の要因となったと考える.
 本介入では病棟看護師と協力し,病棟で訓練が行えるよう環境設定も行った.竹林(2018)は訓練量を担保するマネジメントのひとつとして,ほかの医療スタッフと連携を図ることを推奨している.作業療法の時間では自己導尿動作の訓練は1日1回が限界だったので,看護師と協力し訓練量を担保できたことも,自己導尿動作獲得の要因となったと考えた.