第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5 

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-5-17] 箸操作と書字動作の関連性について

NOMA手上肢機能診断を使用して

伊東 璃海1,2, 松澤 良平1 (1.IMS(イムス)グループ イムス板橋リハビリテーション病院 リハビリテーション科, 2.かとう鶴見整形外科クリニック リハビリテーション科)

【はじめに】軽度上肢麻痺の方にNOMA手・上肢機能診断(以下:NOMA)を用いて,書字に対して介入したところ,書字のスピードが改善した.その後,普通箸の使用については介入しなかったが,使用が可能となった事例を経験した.書字動作と箸操作の手指運動の関連性を考察することで,箸操作に対する作業療法の一助となる可能性が示唆されたため報告する.本発表については,本人に口頭および書面で同意を得た.
【事例紹介】A氏,50代男性.X日に左脳梗塞を発症した.病前は営業職として働いていた.著明な感覚障害,高次脳機能障害は見られなかった.書字はスピード,質ともに低下が見られており,実用的ではなかった.箸に関しては,優先度が低かった為,書字動作中心の介入を実施した.X+71日に書字動作に対してNOMAを使用した手指の問題点の抽出を実施した.
【作業療法評価】右上肢機能として,Br.stageは上肢VI,手指VI,FMAは64点,STEFは右上肢97点,左上肢98点,ARATは57点であった.NOMAにてA,B,D,E,Hの項目では,治療的訓練の必要性が少ないレベルであり,C手の動きのパターン(以下C),Fスピード課題(以下F),G正確さ(以下G)にて著明な拙劣さが確認された.Cでは,ケータイのキー押し課題にて,上から三番目(poor)となった.箸の開閉課題では,保持方法はAV型(Pincers Pinching)であることが確認され,poorであった.Fでは健側30回,患側14.5回と左右差が著明に見られた.Gでは,筆記具の保持方法はAb-D型であることが確認された.上記の検査結果から,Ab-D型の書字動作に必要な手指の動作のために,母指と示指の分離,母指の出力の改善,母指CM・MP・IP関節,示指-中指PIP・MP関節の協調運動改善が必要だと考えた.
【介入】介入中は手内在筋の出力向上目的で感覚閾値での電気刺激療法を併用しながら実施した.母指と他指の分離に対しては,固定されたボルトに母指または示指でナットを回して閉める課題などを実施した.スピード,出力に対しては母指や他指のタッピング課題を実施した.母指,示指-中指の協調性に対しては,分離課題で使用したナット課題を母指のみや示指-中指のみでの実施,スマホを使用したスワイプ課題を実施した.実動作練習として筆記具を使用した縦線,横線課題,図形の模写課題を実施した.介入頻度は毎日,1日1-2時間であった.箸の使用に対しては全く介入しなかった.
【結果】X+79日にNOMAの再評価を実施した.NOMAのCケータイのキー押し課題にてPoorからGood(最も良い)まで改善が見られた.Fスピード課題で健側30回,患側24回と左右差が少なくなった.書字では,100文字を2分と成人男性平均程度まで獲得ができた.箸操作に関しては,作業療法で介入しなかったがNOMA評価上では,Goodとなり,小豆のピンチや実動作での食事も普通箸で可能となった.
【考察】箸操作では,AV型では,操作遠位箸では,開閉時に母指の引き寄せ(巻き上げの変種),押し出し(CM関節屈曲,MP,IP関節伸展でつきだしの変種)が必要で,示指,中指では巻き上げ,つきだしが必要かつ,母指/示指,中指の分離が必要であり,示指と中指の箸を閉じる際PIP関節屈曲,MP関節伸展となる協調運動の運動シナジーが,虫様筋など内在筋の動きを反映している.つまり,書字への介入にて箸操作に必要な手指の要素含んでいたことが実動作練習や箸操作に対する介入を行わず箸操作の獲得に繋がったと考える.このことから,NOMAを使用して手指の問題点を抽出し介入を行う事は箸操作に対する介入の難易度調整やプログラム立案に有用である可能性が示唆された.今回は単一事例であり,今後複数の事例に対する有用性を検討したい.