[PA-5-16] 生活期の卒中者に対し立位でPSBを使用できるスタンドを導入することで理容師としての復職の可能性が見出せた一例
事例報告
【はじめに】近年,脳卒中後の上肢麻痺に対してのリハビリテーションのゴールについては,機能改善よりも,麻痺手を用いた行動変容やそれに伴うQuality of movementの改善が重要視されている(Belenら2022,Kellyら2018).作業療法における麻痺手に関する目標設定としては,ADL・IADLなどの身辺動作に留まらず,自動車運転や復職など内容は多岐に渡る.本邦における脳血管疾患患者数の状況について,厚生労働省の示すデータでは,1996年から2017年までに全体の患者数は減少しているものの,内訳としては勤労者世代である20〜59歳の割合としても全体の1割程度存在している.これらの対象者に対する社会復帰に向けた支援はリハビリテーションの中で取り組むべき重要な課題であると思われる.麻痺手の使用を含む行動変容に影響を与える可能性が高いアプローチとしてはCI療法がある.CI療法は適応の狭さに対する指摘もあるが,電気刺激装置や装具,ロボットを用いることで,CI療法の導入を実現させ,一定の成果を挙げた報告が複数ある.一方,機能改善が得られない場合は,上肢・手指装具や,Portable Spring Balancer(PSB)などの補装具を用いることで目標動作を実現させる取り組みも散見される.今回,経過を通して,本人の望む機能改善が得られなかったものの,理容師として必要な麻痺手でのコーム操作を実現させるために,PSBと立位でPSBを使用することのできるスタンドを導入することで,復職への可能性を見出だせた一例の経過に考察を加え報告する.尚,発表に際し書面を用いて説明し本人より同意を得ている.【対象・方法】対象:40歳代,男性.アテローム血栓性脳梗塞を急性発症後,急性期治療を終え当院回復期リハ,外来リハを利用,介護保険への移行に伴い,発症42週より自主トレーニングの実施を目的として,通所リハ開始となった.上肢機能評価は,Fugl-Meyer Assessment(FMA)27/66点,Action Research Arm Test(ARAT)11/57点,Motor Activity Log(MAL)Amount of use・Quality of movementともに0/5点で生活上は非麻痺手ですべての生活行為を行っていた.認知機能は検査および観察から問題を認めなかった.方法:発症100週より,復職への強い希望が聞かれ,通所リハにおける個別リハの枠組みの中で,1日1時間,週1回の介入を25週に渡り実施した.内容としては,ReoGo®-Jを用いた自主トレーニングに加え,IVES+を併用した単関節の反復運動や復職を想定した上肢の空間操作練習を中心に実施した.【経過】発症より121週にPSBを提案し,翌週より練習開始.立位でのPSBの使用に際し昇降テーブルを用いたが,不安定さとリーチ範囲の不十分さを認め,立位で使用できるスタンドのデモを提案.131週に業者とともに使用感確認し,不安定さの解消とリーチ範囲の拡大を認め,「これならできるね」「練習したらもっと上手くできそう」との発言が聞かれた.【結果】上肢機能評価に大きな変化は認めなかったものの,PSBとスタンドを導入することで,理容師として必要な立位での両手動作が可能となった.【考察】PSB やMOMOシリーズを含む上肢装具支給状況については,2011〜2022年における,さいたま市の例ではあるが,対象疾患は筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,脊髄損傷,脊髄性筋萎縮症,脳梗塞で,使用目的は食事・書字・読書・PC・整容であった(井上ら,2024).このように,前述の上肢の補装具は,基本的に座位で使用されてきたが,立位での使用が可能となるようなスタンドを追加導入することで,使用範囲や用途の拡大やそれに伴う,本人の望む作業の再開や目標達成に繋がる可能性が示唆された.